エッセイ 積読本


「読まない本」「これから読む本」いろいろな意味を人それぞれに持っているかと思うが、山のように積まれた本の中から引き抜く。

「今日の一番」と呼びたくなるその本は見捨てられていたわけではない。

本棚の中に、机の上に、枕元に、雪崩を作りながら、本はそこで生きている。本屋へ行くと自然と活字を眺める。読書をする人は文字をよく読み、いろいろな言葉を知っているというが、本屋へ行く人もいろいろなことを知っている。本屋だけではない。どんな場所へ行ってもそこで得られるものはそこでしか得られない。足元から天井まで本がびっしりと詰まった本屋へ行くと安心する性分のようだった。一日一回ほんの森へ迷いこむ。本の背表紙に「今日も来たよ」と心の中で声をかける。毎日売れていない本もいるけれど、君のタイトルは実にありきたり、けれど、そのありきたりなタイトルだからこそ手に取られない不幸な本になってしまったわけだが、きっとそのタイトルではなくてはならぬ理由があったのだ。だから君が自信を無くす必要はないよな…。なんて勝手に会話する。

森の中をさまよい。紙の香りを肺いっぱいに吸い込んだ。今となっては電子書籍という便利なものもできたが、私は紙が好きだ。本を書く人、表紙を描く人、文字数の構成を決める人、製本する人、コメントや解説文を書く人、帯を作る人。そして、その本を手に取り読む人。本は紙という媒体で人から人へ手から手へ渡っていく。その瞬間にも物語が生まれると思うと心が躍る。わくわくどきどき。小さな子供たちでも表現できる高揚感、夢へとつながる知識の森。紙に触れて私は生きてきた。一日一冊本を手に取り開く、物語の中で人が生きていることが幸せと感じるのは変な、異常なことだろうか。

本を持ち、自宅の積読本の上に積む。お風呂に入って忘れてしまったり、友人からのLINEですっかり置き去りにされてしまったり、それでも毎日森へ行く。背表紙を覚え、どこにどんな本があるのかわかっていても、目にとどまる本は毎日違って新鮮だ。大好きだから触れ合っていたい。大好きだから目のとどまるところにいてほしい。それが積読する意味なのかもしれない。私は毎日、新しく本を積み、また新しく本を引き抜く。今日も夢を明日も夢を、時には現実も見るけれど、夢を運んでくれる一文字一文に出会うために、積読はやめられない。










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