エッセイ 愛なんてなくても生きていける。

愛なんてなくても生きていける。




恋愛なんてしなくても生きていける。

こう思ってしまえば、恋愛なんてしなくても生きていけるんだ。

女性にとって華やかな人生とは、数多くの男との経験があり、その後に、たった一つの幸せをつかみ取ること。

これは、私の妄想だ。

恋愛なんてしない。

そう決めた瞬間から、私の華やかな人生は終了している。

ただ淡々と、食いつなぐだけの人生を、幸せだと言えるのだろうか。




『あいつが失恋した。』

だからなんなのか。

あいつが失恋したからと言って私に何の影響があるのだろうか。

次があるよ。

大丈夫?

そんなの心配しているようで、心配などしていないただの偽善で、お涙ちょうだい。そういっているようなものだ。

何に対してかわいそうと言っているのだろうか。

出来れば今心の中で思っていることを原稿用紙にまとめて私に提出してほしい。

本心のみを書きつづられる原稿用紙がこの世界に存在するならば、彼女たちの心の中は真っ黒かもしれない。

「実際長く続くと思わなかったよね」

さっきまでかわいそうと慰めていた彼女たちは、一度『かわいそうな対象』から離れてしまえば、ほら、この通り。

それは、どの女でも同じこと。

かわいそうと言いながら、内心は喜んでいる。

自分と同じ境遇の人間が増えれば増えるほど仲間意識が心の中であふれかえり、満たされる。

私だってそうだ。

彼女たちと何も変わらない。女としての醜い部分は必ず持っているのだ。

持っているはずなのに、うまく使いこなしていない。

こういう風に言える彼女たちは、『女』を生きている。

人の顔を伺い、その顔色に合わせた相槌を打ち続ける。中身はない。

ひどいときは右から左と、いつかのお笑い芸人がやっていたギャグのように話は流れていく。

頭の中に残るものは自虐的な話ばかりだった。

仕事帰り、山陽本線の高架を自転車でくぐる。都会と違ってあまり本数のない田舎の電車がタイミングよく頭上を通れば、少しいい気分だった。

毎日同じ道を通って、毎日同じ場所で働いて、毎日同じ時間に帰る。

刺激がほしいはずなのに、休みの日は家でぐうたらと寝てしまう。

何も変わらないと。多分あきらめているんだと思う。

これからの人生。私に目立つようなことは起こらず、少し人付き合いが下手な、素直じゃない自分のままで生活していく。

いつしか誰かに『嘘つき』と言われるのではないだろうか。

私はそれくらい嘘をつかないと自分を保っていられない。自分とはなんなのか、昔から、どこにいても悩み続けて、自分を作ってしまう。

それは理想でしかない。

それを理解しているのに、理想の高さだけは一著前に私から身を引いてくれないのだった。

でも、生きている感覚はある。

なぜなら、私はいつも羨ましがっているから。

人と比べているから。

人と同じようにしたいと思っているから。

こんな単純でなことで、私は「生きている」を実感しているのだった。


私は、人とはかなり違ってる。

ちょっと変というか。すごく変というか。自分でも変だとわかっている。

大人になろうとした子供時代。子供になりたい今がある。

背伸びをすればほめられた。

丁寧な言葉がつかえれば、大人は私をほめてくれた。

すごいね。うちの子なんか、そんな風にお願いできないわよ?

そういって驚かれることが少なからずうれしかった。

物心ついたころには「お手洗いお借りしてもいいですか」この言葉が自然とよその家で出ていた。

母は、鼻高々に「すごいわね」と言われて笑い。私はそれが普通だと思っていた。

お母さんおしっこ!という子供を外で見れば醜いものを見る目でその子供を見たりもしたものだ。

母の理想についてこられたのは、小学校までだった。

したくもないことから反発が始まった。

勉強。

好き好んで初めは勉強を自分からこなしてはいた気がする。

漢字に関しては特に好きで、よく書いていた。

しかし、ほめてもらおうと母に見せびらかすようになり、母はそれを試験に向けての勉強に置き換えた。

楽しんでいた勉強をしなくてはいけないものに変えられた瞬間だった。本心では受けたくない検定試験を受けて、母の結果と比べられた。そんなの勝てるわけがないのに。心の中でそう思いながら、次は頑張る。と母を笑顔にした。

