エッセイ 九十三点


 黒帯ってこんなに重たいものか。

ただ腰に巻いているだけなのに、こんなにも身動きを封じるものはない。

ずっとそう思っていた。

その帯を、軽くする日。


私の心は重くて重くて、それに押しつぶされそうだった。


それから逃れたかったんだろう。

私にこの黒帯の重さを教えてくれた現実から逃れたかったのだ。


試験監の名前を聞いて、帯を強く握りしめた。


出来レースだ。


私は今日、必ず受かる。


何不自由なく次の段位に進めてしまう。

そこに「感情」は全くない。

私の「意思」はどこにぶつければいい。


11年。

昇段を拒んだ。

黒帯が重たすぎた。


後輩が好きだった。

道場が好きだった。

拳法が好きだった。


だから、自分のものにならないものが怖かった。

それを伝えてしまう口が嫌いだった。

この子達が自分の身を守れなかった時が怖かった。

そのうえ、自分すら見失ってしまってわけがわからなかった。


でも漠然と拳法が好きだった。


やっと、全部自分の人生だって受け入れて、

やっと、あこがれる人たちに出会って

やっと、黒帯を締めることが許せるようになってきて

じゃあ次へ。


行ってみよう。


そう思えた。



試験監督は知り合い、

組手の相手も変えられて、

学科試験も満点。

技術もトップ。


こんなのない。


唯一私の心を拾ったのは作文の93点。

これが真実じゃないのか。


私への評価じゃないのか。





笑ってるけど。

笑いたくない。


喜んでいない自分

重たい評価

全力だったのに漠然としてる


終わった後、

私の中に残ったのは

あんなに、いろんな人から学び取ってきたのに。

いろんな人と稽古したのに。

という閉塞感だった。





自信がつくまで何度も稽古させてもらってから試験に行けたこと。

感謝しても感謝してもしきれない。

私にとって、ここまで不安なく試験に迎えたのは初めてでした。


だからこそ、悔しい。








まだ、まだ、納得できるようにできたんじゃないの。


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