劇場版 斬魔機皇ケイオスハウル~Faithless Future~

プロローグ1 星を見る少女

 複座のコクピットの中で、機体に接続した視神経を通じて夜の海を眺めながら、のんびりと微睡んでいた。

 私は海が好きだ。特に夜の海は好きだ。

 蒼い夜空に赤や白の星が輝き、黒い海がその光を受け止める。

 何処までも続くさざなみの音に包まれていると、死んでしまったお父さんお母さんのことを思い出したような気分になる。


「もうそろそろ時間よ。それとも、ここでこのままゆっくり暮らすことにした? 吾輩と貴方でイブとイブになって世界をやり直すのも悪い気はしないけど?」


 アトゥが囁きかけてくる。

 人はそれを悍ましい呼び声だなんて言うけど、私はそう思えない。

 だって、その力で守ることができる人が居るんだから。

 そう言ったら、あの人は笑ってくれた。お祖父ちゃんにそっくりな笑顔だった。


「ううん。ちょっと皆のことを思い出していただけ」


 目を開ける。

 波の間に揺れる一機のエクサスの中に私は居る。周囲は満天の星空。私の一番好きな景色。

 機体の名前はケイオスハウル・ネオ。

 私は普段からネオって呼んでいる。

 二足歩行型エクサスとは思えない程軽いボディは、魔術による重力操作の賜物だ。

 

「サスケちゃんのこととか?」


 そのエクサスのコクピットで、私とアトゥは添い寝していた。

 アトゥ、隣で白い衣トーガを着た黒髪の女の子。

 この世界で最後の私の友達。正体は神様。


「うん。そうだね。それもある。だってほら……この世界でティンダロス相手に最後まで頑張ったのはお爺ちゃんだから」


 返事をしながらケイオスハウル・ネオに意識を戻す。

 全身を覆う青い装甲は金色に縁どられていて、所々に時計の紋章が刻まれている。

 頭には私の髪の色に良く似た青い魔力網エーテルワイヤーが装備されている。

 これは私の思い通りに動くもう一つの手みたいなものだ。

 このケイオスハウル・ネオがこれから私と一緒に戦う力。


「行こうよ、アトゥ。この世界にはもう未来なんて無いんだから」

「ええ、そうね。貴方がそう望むなら。でも忘れないで」

「わかってるよ。アトゥのことは秘密にする」


 ネオは私の意思を読み取って海の上に

 これも魔力網エーテルワイヤーと重力操作のちょっとした応用だ。

 

「「――ケイオスハウル・ネオ! 出撃!」」


 私達の声が重なると、波間に黄色い魔法陣が浮かぶ。

 欠けた五芒星エルダーサインに良く似たその魔法陣は、もはや誰も使わないこの世界の自然魔力マナと無尽蔵に等しい私達の生体魔力オドを合一し、練り上げ、一つの螺旋ドリルに変換する。

 循環する魔力は時空の一点に集中し、捻じ曲げ、折り曲げ、五十年前の過去へと私達をつなぐ。

 私達の乗るネオはおよそ名状しがたい色彩の虚空へと一歩足を進めた。

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