飯岡三丁目の交差点 6
「奈津美ぃー、何時間経った?」
ロングカットソー姿のいずみが、飲みきったソフトドリンクの氷をジャリジャリとストローでいじっている。
「えっとー、二時間経った」
「うへー」恵子がソファからずり落ちた。その反動でパーカーの帽子が頭に被さった。
十六日の日曜日、恵子たちは十五時からトマトバーガーズに入っていた。入る前に予め、交差点脇の電柱下にある花を見たところ、まだ取り替えた様子はなかったのである。
店内には陽気な音楽が流れている。
「日にちじゃなくて曜日だったんじゃない?」
「事故が起こった曜日ってこと?」
「あぁ……」
いずみも明らかに不機嫌であるが、自分で言った手前、文句を言いにくい様子だった。
「ま、まぁ、もう少し待ってみよう。あたし、みんなの分のクイーンシェイク買ってくるからさ」
いずみの機嫌を直そうと提案するが、いずみが立ち上がった。
「いいよ。私が買ってくる。恵子はクイーンシェイクね。奈津美は?」
ピンクのメルヘン柄ワンピースを着た奈津美を見る。
「え? わたしはまだ残ってるから大丈夫だよ」
奈津美は半分ほど残っているアイスティーを指さした。
「うい」
そう言っていずみはレジへ向かった。
「なんんだか悪いことしちゃったかな」
「そんなことないよ、子亡きお婆さんがいつ来るかなんて、恵子ちゃんもいずみちゃんも誰も知らないんだし。気長に待ちましょう」
奈津美がフォローしてくれたおかげで少し気が楽になった。
「だいぶ暗くなってきたね。向こう側が見えにくくなってきた」
窓の外を見ると、テーブル席に座っている恵子と奈津美の姿がガラスに映っている。外が暗くなったため、室内が反射しているのだ。目を凝らさないと外の様子が見えない。
今日が晴れて良かった。ここ二日ばかり雨が続いていた。今日も雨が降っていたら視界が悪く、この時間にはもう店内から交差点の向こう側を見るのは不可能だっただろう。しかしそれでも――
「あと一時間ぐらいが限度かなぁ……」
「そもそもなんだけど、子亡き婆に話聞かなくてもいいんじゃね? 外も暗くなってきたことだし、このままガキの幽霊を
いずみが飲みきったソフトドリンク(二杯目)の氷をジャリジャリとストローでいじっている。
あれから進展がないままさらに一時間経過していた。辺りはすっかり暗くなり、道路の向こう側の人影など全く見えなくなった今、ここで長居する理由がなくなったのだ。
「それもそうなんだけどさぁ。でも
「恵子の気持ちは分かるけど、もう死んだ人間なんだよ。そこまで気にするもんかねぇ」
「うーん……」
「つか、私は未だに半信半疑だけどね。幽霊の存在。二眼レフカメラ自体がプロジェクターなんじゃないかって思うよ。そうすりゃ、カメラでしか視えない霊も、カメラから出る緑の光も、兎我野が仕掛けたトリックだって全部説明がつく」
「でも……」
恵子は何か言いたげだったが、押し黙ってしまった。
「まぁ、どっちにしろ、ここにいても仕方ないし、そろそろ出るか」
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