第3話 スコシノキセキ

 5時間目が終わった後、道春は弓香に呼び出されて屋上にいた。他に人気のない屋上は強い風に蹂躙され、フェンスがきしみ、悲鳴を上げている。


 「なんでこんなところに呼び出したんだ?」


 道春は不思議そうに尋ねる。三春高校では授業と授業の合間の休み時間は10分しかないのだ。直前の授業が体育だったこともあり、体育着からの着替えで時間を取られたため、次の授業まで残るは5分程度と行った所か。大して時間があるわけでもないのにも関わらず、わざわざ人目を避けるように屋上に呼び出されたことに疑問を感じる。


 「大丈夫よ。今日の6時間目は出席を取らないから」

 「……何でそう断言できるんだ?」


 断定するように言う弓香に眉を顰める。しかし、よくよく思い返してみると、弓香の自信の源には心当たりがあった。それは朝、和広と美紅とした会話の中で出てきた、美紅の発言だ。


 「彼女が遅刻するときに限って、いつも先生が出席を取っていないから」


 その時の会話がフラッシュバックする。美紅は確かにそう言っていたはずだ。


 「そういえば保坂が、弓香が休んだり遅刻したりするときに限って、先生が出席を取っていないって言ってたな」


 道春はからかうような口調で言う。


 「欠席にならない秘訣を教えてくれよ」

 「……これがその秘訣よ」


対する弓香の返答は自分の右手を道春に見えるように持ち上げることだった。道春の目線の高さまで弓香の右手が上がり、一拍置いたその瞬間、


 「やっぱり、見間違いじゃなかったんだな」


 弓香の右腕が音もなく光った。その光はテニスの時に見た色と同じ青をしている。光は5秒とたたないうちに消えるが、道春は口を開けて、しばらく呆然としたままだった。


 「テニスの時に気付いたけど、道春には見えているようね」


 道春が落ち着くのを待って、弓香は嘆息しながらつぶやく。


 「その光は何なんだ? 和広には見えてなかったようだけど」

 「私は魔法光と呼んでいるわ。魔法を使う時に体の一部が発光する現象ね。私の場合はいつも右手だけど」


 魔法光?

 当たり前のように出てきたその単語に道春は困惑する。それよりも聞き捨てならないのは、弓香の口ぶりからすると、弓香は魔法を使えるのだろうか?

 右腕が光っている以上、道春といえど超自然的なものの存在を信じないといけないだろう。これだと白い少女の言った「周囲に溶け込む能力」も本当にあると考えた方が懸命か。


 「お前は何の魔法が使えるんだ?」


 避けられないはずのテニスボールを避けたことから考えると、もしかすると時を止める魔法かもしれないと道春は考える。他にも、念動力のような物体を動かす魔法や、風を操る魔法などが考えられたが、弓香の答えはそのどれにも当てはまらないものだった。


 「私が使える魔法の名前は『スコシノキセキ』。この現実に些細な奇跡を起こすだけの魔法よ」


 予想外の魔法に道春は一瞬驚くも、すぐに落ち着いて考える。

 なるほど、「スコシノキセキ」、万能型の魔法ということか。この魔法を使ったおかげで、弓香が遅刻や欠席をした時に限って、先生が出席を取り忘れるという奇跡や、何の力が働いたかは分からないが、テニスボールが弓香にあたる直前にそれるという奇跡などが起こったのか。

 そんなことを考え、道春は今日知った不可思議な現象に納得する。

 「スコシノキセキ」の詳細を聞いて、弓香の魔法で出来ることと出来ないことがある程度把握できた。例えば、先生が出席を取らないようにすることは可能だが、誰かを洗脳するようなことは不可能。テニスボールが当たらないように少しだけそらすことは可能だが、ゴロをホームランにするようなことは不可能。勘を鋭くすることは可能だが、未来予知は不可能だそうだ。


