第15話 だいじょうぶだよ

私の愛した人はもういません

遠い遠い空の向こうに行きました

私の愛した人はここにいます

ずっとずっと変わらず笑っています


一緒に過ごした部屋はとても暗かった

二人で手をつないでカセットのボタンを押して

部屋の外へ響くほどの大きな声で

幸せになる歌を歌い続けた


隣で微笑む君の顔

真っ白な髪にくしゃくしゃな頬

まるでおじいちゃんのようだった


進む自分を嫌いになって

置いていった気になっていた


あなたが大切で

あなたがすべての初めてで

あなたがくれた幸せは大きすぎて

今私は一人でいます


同じ時を過ごしていたら

どんな風になっていたかな

一緒に海に行く約束は果たせたかな

たくさん手をつないで

たくさんキスをして

たくさん抱きしめて

生きていることを幸せだというのでしょう


どんどんあの頃のあなたを忘れていく

私より大きくなったであろうあなたの姿を

思い浮かべてみてもわからない

それでもつなぎとめたくて、、、


一人で歩いているのはしんどくて

誰かにすがりたいと思うのだけれど

縋り方を忘れてしまって

あなたを思うばかりです

それでもあなたはずっと変わらず

私の顔を見て強がる私に笑うのです

「大丈夫だよ」


私の愛した人はもういません

遠い遠い空の向こうに行きました

私の愛した人はここにいます

ずっとずっと変わらず笑っています

だから変わらず返すのです

「大丈夫だよ」

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