第五話 未知との激闘

 私とお祖父ちゃんはウルタール諸島の内海で、互いの機体で背中を預け合う。

 とはいえ、私のネオと比べてお祖父ちゃんのプロトは三倍近い大きさが有る。

 ちょっとチグハグだなと思って、笑ってしまう。


「アイダ、雑魚は俺が蹴散らす。そのエクサスの相手は任せたぞ」

「はい!」

「此処が踏ん張りどころだ! 一緒に頑張ってくれ!」

「はいっ!」


 いやったあ!

 ヤングお祖父ちゃんから頼み事されちゃった!

 天国のオールドお祖父ちゃんもこれにはきっとニッコリだよね!


『ちょっとアイダ、調子に乗っちゃ駄目よ?』


 あ、アトゥちゃん。

 すっかり大人しいと思ってのに、どうしたの?


『戦闘中ですもの。サポートしない訳にはいかないでしょう? あと吾輩のことは秘密よ、秘密』


 分かってるって。


『今、吾輩達の目の前に居るあの細長い二脚機体は、ティンダロスの都市で作られた最新型エクサスと見て間違い無いわ。サスケちゃん、チクタクマンと我輩が居ないことによるケイオスハウルの弱体化をああやって重武装化して補っているみたいだけど、その結果としてただでさえ最悪の機動性が絶望的なレベルになってるのよ。それを証拠に見なさい。あの形態になってからサスケちゃんその場から一歩も動いてない』


 つまり、敵の高機動エクサスは全部私達が相手した方が良いってことだよね!


『そういうことね』


 お祖父ちゃん、見直してくれるかなあ。ふふふっ!


「それじゃあ、行きます!」


 真っすぐ行って、ぶっ飛ばす!


『エーテルワイヤー展開、ぶちかましなさい!』


 ワイヤーを手繰り、ティンダロスのエクサスを引き寄せながら掌底を放つ。

 ただ一撃で、敵は紙屑のようにぐしゃぐしゃになった。


『その調子よ、アイダちゃん!』

「やはりそうか……高速移動する敵に対してワイヤーでの捕縛は相性が良いみたいだな。その調子で頼む」

「うん! 任せてお祖父ちゃん!」


 次に現れたティンダロスのエクサスは私を避けてお祖父ちゃんのエクサスへ向かおうとする。

 二足歩行タイプとホバータイプの混成軍団。

 数は十かそこらだろう。

 まずは跳躍して空中で立ちふさがり、二体の敵エクサスを蹴り飛ばす。

 ホバータイプの機体から銃口を向けられるが、お祖父ちゃんのケイオスハウルからの支援砲撃で、敵の射撃系機体はあっさりと吹き飛ばされた。

 身軽な白兵戦仕様の二足歩行タイプが三体同時に私へと迫る。


『貴方の自前だけじゃ心もとないわね。少し魔力を送るわ』


 ありがとう!


「うおおぉらああっ!」


 空中でネオの肘から魔力を噴出。

 勢いに任せて迫ってくるエクサスの刀を手刀で弾き飛ばし、腕を掴んで別のエクサスに叩きつける。

 

『危ないわよ! 手を離しなさい!』


 ネオのマニピュレーターが泡立って溶解し始める。

 これはやばい。あのエクサス、溶解液でも身に纏っているのかな?

 アトゥちゃん! 機体の修復お願い!


『そんなのしたらサスケちゃんに私が居るってバレるじゃないの! 恥ずかしいから嫌よ!』


 どのみちバレてるよ! 大丈夫!

 そうじゃなくてもどうせ総介さんが私達を裏切ってバラすって!

 それならもう素直に白状した方が印象良いよ!


