エッセイ 体力不足なのだろう


 息が切れる。




最近運動を怠っていたせいかたかだか三キロほどの道のりが長く険しく感じる。


ぜぇぜぇと息を荒げながらが、平坦で真っすぐの道のりを延々とこぎ続けていた。


田舎の干拓を思い出させるほど、長く、まっすぐ感じる。


コンクリートすら整備されていない、信号機もない、四角四面に広がる農場の干拓地を走り抜けることと、大いに違いはあるが、今はそんな荒れ地を走っている気分だった。


目の前の信号機が赤になると、変速を変えスピードを落とした。


愛車は東京に帰ってきたときに「足」として必要だったため、インターネットで買った初心者用のロードバイク四万五千円だ。


それでも、四十キロは出るのだから、大したものだ。文句はない。


交差点に差し掛かると同時に信号が青に変わる。変速はそのままで交差点を走り抜けた。


スタートダッシュが遅れると、車道の脇を走っている自転車は車にとって迷惑極まりない。


ある程度のスピードを付けては知らねば、彼らの走行の邪魔になってしまうのだ。


スピードが安定すると、すぐに変速を重くする。ひとこぎで進む距離が大きく変わるのだ。


さっきの交差点の手前で水分を補給すればよかったと後悔し、走りながらそれをする器用さもないので、そのまま走り抜けた。


有名なファミリーレストランを経営する会社の前を通過し、いつもお世話になっております。とお辞儀しながら信号機を左折する。


駅も近くになり、商店街を交差しわたると、すぐに住宅街だ。帰宅時間と重なりあまりスピードが出せないこの場所は、ゆっくり走るしかない。


売れているのか売れていないのかわからないが、いつもたくさんのケーキが並ぶ洋菓子店を横目に、今日も客が入っていないけれど、ショートケーキがおいしそうだと心の中で思う。


最近ケーキを口にしていないせいか、甘いものを見るとつい目が行ってしまうのだ。


しかし、お店のケーキは油分が多く、私の胃袋に「胃もたれ」と胸には「胸やけ」、頭には「片頭痛」を起こしてくれる。


それはそれは大層美味しいと評判の店のケーキであっても私の体には受け付けられない逸品なのだ。


昔から低脂肪、無脂肪の食材を多く使いケーキを焼いてくれた母の教育のたまもので、体は油ものあまり受け付けなくなっていた。


昔、友人に我が家の自慢のフルーツケーキをふるまったところ「味がしない。」「まずい」と大不評を買った。


それ以来私は友人にふるまうケーキは油分のある食材を作るように心がけるようになった。


あの時の彼らの表情は一生忘れない。


そんな痛い思い出を思い出しているうちに、住宅街を抜け、バス通りに出た。


ここは信号機がなく、駐在所が真横にあるために、駐在がいないことを確認してから信号のない場所を突っ切る。


バスは人を多く載せて、重くなっている上に、すぐそこが停留所でスピードを上げてこないことをいいことにできることだ。


大通りに出ると一気に加速する。この道は駅から大きな幹線道路へ抜ける道で、車通りも人通りも多い。


コンビニとマクドナルドを抜け、病院を超えると目的地はすぐそこだ。


ここで初めて地面に足をついた。手で信号機のボタンを押し、信号が変わるまで待つ。


ここで水分を取ろうか考えたが息を整え、考えているうちに信号は青に変わった。


まぁ、目的地はすぐそこだ。すぐに給水などできる。そう思い、右側に車線を変更して、致し方なく歩道を徐行で走った。


石畳の道に入り、目的地の敷地に入る。普段いる駐車場の警備員がおらず、体育館自体も人がいる気配がない。


私は今日の目的地の場所を間違えたのかと思ったが、ふと思い出した。




今日は休館日で稽古はおやすみじゃないか。




なぜ走っているときに気が付かなかった。


その場で悶えたくなるのをぐっとこらえ、とりあえず喉が水分を欲していた。


水筒を開けると、香ばしい香りがぐんと鼻の奥をつく。


一口飲むと、後悔した。


やはりロードバイクをこぐときには冷たい麦茶が良い。


家を出る前に豆を挽き、暖かい淹れたて珈琲はうまいが、何とも涙が出そうだった。


あぁ、来た道を帰るのか、気が遠くなりそうになりながら、自転車のペダルに足をかけた。






という夢を見た。


あぁ、夢おちだ、よかった。夢で本当によかった。






そう思った数時間後、


父より


「プチトマトとネギを買いました。バーミヤンに持っていきます。」


いつも通り、父も今日は稽古があると思っているようだ。


切なくも、シンパシーを感じてしまった娘であったが、父より先に稽古がないと気が付いたことになぜか優越感を感じた。


そして父には、「今日は休みだ」と連絡するか悩んでいる。(だって面白い。)


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