成陵御霊神社 2


「ちょっと、おにいちゃん。それあたしの」

 伸也は恵子のヨーグルトをひょいっと持って行った。

「いいじゃん。減るもんじゃないし」

「減るよっ! もうー」

 恵子はいつもどおり、成陵西高校指定の制服を着て、スマートフォンをいじりながら朝食を摂っていた。

「ケンカしないのよ」

 母の弘子がいつものトーンで話してくる。

「おにいちゃんが悪いんだよ。だいたいなんでこんな早いの?」

 大学生である兄は、普段恵子が出かけた後に、起きてくるのだ。

「いいだろ別に」

「めーわくだ。人のヨーグルトとるもん」

 ぷいっとスマートフォンに目をやると、いずみからメッセージが届いていた。


――なあ。昨日、マジ、ツラかったんだけど

――どうしたの?

――どうしたもこうしたも視えるんだよ

――なにが?

――病室にも廊下にも至るところにいるんだよ

――もしかして、ゆうれい?

――あぁ、だろうな。おかげで兎我野の疑いは晴れたよ

――幽霊、信じるの?

――肉眼で視えるし、ケガもしてるし、信じざるを得ないだろ

――襲ってきたの?

――いや、この前みたいに襲ってきたら敵わねぇから、ずっと無視した

 いずみは少し間を置いて続けた。

――あいつら自分らが気づかれてないと思ったら襲ってこないらしい。まるでゾンビ映画だな

――大丈夫だったの?

――まぁな。病室をうろうろするジジイがいたり、ベッド横から覗いてくる老婆とか、首をつって足をぶらぶらしている陰が仕切りのカーテンに映っていたりしたけど、なんとかなった

――うわ……。なんとかって

――おかげで寝不足だわ


「おい、恵子? お前顔色悪いぞ?」

 突然、兄に呼びかけられた。

「あ、うん。大丈夫」

 よりにもよって想像してしまったのだ。夜中の病室を歩き回る老人や足をぶらぶら揺らしている姿を。


「それでは、今日の占いカウントダウン!」

 聞き慣れた軽快な占いコーナーが始まった。現実に戻ってきた感じがした。

「恵子、遅れるわよー」と、母親が弁当を手渡してきた。

「いってきまぁす」

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