『貴方って娘は! まあ撃墜よりはマシだけど!』


 アトゥと漫才を続けている間も戦いは終わらない。

 敵エクサスがまっすぐに突き出して来た刀を払い除け、スウェーで密着。

 体重を乗せて体当たりを決め、細身の敵エクサスを速度と重量で押しつぶす。


「うんうん、お祖父ちゃんの言う通りだ! 相性が良いみたいだね~!」

『アイダちゃん、後ろ!』

「おぉっと!」


 咄嗟に跳躍して正体不明の攻撃を回避。

 振り返ると、何時の間にか大鎌を構えたエクサスが私達の背後に立っていた。

 やっぱりレーダーに映りにくいのはずるい。

 大鎌を構えたエクサスは飛び上がった私達に向けてもう一度鎌を振るう。

 咄嗟にワイヤーで受け止め、距離を取るが、次の瞬間にはワイヤーが溶解されてしまう。

 面倒な相手だ。


「でもきっと、大物だね!」


 大鎌を躱しながら、私はお祖母ちゃんの真似をして笑顔を見せる。

 そんな時、お祖母ちゃん本人から通信が入る。


「様子見に来ていた敵のボスっぽい機体に奇襲仕掛けたら逃げられましたわ! アイダ、手柄はくれてやるから逃さず殺っておしまい!」

「へへ、オッケー!」


 ネオの全身に張り巡らされた魔術伝導経路。アトゥの肉体を利用した邪神ファイバーによる完全なる人機合一。その性能を以てすれば、私の持つ武術の力だって増幅できる。


「大気中の魔力マナ感知完了、いけるわよアイダちゃん」

「――我が神心いあいあ圏境へと消えよあとぅ


 そう呟くと、私の身も心も大気の中に溶けていく。

 我と全の境目は消え失せ、戦場の全てが自分の側に近づいていく感覚。


「――――ッ!!」


 目の前の死神めいた鎌使いのエクサスは慌てて警戒を始める。

 それもそのはずだ。

 向こうにはこっちの存在が知覚できなくなっている。

 ケイオスハウル・ネオと私の持つ魔力オドを、大気中の魔力マナに合一させ、魔術的な知覚能力一切から逃れる。

 私がアトゥの力で無理矢理手に入れた武の到達点。

 今の私ならお祖母ちゃんにだって対抗できる。


「貰ったよ!」


 正面から近づき、青黒いエクサスの頭部を手刀で叩き割る。

 中から大量の青黒い液体が吹き出し、機体がよろめく。

 その隙に鎌を奪い取り、力任せに相手の機体に叩きつける。

 青黒いエクサスの右腕が真っ二つになった。

 しかし青黒いエクサスは身を捻り、左腕だけで機体に刺さった鎌を奪い返し、ネオに向けて振るう。信じられない出力だ。

 不意打ちの一発が無かったら危なかったかもしれない。

 でも――――。


「覇ッ!」


 大量のワイヤーと機体に仕込まれた邪神ファイバーを通じて、受けた斬撃の物理的エネルギーを周囲へと散らす。

 水しぶきが上がって視界が塞がれる。

 その隙に逃げようとする敵のエクサスだが、そんなこと、今の私が許す訳も無い。


「今だよ!」

『えっ、まさかあれをやるの!?』


 私の操るネオは背後から貫手ぬきてで青黒いエクサスのコクピットブロックをを突き刺した。


「合わせてね!」

『こうなりゃヤケよ! やってやろうじゃない! 覚えてなさいよ!」

 

 そう、これが私達の必殺技。

 中に居た操縦者をアトゥちゃんとの対面により発狂SANチェックさせ、脆弱になった精神をアトゥちゃんが取り込む。

 残った機体に関しては……


「「邪神爆熱掌ゴッドハンドパニッシャー!」」


 敵の機体は内部へと直接火山噴火に匹敵するエネルギーを送り込まれ、内部構造が高熱で気化することにより盛大に爆発四散。

 跡形も残らない。

 心身因果共に焼き尽くす。まさしく必殺技だ。


「良くやったな」

「見てた!? 見てたおじいちゃん!?」

「大したものですわねアイダ。助かりましたわ」

「やった! お祖母ちゃんにまで褒められた!」

「ところでアイダ」

「なになにお祖父ちゃん!」

「アトゥを出せ」


 私はコクピットの隣の席を見る。

 何時の間にか実体化したアトゥちゃんがシクシク泣いていた。


「だーかーらーやだったのよぉおおおおおおおお!」


 アトゥちゃんは何やら悲鳴を上げているけど、若干期待している声色だ。

 今は私が契約者だからね。分かるよ、良く分かる。

 お祖父ちゃん大好きな者同士、気持ちはちゃんとわかってるから。

 本当は最初から会いたかったんだよね。でも恥ずかしかったんだよね。分かる分かる。


「ぐええええええ! 覚えてなさいよぉおおおお! アイダァアアアアアア!」


 あっ、悪役っぽいこと言ってる。


「アトゥ、妙なことをしたらケイを呼びますわよ」

「ひんっ!」

「アトゥ、俺は何が起きているか全くわからないけれどお前を信じたいんだ。だから……分かるな? 絶対に、絶対に妙なことをするなよ」

「ひぃんっ!」


 本当にアトゥちゃんこの二人に弱いんだなあ……。


「なんで久し振りの再会なのに二人共冷たいのよぉ!」


 うーん、確かにこれは幾ら強くても面白キャラ扱いされるね……。


     *


 私達はウルタール襲撃の事後処理と報告をお祖母ちゃんに任せ、テート島に在るお祖父ちゃんの地下魔術神殿へと戻った。


「それじゃあこれまでの経緯を簡単に説明してもらおうか」


 アトゥちゃんは旧神の印をマシマシにした拘束具でグルグル巻にされている。

 本気だ。いや確かにニャルラトホテプの化身だからそれぐらいするのは当たり前だけど、だからといってそこまでやるものなのだろうか。


「えーっと、佐々総介の甘言に乗って復活して、佐々凛の蘇生を手伝いました」

「それから?」


 お祖父ちゃんが穏やかな笑顔を浮かべている。

 恐らく怒りが一周回ってなんか安らかになっちゃったのだろう。


「それから……佐々総介に勧められてアイダちゃんと契約しました」

「あのさあ……なんかこう、自分の試練を乗り越えた者だけを認めるとかさあ、そういうの無かった訳?」

「いや、ほら、サスケちゃんが頑張ってくれたからそこはサービスっていうか」

「アトゥ、正直に言った方が身のためだぞ」

「な、なんのことかしら……」

「佐々総介と佐々凛に挟まれてアイダに協力しろって脅されたんだろ」

「…………はい」


 そうだったの!?

