第7話 保坂美紅
「じゃあ、君の魔法を教えてもらおうか。」
梅宮は早速とばかりに道春に聞く。その質問に、道春は真剣な口調で答える。
「正直に言おう、実は俺は魔法使いじゃないから魔法を使えないんだ」
魔法光が見えるくせに魔法を使えないなどと言う道春の解答に、梅宮は怪訝そうに目を細める。
「嘘を言っていないのはその契約の力で分かるだろ?」
そう、道春は超能力を使うことができるが、魔法を使うことはできないのだ。だから、道春が先程梅宮に言った魔法を使えないという話は決して嘘ではない。道春が嘘を吐いていない事を「ケイヤクノジュンシュ」の力で分かったのだろう。梅宮は動揺しつつも、道春の言葉をすんなりと受け入れる。
「驚いたな。魔法使いでもないのに青い光が見える人間がいるなんて……」
「俺は魔法を使えもしないのに、魔法光が見える特異体質なんだ。俺のことを魔法使いだと思った梅宮の推測は間違っていたんだよ」
魔法光っていうのは梅宮が言う青い光のことだ、と道春は補足する。道春は魔法光が見えるという体質が先天的なものか後天的なものかは明言していないが、もしも梅宮がこの体質を先天的なものだと思ってくれたら「なら、弓香が悲劇を体験したのはここ数日の間かもしれない」と錯覚するだろう。
(俺が昨日魔法光を見て驚いた事から考えると、俺は昨日まで弓香の魔法を知らなかった事までは簡単に予想がつくはず)
使いにくい魔法ならともかく、弓香の持つ「スコシノキセキ」は日常生活でも十分に活躍するものだ。それを幼馴染の道春の目の前で全く使わないことなど不可能に近いだろう。
(弓香自身に手を出すなとは言ったけど、弓香以外の人に情報収集をするのは禁止してないから、きっと梅宮は聞き込みでもするんだろうな)
梅宮は明日から、それが全く無駄な行動とは知らずに、最近の弓香の行動を追うことに尽力することになるだろう。
(梅宮のようなタイプの人間は何の目的も与えずに放っておくのが一番怖いからな)
頭が言い分余計に放っておいたら何をしでかすか分からないなどと、道春は失礼なことを考える。
「なるほど。どうやら嘘は言っていないようだ」
「契約したかいがあったな。すんなり信じてもらえて何よりだ」
梅宮は左手にはめている時計を見ると、道春に向かって口を開く。
「時間も時間だ。そろそろ家に戻ろうと思う。有意義な時間だったよ」
「ああ、じゃあな。こっちも楽しかったよ」
そう言って、お互いに軽く手を振りながら別れる。
(いい落としどころ……考えないとな)
梅宮に買ってもらった、漫画雑誌が入っているコンビニ袋をガサガサ言わせながら、道春は足早に自分の家に帰って行った。
4月28日の道春の目覚めは、前日に引き続き最悪だった。
「寝た気がしない」
道春の今の状況はその一言で十分に表せていた。
コンビニから帰ってきた後、机のスタンドをつけて買ってきた(買ってもらった)雑誌を読んだところまではよかった。しかし、雑誌も読み終えた午後3時に、寝ようと思ってハクの隣に潜り込んでからが長かったのだ。
いつか慣れるのだろうかと、ずいぶん先の未来を思い描きつつ、道春はため息を吐いた。
「……とりあえず起こすか」
そう言って腕にまとわりついているハクに声をかける。
「朝だぞ」
「……むぐむぐ」
夢の中で何か食べているのだろうか、ハクはまるで起きる気配がない。
仕方ないので肩をゆすりながらもう一度声をかける。
「朝だぞ」
「……んんっ」
一瞬起きかけるが、すぐにまた元の夢の世界へと戻って行ってしまう。
「朝ごはんだぞ」
「んっ!」
朝ごはんと聞いて元気よく目を覚ましたハクにあきれながら、道春は体を起こす。道春が起き上がったことによって、自分がまとわりついていた腕が無くなったからか、ハクは不満げな顔をする。目覚めはいい方のようで、割とすぐに道春と同じく体をベットから起こした。
道春は朝食を食べるためにハクと一緒に1階に下りる。
「そういえば、俺はこれから学校に行くけど、ハクはその間何をしているんだ?」
道春が疑問に思ったことを聞く。まさか「周囲に溶け込む能力」を使って三春高校に乗り込んではこないだろう。放課後になれば道春が帰ってくるが、それまでの暇な時間をどうつぶすのだろうか?