 一通り魔法の説明が終わった所で、弓香から質問が飛んでくる。


 「それより、道春は何の魔法が使えるの?」

 「いや俺は魔法を使えないな」


 そういえば昔は魔法にを使うことに夢を見ていた時期があって、魔法が使えるように練習していたな、と道春は昔を懐かしみながら答えた。

 今となっては魔法なんて夢は捨ててしまったけれど、昔は魔法と聞いて胸が高ぶったのを覚えている。

 道春の答えが意外だったのか、弓香は困ったような表情を浮かべた。


 「おかしいわね。魔法光は魔法を使える人にしか見えないはずなのに……」


 弓香は考え込むように顎に手を当てる。


 「道春」

 「なんだ?」

 「最近、あんたの身の回りで悲劇が起こったりした?」

 「……悲劇?」


 いきなり何を言い出すのかと思い、道春は眉をひそめながら思わずキーワードを繰り返す。


 「そう、悲劇。それが魔法使いになる条件なの」

 「じゃあ、お前はどんな悲劇を――」


 悲劇が魔法使いの条件だとすると、弓香は悲劇に見舞われたはず。一体いつから魔法が使えるようになったかは分からないが、仮にも幼馴染。探せば悲劇の心当たりくらいは出てくるはずだ。

 そう思った道春は記憶をたどる。高校に入ってからは特に変わったことも無かった。中学でも無かった……はずだ。とするともっと前、小学校の頃――。


 「あっ」


 道春は曖昧な記憶をたどる中、小学校の頃に弓香と二人で遊んでいたときに起こった、とある事件を思い出す。道春が思い出した事件は当時小学4年生だった弓香にとって、悲劇と呼ぶにふさわしいものだった。なぜこの事件を今まで思い出したことがなかったんだろうか、と道春が不思議に思うほどだ。

 もしかしてこれか? と道春が確認のため口を開こうとしたとき、道春が言おうとしていることを察知したのだろう。弓香が腕を突き出して止める。


 「待って。言わないで」

 「なんでだ?」


 聞き返しつつも考えてみると、悲劇なんて表現できるようなものを思い出させるようなことを言うのはデリカシーに欠けた部分があったかもしれない。特に弓香にとってあの事件は思い出したくもないことだろう。悪いことをしてしまったな。

 そんな道春の思いとは裏腹に、弓香はひどく現実的な理由を口にする。


 「魔法使いの条件はさっき言った通り、悲劇を体験すること。でも起こった悲劇を他人に指摘されると魔法が使えなくなるのよ」

 「指摘って?」

 「お前の悲劇は何々だって面と向かって言われることね。だから道春も私に向かって悲劇の内容を口にしないように」


 「スコシノキセキ」は有能な魔法だから、失いたくはないのだろう。弓香は若干きつめの口調で言った。


 「つまり今俺が悲劇の内容を言うと弓香が魔法を使えなくなるんだな」


確認の意味を込めて聞く。道春にも、物心ついてから一緒にいた弓香にはなるべく悲しんでほしくないという気持ちが存在する。何かのはずみで魔法がなくなってしまい、悲しむ弓香を見るのは避けたかったのだ。


 「ええ、そうよ。しかも道春が言っていない限り、私の悲劇を知っているのは今のところ道春だけだから、道春以外から悲劇の内容が漏れることはないわ」


 道春以外知らない。その言葉から道春は、弓香の悲劇は自分が思い出したあの事件で間違いないと確信する。なぜなら、弓香に口止めされたからうえ、2人しか知らないという条件が当てはまるのはあの事件しか該当しないからだ。そして、弓香の言う通り、あの事件については両親にすら話していないのだから悲劇の内容を知っているのは道春と弓香の2人だけとなる。


 「分かった。絶対に言わないよ」


 道春は弓香を安心させるため、気持ちを込めてそう言う。その言葉を聞いた弓香は、糸が切れたかのように脱力し、屋上の床に手をつく。道春は弓香の想像以上のリアクションに驚き、一歩後ずさる。