 私達の築き上げてきた信頼関係は!?

 そういう切っ掛けで私の所に来たの!?


「ちょっと待ってアトゥちゃん! 私達、コクピットで添い寝する程度には友達だったよね!? 信じてたのに! 脅されていただけなんて!」

「やめなさいアイダちゃん!」

「今聞き捨てならない言葉が聞こえたな」

「あーっ! やめて!」

「待ってお祖父ちゃん! 切っ掛けはどうあれ私達本当に仲良しなの! いじめないであげて!」

「アイダ、怒らないから素直に言ってほしいんだ」

「うん!」

「添い寝の最中に何かされなかったかい?」

「え? 特に……普通に一緒に寝てただけかなあ。寒かったし。あ、肌超すべすべだったよ!」


 胸をなでおろすアトゥちゃん。

 やっぱこの子可愛いなあ。


「アトゥ、何故胸をなでおろした」

「え゛っ」


 うーん、こっから先は自業自得だねっ!


「洗いざらい吐いてもらおうか」

「待って! ちょっと! 女の子なら良くあるレベルよ!」

「何処までだ。何処までがお前の良くあるレベルだ」

「ちゅーだね」

「アイダァアアアアアアアア! やめてえええええ!」

「やけにアトゥの力を使いこなしているなあと思ったよ!」


 お祖父ちゃんが壁に拳を打ち付けて叫んでいる。

 可愛い。


「待ってお祖父ちゃん! 中学生ならチューくらいはすると思う!」

「長瀬一族の血に毒されおって! お祖父ちゃん君をそんな孫にした覚えは有りません!」

「すごいわ。面倒臭さでは佐々総介とタメ張ってる」

「いやー、若いねお祖父ちゃん」

「うるさい! 特にアトゥ! 親父の話をするな!」

「あぁん、こわいわこわいわ怒らないで?」

「叔母ちゃんが家出した挙句、夢見人の男の子と駆け落ちした時の話するよ」

「待って……? 君の叔母って、その……」

「お祖父ちゃんの娘だね」

「どうしてそういうことになるんだよ!」

「後から話を聞いた人間としては何もかもお祖父ちゃんが面倒くさいのが悪いって思ったよ」


 お祖父ちゃんを大人しくさせる為の嘘である。

 実のところ、双方面倒くさかった。

 佐々一族は代々面倒くさいらしいとお祖母ちゃんは呆れ顔だった。

 一応、孫=私の従兄弟が生まれてからは和解したので、私は仲が良い時代しか知らない。


「あ゛あ゛あ゛あ゛! どうしてそう悲しいことばかり起こるんだよ!」

「大丈夫だよ、世界が滅びたのに比べたら!」

「メンタル強いなお前は!」

「へっへーん、なにせ世界の終末を乗り越えた女だからね!」

「最初は真面目で良い子っぽいなあと……思ったんだけどな」

「え、違うの!?」

「良い子なのは否定しないけど、アホの子かなって……」

「アホ!? お祖父ちゃん酷いよ!」


 ちょっと泣きそうだ。

 大好きなお祖父ちゃんにここまで言われようとは。


「まあ……ともかくだ」

「うん」

「何かしら」

「今の話は、ちょっとナミハナには秘密でいこう。良いな」

「うん!」

「そうね」

「アトゥ、この子の口を塞ぐ仕事はお前に任せる。狼に羊の番をさせている感がすごいけど、どうしたってお前にしか頼めない」

「任せてちょうだい!」


 なんで二人共手と手を固く握っているのかな……?

 非常に理不尽な思いにとらわれる私なのであった!


「あ、あー、皆さん聞こえますか?」


 神殿の中に有るラジオが勝手に起動し、唐突に総介さんの声が流れてくる。


「皆さんお久しぶりですアマデウスです。ウルタールの市街を襲撃したティンダロスの猟犬は私の差し金です。この度、超次元都市国家ティンダロスと私は同盟を組み、この次元へと侵攻を開始しました。投降の際は空に向けて『助けてアマデウス仮面』とお叫びくださいね!」

「……」

「…………」

「親父いいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」


 お祖父ちゃんが悲痛な叫び声を上げる。

 私も正直混乱している。

 何やってんの。

 あの人何やってんの。

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