「ずっと家で待ってるよ」
「それでいいのか? 退屈だと思うぞ」
「うん、大丈夫。待つのには慣れてるから」
……いつの間に待つことに慣れたのだろうか?
ハクがこの家に来る前のことについて、昨日の夜、道春はハクに聞いてみたのだが、どうもハクは全くと言っていいほど過去の記憶を覚えていないようだった。
「気付いたらミチハルの家の前に倒れていたんだよ」と言っていたハクの気楽そうな様子を見る限り、別段過去を思い出したいわけでもなさそうだった。また、道春の「人を理解する能力」でハクの過去を「理解」しようかとも考えたが、例え一部でも他人の過去を理解することに道春の精神が持つか分からなかったため、それは断念した。もしハクが過去に大けがをしていた場合、理解しようとした道春が大惨事になってしまうからだ。
「まあ、ハクがいいならそれでいいけど」
そこから道春はハクと他愛もない話をした後、始業のチャイムに間に合うように余裕をもって家を出た。
「おはよう」
道春は遅刻ぎりぎりに教室に入ってきた幼馴染に挨拶する。
「道春、おはよう」
弓香が挨拶を返す。
道春は弓香に昨日梅宮と会ったことを言おうかどうか迷っていた。
(でも、仲良くしろって言って仲良くするような奴じゃないからな……)
先程挨拶した幼馴染の難儀な性格を思い出し、1人ため息を吐く道春。
(昨日の夜は落としどころを見つけるなんて言ったけど、よくよく考えると難しくないか?)
梅宮か弓香のうち必ずどちらかは妥協しないといけなくなるだろう。しかし、どちらとも妥協するような人間には見えない。道春は梅宮と契約を交わしたことを軽く後悔する。
(いや、契約をしていなかったら梅宮と弓香が正面からぶつかることになっただろうから、しょうがなかったんだけどな)
正面衝突までの猶予が出来ただけ、まだましと行った所か。
「何考えてんのよ?」
考えこんでいる道春を気にして弓香が話しかけてきた。
「いや、何でもない」
「ふーん。あ、そうだ! あんた今日の放課後空けておきなさいよ」
「なんでだ?」
放課後は特に予定が入っていないから別に構わないが、と思いながらも道春は弓香の用事を聞く。
「いいから。空けときなさい」
弓香は元気な声でそう言うと、道春の返事も聞かないで自分の席についてしまった。
「やれやれ」
今日の放課後も慌ただしくなりそうだった。
+++++
4時間目が終わり、昼休みを告げるチャイムが校内に鳴り響く。それと同時に喧騒が廊下に溢れ、授業中に抑圧されていた活気が学校中を支配した。
「学食に行こうぜ」
昨日に引き続き和広と美紅を誘って、弓香を合わせた4人で学食に向かう。昨日仲良く一緒に食べたのだ。これを続けていきたいと道春は考えたが、他の3人も同意見のようで特に反対意見もなく学食に行くことが決定した。
「数学の宿題難しくなかったか? 俺、半分もできてねえよ」
学食に向かう途中、和広が愚痴るように言う。数学は今の段階でも十分に難しく、毎回のように宿題が出ているのだ。そして和広の言葉を聞いた途端に、道春は5時間目の数学の授業に宿題が出ていたことを思い出す。
「しまった! 全然やってない!」
「大丈夫なの? 先生結構厳しいけど」
焦る道春に美紅が聞いて来る。美紅は普段からあまり表情が動かないが、道春には今の美紅が心配そうな顔をしているように見えた。
「さすがにやらないとまずいだろ」
美紅の問いに、そう答えた道春は弓香が無言で目配せをしてきているのに気づいた。弓香の様子を見る限り、「スコシノキセキ」を使ってあげましょうか? と言いたいのだろう。かすかに得意そうな表情を浮かべている。確かに、「スコシノキセキ」を使えば宿題を忘れたことなどどうとでもなるに違いない。
しかし、そこまで考えた道春はそっと首を横に振って弓香の助けを拒絶する。
(だめだ弓香。こんなことで魔法を使っていたら、どんどん堕落していく)
そんな道春の思いが伝わったのだろう。しょうがないわねとばかりに口元に笑みを浮かべる。心なしか嬉しそうな弓香に道春は話しかける。
