第七話 集う仲間達

「議会の人達、皆良い人だったね!」


 統合政府の議会が終わった後、私はお祖父ちゃんと一緒にザボン島の湖猫酒場のVIPルームを訪れた。

 ここのミルクパフェは美味しいとのことで、お祖父ちゃんも昔は正体を隠していた総介さんと一緒に食べに来ていたらしい。私も食べたが美味しかった。

 双子の給仕のお姉さんも美人だったし、一階の酒場が大賑わいなのも頷ける。


「アイダ、お前は本気でそう言っているのかい?」


 お祖父ちゃんは可笑しそうな笑みを浮かべている。

 なんだか馬鹿にされているみたいでちょっぴり悔しい。


「どういう意味?」

「ウルタールの神官には復興支援を確約しているし、ランドルフ派のあの議員も新法案設立時の協力をした貸しを返しただけ。只のギブアンドテイクさ。それを良い人という風に考えてしまうのは危ういな」

「そうなの!? そうやって話を通すことができるなら議会を通すことに意味なんて有ったの?」

「議会を通すことに意味が有るんだ。人を動かすには常に大義を求められる」

「なんか総介さんみたいなこと言うね」

「奴と俺の違いは視点だ。彼は神の視点から万物を管理し、干渉し、善導しようとした。だが人間の生き方は人間が決めるべきだ。俺は人間として話し合い、より良い世界の在り方を提案し、同じ人間に納得してもらうことで世界を前に進めたい。その一点において俺と彼は絶対に分かり合えないし、殺し合うしかない。だから、殺そうとしたんだけどな……」


 お祖父ちゃんは憂鬱そうにパフェの残りのクリームをスプーンで掬う。ちびちびと舐めてちょっぴりお行儀が悪い。


「でも、あいつの考えたことはそういうことじゃないんだよな」

「どういうこと?」

「あいつの目指したことの究極とは、家族との穏やかな生活だ。神にすら邪魔されぬ究極的な平和、そして永遠。だからこそ奴は世界を破壊して世界を作ろうとした」

「スケール大きすぎてちょっと分かんないよ……」

「人間の善性は優しさを殺す。人間の悪性は一切を惜しみなく奪う。善も悪も、奴にとっては邪魔でしかなかった。故の虚無こそが唯一の幸福への道であると奴は考えた」

「ううん……何も無いなんて、悲しいよね。私だって私の居た世界から何一つなくなっちゃったもん。それは知ってる」

「俺もそう思う。アイダ、君もその気持だけは忘れないでくれ。君がそう思うということはきっと、俺が君の世界で生きていた証だから」


 お祖父ちゃん、少しさみしそう。

 

『自分が正しい自信が無いのよ。サスケちゃん、実は総介の言うとおりの世界にした方が皆幸せになれたんじゃないかって迷ってるんだから』


 流石アトゥ! お祖父ちゃんのことをよく知ってるね!


『もっちろーん!』

「ねえおじ……佐助さん。私は貴方を信じてるよ。最後まで誰かの盾になって、戦い続けたのは貴方じゃないけど貴方だもの」

『ちょっとアイダ! 何一人でヒロインポイント稼いでるのよ! 後でナミハナにしばかれるわよ! 佐助ちゃんの見えない所で! 陰湿に!』


 ちょっとお祖母ちゃんのイメージ変わるような事言うの止めてくれない!?

 嘘だよね!? 嘘だよね!?


『秘密秘密~』

「アイダ、頭のなかで何か騒いでるなら少し黙らせておいた方が良いぞ」

『やばっ、バレてる!』

「んー、どうやるの?」

『ちょっとアイダ!?』

「まだが来るまでは少し時間が有るな。ちょっとおでこを広げてみろ」

「はい」

『もうダメかも吾輩』

我は希ういあいあ――」

『らめええええええええええええええ!』


 そう言ってお祖父ちゃんは私の額に手を触れて、アトゥちゃんの簡単な黙らせ方を実演してくれた。

 アトゥちゃんは甲高い悲鳴を上げたかと思うと、この後丸一日黙ってくれた。やったね!


