エッセイ 甘酒
甘酒とは、お米を日本酒にする前段階のものをさす。
甘くて、お米の粒が濁ったように漂い、一口口に含むと、お米を何度も何度もかみしめた後に感じる甘みを堪能することができる。
初めて甘酒を飲んだ。幼いころに、神社の境内で配っている甘酒に興味がわいて一度だけ父に強請ったことがあった。とても甘い香りで、大きなお鍋から湯気があがっていて、人がその周りを囲い、「ありがとうございます」と受け取る。ふうふぅと息を吹きかけ覚ましながら一口口に含むと、その人が笑顔になったのだ。
私も飲んでみたい、そんな風に思わせるだけの笑顔だった。
甘酒を配っているお兄さんに近づけず、代わりに父が取りに行ってくれた。手の中に納まった紙コップの中は真っ白で濁った白い粒が浮いていた。
ふぅふぅ。
同じように息を吹きかけ、覚ましながら一口なめてみる。
何だろうかこの味は…。私は初めて感じるアルコールの鼻の抜ける感じと、暑すぎて舌がびっくりしていることを覚えた。
二口ほど飲んで、もう飲めないと父に渡した。
それ以来甘酒はお酒で、飲めるものではないと私は勝手に思い込んでいたのだ。
体が冷えているなら、甘酒を頼もう。
先生の一言で、私の甘酒に対する恐怖心、、がよみがえった。
けれど、もう何年も昔の話である。私の舌も、少ないながらも酒をたしなめるほどの味覚に成長している。
目の前に運ばれてきた甘酒はお茶のように湯呑に入っていた。
緑色の湯呑に八割ほどあの白く濁ったお粥と重湯の間のようなお米が浮いている。
先生が一口口に含むと、目を細めた。
うん。うまい。
手渡された湯呑に私はそっと口をつけた。熱い。舌をやけどした。
けれど、喉の奥にゆっくりと広がる甘い香りが、私の胃を温めた。スーッと鼻を抜ける甘い香り。あ、これがお米の味の向こう側だ。
私は、もう一口甘酒を口に含んだ。粒粒のお米が舌の上で踊りだす。
甘い。
アルコールはほとんど感じなかった。もう少し覚めていればごくごくと喉に通してしまいたいほどだ。
熱いから、ゆっくり飲むことで体の芯から温まっていく。
甘酒は、おいしいのにぐいぐい飲めないものなんだなぁと私ははふっはふっと息を吹きかけながら何度も飲んだ。
湯呑の最後に残るお米の粒を口の中で咀嚼し続けるとさらに深い甘みが口に広がった。
はぁ。
息をおなかの中から吐き出して、穏やかな気持ちが膨らんだ。
体を温めると心も温まる。私はふと、目の前で「うまいだろ」と笑う先生の顔を見て思った。
この文章を書きながら近くのマグカップを口に漬ける。
ふと甘酒の味を思い出していたものだからカフェラテがとても苦く感じた。人間の想像力は味覚さえも支配するなぁともう一度カフェラテだと思いなおしてから飲むととてもおいしく感じた。
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