 「おいおい、どうしたんだ?」


 その体勢のまま弓香が口を開く。


 「言わないって約束してくれてありがとう。この魔法が無かったらひどいことになるのよ」

 「どうなるんだ?」


 「ひどいこと」とは魔法に関係があることだろうか。もしかしたらよくあるパターンとして、魔法を失うと今まで魔法を使って得をしてきたことの反動が来るとかかもしれない。


 (もしそうだとしたら魔法の使いどころを絞ってもらわないとな)


 そう考えて、道春は弓香の言う「ひどいこと」の内容を聞く。


 「魔法を使えるようになるレベルの悲劇は、それを体験した人にトラウマを残すのよ」


 弓香が説明する。


 「私のトラウマは『襲われたら対抗できない状況』よ」


 例えば、廊下で男性とすれ違った時とか、町で何人かの集団を見かけた時とか、人が悪意を持って私に襲い掛かって来たとき、撃退できないような状況になるのが当てはまるわね。と、弓香は続ける。

 それを聞くと、道春は事件が起こった時を思い返した。

 襲われたら対抗できない状況……。なるほど、確かにあの時の状況から考えると、それがトラウマになるのも頷けるか。


 「それなら今はどうなんだ? 俺が悪意をもって襲い掛かったら、弓香は対抗できないんじゃないか?」


 弓香はその問いかけに小さく首を振る。


 「ううん。魔法が無かったら無理かもしれないけど、今の私には『スコシノキセキ』があるから、ちゃんと対抗できるよ」


 試してみる? と右手を挙げて挑発してくる弓香に道春は全力で首を振って答える。なるほど、確かに「スコシノキセキ」を使えば大人数に襲われたとしても何とか対抗できるだろう。紙一重で拳をかわし、殴りかかってきた奴の顔面に弓香がパンチを叩き込んでいる絵が簡単に想像できる。


 「で、道春は悲劇に心当たりはないの?」


 弓香がそれていた話をもとに戻す。そういえばそんな質問をされていたか。


 「いや、無いな」


 少し考えた後、道春は力強く断言する。心当たりがないうえ、いくらなんでも、過去に体験した悲劇を忘れていることもないだろうと思っての断言だ。


 「ふーん。まあ、それならいいんだけどね」


 一応、道春のことも心配してくれていたのだろう。弓香は悲劇に心当たりが無いという道春の様子に安堵しているようだった。


 「じゃあ、魔法のことも一通り話したわけだし」


 弓香が嬉しそうに言う。楽しげなその様子に、道春は嫌な予感がしながら、話の続きを促す。


 「……なんだよ」

 「ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」


 可愛らしく両手を合わせる弓香を見て、道春は思う。

 嫌な予感は的中したのかもしれない。

 


 +++++

 


 弓香の頼まれごとを強制的に引き受けさせられた道春は、6時間目の授業中にもかかわらず、1年2組の教室を窓からのぞき込んでいた。窓からとは言っても、道春がいるのは変わらず屋上で、変わったと言えばその手に双眼鏡を持っていることだけだろう。

 道春たちが通っている三春高校には1学年につき2つクラスある。そのうち、道春、弓香、美紅、和広が所属しているのが1クラスだ。これが学園祭も終わった7月とかだったら分からないが、今の道春にとって2クラスとはほぼ接点がないと言っていいだろう。

 そんな道春が授業中の2クラスを屋上から双眼鏡で覗き見て、何をやっているかと言うと、


 「見つけた?」

 「ちょっと待ってくれ、今探しているんだから」


 弓香に言われて、ある人物を探しているところだった。



 時間は弓香が道春に頼みごとをした時まで戻る。


 「何を手伝ってほしいんだ?」


 面倒ごとの気配を感じつつもこうして聞くのは、単純に道春の面倒見がいいからだろう。


 「簡単よ。梅宮理恵という女子生徒が過去に体験したであろう悲劇を調べてきてほしいのよ」


 悲劇という単語が出てきたことから、道春の面倒ごと予想レベルは2段階ほど上がった。あと1段階上がると、その瞬間に屋上の扉にダッシュして教室に帰るつもりだ。


 「っていうことは、その梅宮里香って女子生徒は……」

 「お察しの通り魔法使いよ」


 はぁ、とため息を吐く。予想通り面倒ごとらしい。魔法使いが過去に体験した悲劇を調査することは、間違いなくその魔法使いに対しての宣戦布告となるだろう。余程のことがない限り触れないでおくのが正解のはずなのに、わざわざ調べるのは余程の理由があるからに違いない。


