成陵西高校の教室 7



 ザーっと大粒の雨が降り出していた。一瞬、何が起こったか分からなかった。血を流し地面に倒れているいずみを見るまでは。

「いずみっ!」

 いずみの腕からは鮮やかな血が流れ出ていた。その血の色はあまりにも赤く、まるで世界が朱色だけで存在しているようだった。

 男はいずみに馬乗りになった。

「やめて!」

 恵子はただ叫ぶことしか出来なかった。

 男はいずみの顔めがけて、包丁を大きく振りかざした。

「しねーっ!」

 叫び声が響く。叫んだのは男ではなかった。恵子でもいずみでも、まして奈津美でもなかった。

 声のした方へ振り向くと、そこには巫女が立っていた。先ほど追いかけてきた女に間違いない。巫女は睨むような鋭い目つきで、こちらに向かって何かを数回に渡って投げてきた。

 投げた物は、男めがけて一直線に飛んでいき、身体に貼り付いた。長方形の和紙でなにやら字が書いてある。貼り付いた数枚の和紙は、帯状へと変化し、そのまま男を締め付けた。極限まで締め上げられた男は、破裂するかのように、一瞬で黒い塵へと化した。夜なのに夜の暗さよりも黒い塵となって、いずみの上へと降り落ちる。

「逃げて! その黒い塵はまた復活するわっ!」

「あなたは……」

「そんなのいいから! 早くその子、病院へ」

 黒い塵は、蟻のように蠢いて、人の形を作り始めている。

「わ、分かった。助けてくれてありがとう」

 恵子は巫女にお礼を述べると、いずみの肩を持ち、雨の中、高級住宅地を降りていった。

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