成陵西高校の教室 3
境内に入ると、中央の本殿に向かって一直線に石畳が延びており、そのまわりには細かい砂利が敷き詰められていた。
サーサーと雨粒が砂利に当たり、静かな音を奏でている。
本殿の前には大きな階段が設置されており、その上にコンビニエンスストアが二つ重ねられたぐらいの大きさの拝殿が建っている。正面向かって左側には、プレハブ小屋程度の大きさの社務所と宝物殿が並んでいる。
右側には手水舎があり、その奥には鬱蒼とした林が広がっていた。幼い頃の記憶と変わらない神社である。
「さて、どうする?」
兎我野の手がかりを見つけるとしてもどのように探せば良いのだろうか。
「あそこ、人が居そうだし、直接聞いてみたらどうかな?」
奈津美は社務所を指差す。社務所脇には小さな売店があり、護摩符やお守り、数珠などが売っている。蛍光灯がついているので誰か居るのだろう。
「それはやめておこう。兎我野の味方かもしれないし」
「そっか、そうだね、さすがいずみちゃん、頭良い!」
「で、どうすんの?」
いずみが振り返りながら尋ねた。
「んー。どうしよう」
「いずみちゃん。せっかくだからお参りしていこうよ。恵子ちゃんも」
そう言うと奈津美は拝殿に向かって歩き出した。
階段を上り、賽銭箱の前に来る。拝殿の屋根の下に来ると、雨の音が吸収され、より静かに聞こえる。傘を閉じ、屋根を見上げた。
黒茶色の木造建築が歴史を感じる。ひょっとしたらコンビニ三つ分ぐらいの大きさかもしれない。
財布から五円玉を取り出し、賽銭箱に投げた。カコン。
――カランカラン。パンパン。大きな鈴を鳴らし、手を叩き目をつぶる。
――カランカラン。パンパン。いずみか奈津美も後に続く。
――カランカラン。パンパン。
――いつまでも三人仲良くいれますように。
「何、願ったの?」いずみの顔を覗き込んだ。
「なんで、あんたに言わなきゃなんないのよ」
「えー、イイじゃんかー。減るもんじゃないし」
「わたしはねー、今読んでる小説の第四巻が早く出ますようにって」奈津美はにっこり笑った。
「え。それ神様に頼むことじゃないよね」
二人から総ツッコミが入った。
拝殿には特に変わったところもなく、再び傘を指し、階段を降りた。
「わぁー!」
突然、奈津美が驚いた様子で声を上げた。
「なに? どうしたの?」
「見て、あそこ」
奈津美は、メガネの奥で目をキラキラ輝かせながら、一点を見つめている。
奈津美の目線の先を追うと、手水舎の屋根の下に、灰色っぽい猫がちょこんと座っているのが見えた。
「ねこしゃん! ねこしゃん!」
傘を持ったまま、奈津美は上下に飛び跳ねる。
「いずみちゃん。ねこしゃんだよ。行ってもいい?」
「あ、あぁ」
いずみが返事をする前に、奈津美は掛けだしていた。と同時に恵子の頭上から傘が消えた。
「ちょ、奈津美ってばー」
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