成陵西高校の教室 13



 俺は街灯がまばらな住宅街をひとり歩いていた。時刻は午前二時。

なるべく人目につかないよう遅い時間に家を出た。目的地は決まっている。神社だ。こんな時間に神社に行くなど、まるで丑の刻参りのようだ。まあ、理由は似たようなものではあるが。

 西成陵町三丁目の角を曲がると、突如、道路の右側の敷地に鬱蒼とした木々が現れた。樹木の群れはその区画一角をすべて覆うようにあり、街灯がなく、漆黒の闇が広がっている。

 道路と樹木がある敷地の隔たりは玉垣で区切られている。玉垣の一つ一つの石には、神社修繕に寄進したと思われる者の名前が刻まれているようだが、所々砕けてしまっていてはっきりと文字が読めないものもある。

 その玉垣沿いを半分ほど進むと、「成陵御霊神社」と彫られた標石が立っていた。身の丈ほどの大きさの標石の横には、神社へと通じる随身門が立っている。鳥居は見当たらない。

 木造立ての随身門は一層構造でそう大きくはない。扉はついてないので、この時間でも境内に入ることができる。随身門の左右の柱には、弓矢と剣を武装した武士像が安置されており、暗闇の中でその姿はわずかな輪郭としてしか認識できないが、目だけははっきりとこちらを見ているのが見える。白と黒で目の部分のみ塗装が施されていて、仏のような細い目でこちらをじっと見つめている。今にも動きだし、神社への侵入を阻止するべく攻撃してきそうだ。

 俺は左右の武士像を脇目に随身門を足早に抜けた。

 本殿からろうそくの揺れるような灯りが漏れている。まだ誰かいるのかもしれない。

 しかし俺の目的は本殿ではない。本殿に伸びる参道から脇へそれて、林の中に入る。

 ポケットライトをつけて足下を照らした。目的の場所には舗装された道はない。

 アレがここに祀られていることは知っていた。アレがどのような役割をするのかもある程度知っていた。ただ、それは歴史的文献によるもので、実際にそのような効果があるのかは分からない。いや、ないだろう。全くもって信じがたい。単なる祭事用の鏡にすぎないのだ。しかし、それでも試してみたいと思った。何かが変わるなら、試す価値はあるのだと。

 昼間に下見をしていたから、迷わずに目的の場所についた。下見をしていなかったら、暗闇の林の中で迷っていただろう。


 目の前には古びた小さな祠がある。俺は格子状になっている扉に手をかけた。ギィーと軋む音がして、扉が開いた。中から目的の鏡を見つける。あったぞ。鏡を手に取り、鞄からペットボトルを取り出す。

 今夜は月が綺麗だ。林の間から煌々と輝く月が見えた。俺は早速、儀式を始めた。

 死者を生き返らせる儀式を。


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