「悪い、俺の分の昼飯買っといてくれないか? サンドイッチでいいから」
弓香にそう言って、道春は来た道を急いで教室に戻る。昼休みは残り40分ほどだが、数学の宿題は難しいことで有名だ。問題の解き方が分かるまでの時間を考えると、道春一人では流石に厳しいかもしれない。
そんな思いを抱えながらも、道春は急いで教室に戻る。勢いよく教室のドアを開けた音に、教室の中で昼食を食べていた生徒が一斉に道春の方を向くがそんなものを気にしている余裕は無い。
「気にしないでくれ」
そうとだけ言うと道春は自分の席に着く。普段からあまり運動していないせいだろう、道春は息も絶え絶えといった感じだ。
呼吸を整える間もなく、数学の教科書とノートを取り出す。筆箱とノートを机の上に置くと、雨に降られたときに少し水がかかって若干ふやけてしまった教科書をめくり今日宿題で出ている箇所を探す。
「宿題は……ここか。かなり面倒くさそうだな」
「手伝う」
宿題として指定された問題をみてげんなりする道春に、後ろから落ち着いた声が聞こえた。道春が後ろを振り返ってみると、美紅が教室のドアの前に立って道春を見ていた。表情は普段通りの無表情だが、やさしさを感じさせる雰囲気をまとっており、道春はそんな美紅に頼りがいすら感じた。
「ありがとう助かるよ」
手伝ってもらうか逡巡したものの結局道春は素直に美紅の言葉に甘えることにした。問題をちらっと見て、自分1人の力では終わらないと悟ったのだ。さっそく美紅と机をくっつけて、教えてもらう体制を整える。
「よし、やるぞ」
道春はそう言って気合を入れると、数学の問題に立ち向かっていった。
「この問題が分からないんだけど」
「この問題は先にこうして……」
勉強は進んでいく。意外にも美紅は人にものを教えるのがうまく、道春に問題をしっかりと理解させながらも、詰まった所を適宜教えてくれた。そのおかげか、道春は昼休みが終了する少し前に、なんとか数学の宿題を終わらせることが出来た。
「やった……終わったぞ」
「お疲れ。はいこれがサンドイッチね」
宿題が終わり、ある種の達成感を味わっている道春に、弓香はサンドイッチを渡した。弓香から受け取ったサンドイッチの表面のシールを見て、道春は金額を確認する。
「ありがとう。140円だったよな」
道春は弓香にお礼を言い、お金を渡す。見ると、買ってきてくれたサンドイッチは特に指定したわけでもないのに、道春の好きなメンチカツサンドだった。ここら辺の阿吽の呼吸は道春と弓香の腐れ縁とも呼べる付き合いの長さの結果だろう。
道春は弓香が買ってきてくれたサンドイッチをほおばりながら言う。
「保坂もありがとう。おかげで5時間目に間に合ったよ」
実際、道春が問題を見る限り美紅が教えてくれなかったら到底間に合っていなかったのだ。道春は心からお礼を言う。
「どういたしまして」
――お礼の返事をする美紅の表情を見た瞬間、道春の脳裏に大きく衝撃が走った。「どういたしまして」と言った時の美紅の表情が、まるで人間が猫をかわいがるような、母親が子供を慈しむような、そんな表情に見えたのだ。道春は自分の全身に鳥肌が立つのを感じた。
(……人間のできる表情じゃない)
大げさに言うなら、例えば神が表情を持っていたら、人を見るときそんな顔をして見るんだろうなと思わせる。そんな表情をしていたのだ。
美紅のそんな表情もすぐに霧散し、普段通りの表情に戻る。それを確認した道春が何とかいつも通りに言葉を口にする。
「今度ジュースでもおごるよ」
「楽しみにしてる」
その会話をした瞬間に、昼休み終了のチャイムが鳴る。その数秒後に数学の先生が入ってきて5時間目が開始された。
+++++
6時間目が終わった放課後、道春は弓香に声をかけられる。
「さあ、行くわよ」
「どこに?」
弓香には放課後予定を入れないように言われただけで、特にどこに行くとも聞いていなかった。それなのに、当たり前のように道春の腕を引っ張り、教室から出ようとする弓香に道春は疑問を投げる。
「決まってるじゃない。弓道部よ」
弓道部?
