成陵西高校の教室 10


 はっ、と飛び起きた。辺りを見回し、高校の教室であることを認識し、安堵する。

 恵子はいつの間にか眠ってしまったようだった。幼い頃見た夢を、悪夢のように再び見た。

 あの日、恵子は近所の公園のジャングルジムから転落し、意識不明の状態となっていたのだった。

 今見た夢よりももっと現実味がある感じだったが、どこか作られたドラマを見るような、淡々と進められていくストーリーを一歩下がって見ている感覚も同時にあった。

 目覚めると、白衣を着たたくさんの大人たちが恵子を囲むように覗き込んでいた。

 その後、たくさんの検査を経て、命に別状がないことが分かり、一般病棟へ移されたのだ。

 一番初めにいずみがお見舞いに来てくれたのを覚えている。いずみはベッドの脇から顔を出し、一枚の絵を渡してくれた。そこには恵子といずみがうさぎとクマのぬいぐるみで遊んでいる絵が描かれていて、つたないひらがなで「けいこさやん、はやくおくなっね」と書いていた。その絵は今でも恵子の部屋に大事に保管してある。

 事故の記憶はあまり残っていないが、いずみのお見舞いのことは覚えている。

 小学校卒業間近に、あの夢を見たことがあり、当時のことを母に聞いたことがあった。

 母曰く、「あの時の夢に出てきた母親は、死神だったのではないか」ということだ。

 夢を見ていた時、死の淵に立たされていた状態だったし、死神だったとしてもおかしくない。

 特に幽霊が存在していると知った今では、そういうものが存在していても何ら不思議ではない。

 もしあの時、夢で見たものが、死神だったとして、恵子を連れに来ていたのなら、いずみが助けてくれたことになるのだ。恵子があの世に連れて行かれそうになるのをいずみが引き留めてくれた。

 そして、今回もいずみに助けられた。恵子に襲いかかってきた男の幽霊を、いずみは全身で守ってくれた。

 恵子の自分勝手な行動に振り回されたのに。

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