できないことをできるようにしようと思ったのは、このころからかもしれない。

頑張ればなんだってできる。

じゃあ、やればできるんじゃないか。

兄弟で違うことをされると優劣がつけられている気がした。

私も塾に行きたい。

けれど、受験がしたいわけではなかった。

ただ、楽しく勉強したいがためだけに塾に行ってはいけないのか。

今となってはそう思う。

結果が出るものは嫌いだった。

習い事の大会だって、結果が出るときには、結果が出ると感じ取れた。

けれど、塾に行って成績が伸びないことに関しては別だった。伸びる気がしなかったのだ。

そう思った通りに成績は伸び悩んで、ぎりぎりになって受験をやめた。

やめる。

そういえば母は、納得するだろうと思っていた。

けれど、せっかくここまで勉強したんだからと私を試験会場に向かわせたのだ。

きっと勝つぞ。そんなお守りを持たせて。

勝てないと思う試合には挑みたくなかった。周りがペンを走らせる中、私はペンが動かなかった。

一生懸命勉強したはずだ。確かにしていたはずだ。だから小学校のテストでは悪い点なんてほとんどとらない。でも、これは別だ。別次元だ。そんな風に思った。

ここで、もしもまぐれにも結果が良かったとしても私の中で納得できるのだろうか。

きっとできない。

自分が納得できていないものに挑んで、いい結果が出るなんておこがましい。

私は悔しかった。


私には、勉強は受け入れられなかった。だなぜなら嫌いだから。

この後の高校受験も大学受験もうまくいったためしなどない。

何かしらに言い訳を振って、あきらめている。

私は人の顔色ばかりうかがって、自分が楽しいと思ったことがない。

笑っている。これはきっと楽しい。けれど、はっきりとこれが「楽しい」という感情なのかはあやふや。

いつも、誰かと出かけた後。話した後。私は落ち込む。もうだめだ。人に何を言っているんだ。死にたい。

こんなだから、人に引かれるんだ。

本性を見せれば、引かれ、顔色をうかがい続ければ罪悪感に見舞われる。

もういっそのこと人と付き合わずにひきこもればいいんじゃないか。

そう思ってひきこもったのは高校生の頃。

一年ほど引きこもって、何も変わらなかった。

カウンセリングに通い、社会不安障害と、自分の中では受け入れられないことを言われ、ただ自分は少し落ち着きたくて家にいるだけだ。

そう思っても周りにはそう見えないほどおかしい人間になっていた。

人の一言がきっかけで一瞬で死にたくなってしまう。

人が幸せそうにしているだけで死にたくなってしまう。

誰もいない家で発狂し、大量の睡眠薬をのみこみ、意識が朦朧とする中で手首を切る。

何も意味などない。

私にも、世界にも。

けれど、気付かなかった。

私の奇行に母は気づいていなかった。

切り刻めば血が床に滴り、カッターナイフが肉に食い込む感覚にも麻痺してきた頃、母と大喧嘩した。

言葉の一つ一つが私に突き刺さるものだった。

あんたはダメだから。

あんたはしょうがないから。

あんたは私の娘でしょ。

あんたは大丈夫よ。頑張りなさい。

心にも思っていないこと、あなたの顔色をうかがって生きてきた私にはわかるんですよ。

何かがぶちぎれて、母の前で発狂し暴れた。

あんたは私の何を見ているの。

言いたかったことはうまく言葉にならない。

頭がうまく働かず、体で母に抵抗するしかなかった。


どうして、こんなことするのよ。


そう聞こえた。

私の腕を見て、母はため息をついた。大きくため息をついた。


もうだめだ

そう思ってしまった。

殴ってくれるほうがよっぽどよかった。


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