 「なんで他人の悲劇を暴くなんて趣味の悪いことをしなくちゃならないんだ?」

 「梅宮の魔法は『ケイヤクノジュンシュ』。彼女と一度交わした約束事は、何があっても守られることになるわ」


 たとえ口約束でもね、と苦々しく告げる。その弓香の態度で、幼いころから一緒にいた道春には大体の想像がついた。


 「なるほど、つまり弓香が軽率な口約束をしたせいで、何としてもその梅宮って生徒の魔法を消さないといけなくなったわけだ」


 そう言った道春の予想は当たっていたらしく、弓香は悔しそうに首を縦に振る。

 弓香の話を詳しく聞くと、こんな流れだった。


 まず、弓香は先生にプリントを教室に持っていくように頼まれたそうだ。断る理由もないためそれを快諾した弓香は、早速教室にプリントを運ぼうとした。事が起こったのはその時。足を踏み外してそのプリントの束を階段で盛大にぶちまけてしまったのだ。「スコシノキセキ」を使ったため、弓香は無事だったがプリント類はそこら中に散在してしまった。

 それを偶然通りかかった梅宮と名乗る女子生徒が、親切なことに拾い集めるのを手伝ってくれたらしい。そして、弓香が梅宮と協力してプリントをすべて拾い集めた後、弓香は梅宮に手伝ってくれたお礼を言った。

 その時、梅宮が「ちょっとお願いがあるんだけど」と言ってくる。プリントを拾うのを手伝ってもらったこともあり、弓香は素直に「うん。なんでも言って」と答えてしまった。

 その瞬間、梅宮の左手が青く光り、弓香は梅宮が魔法使いであることに遅まきながら気付いた。

 また、どうやら魔法使いは魔法光を見ることによって、魔法の内容が分かるようで、弓香は梅宮の魔法が「ケイヤクノジュンシュ」である事と、自分が言質を取られてしまったことを悟る。――今日の様子を見る限り、魔法光による魔法の内容の判別は魔法使いではない道春には出来ないようだ。

 弓香のリアクションで青い光を見られたことに気付いた梅宮は走って逃げだす。弓香は逃げた梅宮を追いかけてみるものの、結局捕まえるが出来ず、仕方なく諦めて頼まれていたプリントを教室に運んだ。


 これが昨日の放課後、道春が1人で帰ったときに起こった事件の概要である。


 「なるほど、梅宮に何でもお願いを聞くと言質を取られたわけだ」

 「しょうがないじゃない。手伝ってもらった後だったし、断りづらかったのよ」


 まあ、日常生活で言質を取られる心配をしている方が異常か。


 「ちなみに、階段で足を滑らせたときに使った私の魔法は見られていないと思うから、私の魔法の内容はまだ知られてないわ」


 弓香は少し胸を張りながら、得意そうに言う。


 「そんな得意そうに言われても……」


 まあ、それは不幸中の幸いだったかもしれない。


 「とりあえず」


 弓香が空気を変えようと声を大きくする。


 「梅宮がいるのは1年2組だってことは分かったから顔を確認しときなさい」


 そう言ってどこからか取り出した双眼鏡を道春に押し付けるのだった。



 そして場面は冒頭に戻る。


 「で、どんな外見だ?」

 「黒髪ロングで強気な目をしているいけ好かない女子生徒よ。今は窓際の席に座っているわね」


 大いに個人的な感情が詰まった説明に辟易とする。しかし、窓側に座っているのなら好都合。今のうちにくだんの魔法使いの顔を確認しておこう。そう考えた道春は双眼鏡を目に当て、再度探し始める。