道春の頭にクエスチョンマークが踊る。道春は帰宅部、弓香は空手部と、弓道部とは縁がないはず。体験入部でもするつもりだろうか。気になった道春は弓香に質問する。
「何しに行くんだ?」
「もちろん、敵情視察よ」
何言ってるのよ、と言わんばかりに弓香は道春を見てくる。敵情視察と言う表現から察するに梅宮が弓道部に在籍しているのだろう。梅宮がどの部活に入っているか調べたのはすごいが、道春としてはせめてその情報をシェアして欲しかったの一言に尽きる。
「弓道部の活動を覗き見て何か分かることでもあるのか?」
弓のうまさは分かるだろうけど、それが梅宮の悲劇の解明に役立つとは到底思えなかった道春は弓香に聞く。
「活動ももちろん見るけど、重要なのはそこじゃなくてその後よ」
自信たっぷりに胸を張りながら言う弓香。その様子だと部活動の後に梅宮に何かあるのだろうか。
「梅宮を自宅までつけて、住所を特定するわ」
「えっ」
確かに住所を特定したり、家族構成を確かめたりするのは悲劇を暴くうえで重要な情報になってくるかもしれない。
道春も当然そこら辺の案は思いついたが、道春にはそれが禁じ手のように思えて、弓香に提案すらしなかったのだ。しかし、今思うと家も知らずに悲劇を知ることは困難なため、弓香の目的のためには通らないといけない関門なのかもしれない。
(どうする? 弓香に賛同するか、それとも派手な真似はせずに穏便に活動させるか)
梅宮と弓香を敵対させたくないスタンスの道春は2つの選択肢に迷う。
「分かった。俺もついて行くよ」
迷った末、道春は弓香の案を採用することにする。止めても1人で行くだろうという理由もあるが、道春が弓香の案にのった最大の理由は、
「梅宮の悲劇には興味があるからな」
梅宮という女性の人となりを構成する1本の大きな柱。その柱の内容を知ればより梅宮の内面に近づけると思ったのだ。まずは知らなければならない。梅宮がどんな人間なのかを。
弓道部は三春学園の敷地内に建てられた弓道場で活動を行っていた。校庭の隅に作られてたそれは4年ほど前に改装工事が行われたため、比較的新しい建物となっている。
道春たちが弓道場に着いたとき、弓道部の練習はもう始まっていた。何とかして弓道場の外から弓道部員たちが見える位置に陣取り、その活動を見る。弓道について全く知識のない道春には的に矢を射っていることは分かるのだが、それ以上のことは分からなかった。しばらく見ていると、目当ての梅宮が胴着に袴の格好で出てきた。髪の毛が邪魔になるのだろうか、梅宮は先程までと違い腰まである黒髪をポニーテールにしている。その髪が「和」を感じさせる衣装と合っていて、道春は梅宮から普段にはない色気を感じた。
「胴着と袴がいやに似合ってるわね」
弓香が忌々しそうに言う。言葉の内容はほめているのだが、吐き捨てるような言い方が弓香の気持ちを十分道春に伝えてきた。
「確かに似合ってるな」
見惚れながら道春が言う。その様子を見た弓香はなぜか悔しそうな顔をすると、梅宮の方に顔を戻す。
道春たちの位置から的が見えなかったため、梅宮が矢を的に当てられているのかは分からなかったが、周りの反応と梅宮の表情から判断するに的中率はかなり高そうだった。
2時間ほど活動したあたりで、梅宮が弓などの道具類を片付けだす。
「梅宮はもう帰るのかな?」
「片付けてるし、多分そうだと思うんだけどね」
他の部員たちはまだ部活を続けている中、梅宮だけが先に帰るのだろうか、1人だけ帰り支度を始めている。
「弓道場から出てきたら、予定通り尾行するわよ」
弓香の声に、道春は頷く。
「ああ、分かった。……そういえば聞いてなかったけど、梅宮は電車で帰るのか? それとも徒歩か?」