     *


「はーい、サスケさーん! お呼びしてらした皆さん連れてきましたよー!」


 三十分後。

 給仕のお姉さんがこっちにやってきてくれた。

 ギルドでは依頼の斡旋などもする敏腕らしいが、見た目が幼いので、可愛いという印象の方が強い。


「応ッ! 邪魔するぜ!」

「お久しぶりですシドさん!」


 スキンヘッドだ。

 給仕のお姉さんの後ろから白塗りスキンヘッドのお兄さんが現れた。

 何だこの人怖いぞ。


「いやあしかし統合政府の直轄部隊に元全人軍の俺が参加することになろうとは。時代も変わったもんだねえ」

「はーい、再会祝のビールでーす! これはマーチの奢り!」

「悪いな。マーチちゃんも一杯どうだ?」

「サスケさんの頼みとなっちゃあ仕方ないね! じゃあ一杯だけね!」

「「「乾杯!」」」


 スキンヘッドのおっちゃんと給仕のお姉さんとお祖父ちゃんが勝手に乾杯し始めた。何だこの人達は、仲良しなのかもしかして。


「あー! もう始めてるでありますか! 酷いであります!」

「義兄さん、案外薄情だなあ」


 続いて現れたのは眼鏡をかけた生真面目そうなお姉さんと全身から機械油の香りをさせる細面のお兄さんだ。


「あらあら、マーチちゃんビール取ってきますね」

「ミリアとレンか! まあ座ってくれよ」


 えっ、レン叔父さん!?

 いや厳密には叔父じゃないんだけど! お祖母ちゃんの弟だから大叔父さんだけど!

 それにミリアさんってことは……ああそうか! 

 なんかイメージ変わるなあ……この二人の話とかしたいけど、私が未来人って言えないしなあ……。


「人数も揃ってきたし、紹介しよう。この子が今回この世界に迷い込んだアイダ。この子も含めて佐々総介の追討部隊を編成する。ここまでは皆オッケー?」

「待って欲しいであります。自分達はまだこの子に自己紹介してないであります!」


 ミリアさんにそう言われるとお祖父ちゃんはしまったという顔をする。


「違いねえ。こんな美人なら俺もお近づきになりてえってもんだ!」

「シドさん、恋人とより戻したんじゃないんですか?」

「ああ、だから今の台詞は秘密だ」


 一同ドッと笑っている。

 この人一体何者なんだろう。

 もしかしてものすごい魔術師とか、とんでもない邪神の化身かなにかなんだろうか。


「俺はシド。シド=マキシマ、元々軍人だったが、色々あって除隊した。それ以降は湖猫として世界を回っている。サスケとはその頃に親しくなったんだ。よろしく頼むぜ嬢ちゃん」

「は、はい! よろしくです!」


 話し方とかは普通だ……!

 何者だこの人……!


「じゃあ次は自分が行くであります! 自分、ミリア・アルミリア・アストラルであります! ナミハナお姉さまに修行をしていただいていて、サスケ殿とも何度か共闘したことが有る縁で今回は馳せ参じました!」

「そして僕はその兄、ミゲルだ。遅刻はしてないよね」

「エイダ殿! よろしくでありま――ミゲル!?」


 場の空気が凍りつく。

 その場に居た全員の視線の先を慌てて振り返る。

 お爺ちゃんの背後に見知らぬイケメンが立っていた。


「何をやっているでありますか! そっから離れるであります!」

「妹の割に冷たいなミリア」

「ほぼ他人であります!」

「あっそ。それはそれとして昔戦っていた頃に比べて腕が落ちたな、佐助」

「当たり前だろうが。お前は腕を上げたみたいだな、ミゲル」

「今や全人軍の工作員だからな。荒事ばっかりやっていた僕と、政治家になっちゃったお前じゃ腕も違うだろうさ」

「軍人嫌いのお前がねえ……変わるもんだ」

「今はハーフリングにも門戸を開いているからね。犯罪から足洗うならあの時しか無かったのさ」


 誰!? 誰あのイケメン!

 線が細いアジアンなイケメン!


「ミゲル・ハユハだ。全人軍から派遣されて、佐々佐助の軍事顧問を務めることになった。よろしく頼むよ」


 謎のイケメンお兄さんはそう言うと空いていた椅子に座り込む。


「ところでミゲル、駆けつけ一杯だ」

「そういうアルハラ癖は父親に似たな、佐助」

「マジかよ。知らなかったわ。ビールで良い?」

「構わない。ザボン島のビールは好きだ」


 周囲の心配を他所に、お祖父ちゃんはなぜだか気安い素振りで彼に酒を勧め、二人で乾杯をして一気に飲み干した。

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