成陵西高校の教室 4
猫は人に馴れているのか、近寄っても全く警戒せずに、恵子たちを見ている。ブラウンとシルバーを織り交ぜたような色で、金色の目をした凜々しい猫だ。オスかメスかは分からない。
「にゃあーん」高い声で鳴いた。
「きゃーあ、かわいいっ!」
しゃがみ込んだ奈津美は猫の頭を撫でる。
「にゃあーん」
再び鳴くと、くるりと向きを変え、林の方へ向かって歩き出した。
「あ、ねこしゃん、待ってぇー」
奈津美は猫を追うように軽やかに歩き出した。それはまるで王子様とお姫様がお花畑であははは、と戯れているかのような、そんな軽やかさだ。
「奈津美、完全に自分の世界に行ったな」
いずみがすっと自分の傘を差し出してくれた。
「……だね」
二人は、猫と奈津美の後を追った。林の入り口には、『この先、関係者以外立ち入るべからず』という手書きの立て札と、たるんだロープが張ってあった。林への侵入を気持ちばかり抵抗しているようだが、奈津美はひょこっとロープをまたぎ、そのまま林の奥へと進んでいった。
「ねこしゃーん。どこ行くのー?」
「くうー! かわいいねぇ」
「待ってよー、雨に濡れちゃうよ」
「なでなでさせてよー」
夕暮れ時の暗い林の中、雨の音に混じって、フェミニンな声が響く。
猫は時々立ち止まっては、こちらを向き、またくるりと向きを変え歩き出す。まるで三人が着いてきているのを確かめているようだった。
「だいぶ、奥まで入ってきたな」
「う、うん」
恵子は後ろを振り向くが、入ってきた入り口はもう見えなかった。葉に滴る雨の音だけが静かに響く。この林が永遠に続いているかのような静寂が襲う。
どことなく鎧武者がいた踏切脇の雑木林似ている気がした。
「奈津美、そろそろ戻ろうよー」
急に怖くなった恵子は弱々しく呼びかけた。
「みゃーお」猫が足を止め、静かに鳴いた。
ざわざわざわと風が吹き、林が音を立てた。
「なんだ、これ……?」
立ち止まった猫の前には小さな祠が建っていた。祠は石造りの土台の上に切妻屋根を備えた木造のもので、正面には格子状の観音開きの戸がついている。戸には南京錠が掛けられていた。
「にゃああ!」
「あ、ねこしゃん、まってー!」
恵子たちが祠を確認したのを見ると、猫は突然、林の奥へ走って行った。
奈津美が追いかけようとしたが、いずみに腕を掴まれ、「うぎゅぎゅぎゅ……」と変な声を出した。
「ふたりとも、ちょっと見て。ここに『鍾馗』って書いてある!」
扉の上に祠の名称と思われる札が掛かっていた。そこには筆で『鍾馗神堂』と書かれていた。
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