電車だったら先に駅に向かってカードに現金をチャージしておいた方が効率的だと考えて、道春は弓香にそう聞く。
「私が調べたところによると、梅宮は徒歩で通学しているらしいわ。詳しい位置は分からないけど、私たちの家とは同じ方面みたいね」
「へえ、徒歩なのはありがたいな」
道春と弓香がそんな話をしていると、梅宮が他の弓道部員たちに挨拶した後、弓道場から出てきた。
「行くわよ道春。もしもばれたら承知しないから覚悟しておいてね」
「はいはい」
弓香の「スコシノキセキ」があればばれないだろうけど、道春も一応注意はしておいた方がよさそうだ。
尾行をして学校から道春の家と同じ方向に20分ほど進んだところに梅宮の家はあった。一戸建ての茶色を基調としたその家は、道春が梅宮と遭遇したコンビニのすぐそばに立地しているうえに、駅まで徒歩10分程度で行けるため立地条件はかなりいい方だろう。途中梅宮に見つかりそうな危ない場面が何度かあったけど、無事に見つからずに尾行をやり切った道春たちは梅宮の家のすぐ前にある電信柱の影に隠れた。
「ここが梅宮の家ね」
道春がそうつぶやいた弓香の方を見ると、弓香はスマートフォンの地図アプリの位置情報を開き、現在地を忘れないようにメモしていた。
「それで、家を突き止めたのはいいけど、これからどうするんだ?」
道春が単純な疑問を口にする。まさか梅宮の家の中に突撃するわけにもいかないだろうし、防犯意識がしっかりしていて道路側から見える窓にはすべてカーテンがかかっているのだ。今のところできることなんてないと思った道春は、所在なさげにふらふらと手を動かす。
「何かが起きるまで待つのよ」
「……その何かとは何時間ほどで起こるものなのでしょうか?」
「さあ? そんなの分かるわけないでしょ」
思わず丁寧語になる道春に、弓香は頼りにならないことを言う。そもそも弓香は「襲われても対抗できない状況」がトラウマになっているのだ。だから余計に梅宮に弱みを握られている今の状況が面白くないのだろう。解決を焦っているようにも感じる。なによりこんなに無茶な案を立てるという事は、それほどに追い詰められているということだろうか。
道春は思ったことをそのまま弓香に告げた。
「そりゃ弱みを握られてるからここにいるわけだけど、1つ違うわ」
弓香は指を1本立てて道春に見せつける。
「この案は全然無茶なんかじゃないわ」
「何か策でもあるのか?」
弓香は質問する道春に、右手を目線の高さより少し低いところに挙げることで答える。
「こうするのよ」
そう言うや否や、右腕が青く光り、道春に「スコシノキセキ」の発動を告げる。
「なるほどその手があったか」
何の奇跡を願ったかは知らないが、弓香の魔法を使えばそう遠くないうちに何かのアクションが起こるはずだ。後はそれを見逃さないように注意を払っておけばいいということか。
道春は感心して弓香を見て、道春を見ながら得意そうな顔をしている弓香にイラッとしたのもつかの間、道春たちに後ろから声がかかる。
「あの、うちの前で何をやっているんですか?」
黒い髪を肩までのばして、少しおどおどした視線を道春たちに向ける少女は、その顔の整った造形が誰かによく似ているように感じた。
「うちの前でって言うということは、君はここの家の住人なのかな?」
道春が梅宮家を指さしながら聞く。少女はいきなりそんなことを聞く道春に警戒心を高めたのだろう1歩あとずさりながら答える。
「私の名前は梅宮香織。梅宮家のれっきとした次女です」
少女の答えを聞いた道春は、「スコシノキセキ」は有能だな、と思いながらため息を吐いたのだった。
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