 「いた」


 運が良かったのか探し始めてから10秒とたたずに発見する。その女子生徒は弓香の言った通り長い黒髪で強気な目をしている、いかにも姉御と言った感じの女子だった。そして同時に、道春が数秒目を奪われるほど、非常に整った顔立ちをしていた。

 ちらりと弓香を見る。


 「?」


 いきなり視線を向けられ、首をかしげるリアクションを取る弓香は、幼馴染の補正をなくしたって十分かわいいと言えるだろう。実際、中学時代には何人もの男子に告白されていた事からもそれはうかがえる。


 (その割に特定の一人は作らなかったわけだけど……)


 弓香が「かわいい」だとしたら梅宮は「きれい」と形容するのがしっくりくる容姿だ。系統は違うが、双方共に良い見た目をしている。その中でも、道春としてはやはり梅宮の容姿が好みのど真ん中をついていた。


 「へえ、きれいだな」

 「外見はそうかもしれないけど、心は汚いわよ」


 素直な感想を口にするも即座に返される。まあ、弓香の話を聞く限り、他人の弱みを握ったのは確かなようだから心が汚いと言えるかもしれないが、


 「他人の心を汚いと形容してるお前の心も十分に汚いじゃないか」


 小さな声で言ったおかげか、弓香には聞こえてなさそうだった。仮に弓香が耳ざとく聞いてた場合、道春は怒られる程度じゃすまなかった可能性が高いので、弓香に聞こえなかったのは道春にとって幸運だったと言ってもいいだろう。


 「どうやら顔は確認できたようね」

 「ああ、それでどうやって悲劇を特定するんだ?」


 顔は確認したものの、悲劇の特定となると難易度が跳ね上がる。何しろ過去に起こった悲劇なんてただの学生には特定できるものではないのだから。


 「もちろん考えているわよ」


 得意そうに言う弓香。これは対策が期待できるかもしれない。道春はそう思い、期待のまなざしを向ける。


 「でも今日は空手部で忙しいから明日ね」

 「なんだよ……」


 てっきり今日からやると思っていた調査を明日からだと言われて拍子抜けする。弓香の様子を見る限り、そこまで急を要する事態じゃなさそうだからいいのかもしれないが。


 「そんなに悠長にしてていいのか?」


 思わず問いかける道春。それに対する答えはあっさりしたものだった。


 「大丈夫よ。梅宮とは合わないように『スコシノキセキ』を使っているから」


 ……魔法は万能でいいなぁ。

 そんな言葉が頭に浮かんだ道春に弓香は「でも」と続ける。


 「私が使えるのは『スコシ』の『キセキ』だけだから、あっちが本気で探したらそう遠くないうちに会うでしょうね」


 弓香のその言葉を聞いて、1つの出来事を思い出す。それはほんの少し前に道春が疑問に思ったことだ。


 「そういえば俺が弓香の悲劇を思い出せなかったのって……」

 「その通りよ。私が『スコシノキセキ』で思い出さないようにしたからよ」


 道春は自分の知らない間に弓香の魔法がかけられていた事に驚く。それにしても、魔法がかかっているにもかかわらず道春が記憶を思い出せたということは、


 「俺が頑張って記憶を思い出せたのと同じように、梅宮も弓香を探し出せるってことか」

 「そうよ。だからなるべく早いうちに決着をつけないといけないの」


 自分に記憶を制限するような魔法がかけられていたと分かっても、他の記憶について疑心暗鬼になったり、弓香の魔法を警戒したりしない辺りは流石幼馴染と行った所か。道春がいかに弓香を信頼しているかが現れた結果だ。


 「急がないといけないのは変わらないのか」

 「でもまあ、とりあえず今日は何もしないっていうことで」


 弓香のそのセリフに合わせたかのように、もしくはこれも「キセキ」なのかもしれないが、弓香がそう言った直後、6時間目の終了を告げるチャイムが校内に鳴り響いた。

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