第50話 君だけが望む全てだから

 前回までのケイオスハウル!

 

 ついに虚無教団テスタメント偉大導師エクス・グランドマスターである佐々総介の居城に乗り込んだ佐助達一行!


 父子はついに対面して互いの思いをぶつけあうも話し合いは虚しく決裂!


 総介の魔術によりナミハナが消え、佐助は一対一の戦いを強いられるが……?


********************************************


「父さん! あんたって人は!」


 父さんはナミハナの居なくなった虚空を見つめ憂鬱そうな顔で眉を寄せる。


「なんとか言えよ!」


「…………」


 父さんは無言で俺の瞳を見つめている。


「父さん、ナミハナを……殺したのか?」


「どう思う?」


「殺してない。俺は殺してないと思う」


「やっぱり君は怒るほど冷静になるね。妙に喧嘩が強い訳だ。怒った時点でそもそもの方向性が破壊と報復に向かってしまうのが玉に瑕だけど……まあ良い。佐助君は何故僕がミス・ナミハナを殺してないと思う?」


「それは簡単だ。父さんが殺そうと思ってもナミハナは殺せない」


「……くっ」


 父は玉座の上で忍び笑いを漏らす。


「ふふ……はは……」


 ずれた眼鏡を直しながらなおも笑い続ける。


「あははははははは! はーっはっはっはっ! ! 現在ミス・ナミハナは我が粛清魔術により亜空間に閉じ込められている! 何やら抵抗しているようだが遠からず彼女は亜空間ごと押しつぶされる筈だ!」


 やっと、俺の堪忍袋の緒が切れた。


「――――そうか」


 感情が一切の合理と摂理を無視して魔力へと変わり、ケイオスハウルの中へと流入した。


 抑えきれない魔力が蒸気の形で放出、そして独自の制御機構で収束されることにより、ケイオスハウルの両腕に展開していた光の翼が一対から二対へと増える。


「死んでしまえよおおおおおおおおおおお!!」


 ケイオスハウルの腰に装着されたフーン器官推力偏向ノズルが大量のエーテルを撒き散らしてに肉薄。


 総介のかざした右の掌とケイオスハウルの拳が正面からぶつかる。


「ほう、対粛清防御は常備しているか。流石チクタクマンの作ったスーパーロボットだ」


 総介は空いた左手で眼鏡の位置を直す。


「お前は今から父親でもなんでもない! だからもう我慢も加減もしない!」


 更にケイオスハウルの拳を掴んだまま玉座から立ち上がる。


「いいや残念ながら君の姿は僕に似ている! そうやって歯止めが効かなくなるところが実に親子だよ!」


 そして回し蹴りでケイオスハウルの拳を弾き飛ばした。


「黙れ黙れ黙れ黙れ! お前さえ居なければ母さんだってあそこまでおかしくはならなかったんだ! お前さえ! お前さえ!」


 ケイオスハウルの拳が繰り返し総介へと振り下ろされる。


「やれやれ、息子と殴り合うのも父の務めですからね。あまり生産的では無いと思うのですが……まあ良いでしょう」


 彼はその一撃一撃を魔力障壁でいなしながら高速の詠唱を開始する。


我が権能を以て命ずおーぐとろど、あい、ふ――」


 俺も使っているから一発で分かった。あれは【萎縮】と呼ばれる即死魔術だ。


 撃たれたら死ぬ。


我が奉る神、暗黒のファラオに請願いたすおーぐとろど、あい、ふ――」


 俺と父の声が重なる。此処から先は詠唱勝負。一手でも出遅れたら即敗北の速さ比べだ。


「「彼の者へ万雷を浴びせげぶる――ええへ生きたまま臓物をかき回しんがーんぐ あいいその魂を萎縮せしめよふんぐるい ずろぉ!」」


 発動は同時。


 ケイオスハウルの動きが止まり、魔術障壁も掻き消える。


 俺達はそれぞれに戦闘どころではなくなったのだ。


 俺の四肢は異常な熱を発し、自ずと焼けただれる。それと同時に父の全身も名状しがたい音を立ててひび割れ砕け散り、鮮血を撒き散らしながら萎びていく。


 だがそこからの復活も同時。


 チクタクマンの加護により俺の全身は即座に修復。総介もまた自らの時間を巻き戻すことで再生を果たす。


「分かってもらえましたか佐助君! 君の言う通り僕は邪悪でこの人間世界に居るべきでない者だ! でも僕は幸せになりたい! だから僕が幸せになれる世界を作る! 君も来い! 君も其処でなら涙を流さずに済む筈なんだから!」


 やっと本音を言ったな糞親父!


 それを聞きたかったんだよ俺は!


「行くものか! お前が邪悪なのはよく分かった。だから俺が引導を渡すと言うのだ! 其処に直れ! せめて手ずからその首叩き落としてやる!」


「今まで一人も殺せなかった君が良く言えたものですね! 海賊達も! シャルルも! 凛も! 人間相手の止めを誰かに任せて自分だけ手を汚さず、栄光だけを受け取った男がよくも!」


「黙れ黙れ黙れ黙れ!」


 復活したケイオスハウルがハウリングエッジを繰り出せば、総介は自らの愛機プロヴィデンスの腕だけを召喚してそれを喰い止める。


 一進一退の攻防。いかに天才であっても魔術の血筋ではない総介、そして経験が不足しているとはいえ最高の機体を使って戦える俺。


 真っ当に戦えば互角になるのは当たり前のことだ。


「貴方だってアトゥちゃんもナミハナも居なくなってしまえば、世界を滅ぼしてでも取り戻そうと思うでしょう!?」


「俺はそんなことしない! 愛した人が愛した世界を俺は見捨てない! お前は自分のことが好きな人が好きなだけだろう! 相手の人格に興味なんて無いんだ! 俺はお前みたいに自分大好き人間じゃねえ!」


 ケイオスハウルの光の翼が刃になって総介を襲う。


「自分大好きじゃなきゃ人助けなんてできないでしょうが!」


 総介は生身のままで自分も光の翼を展開してその斬撃を受け止める。


「そんな男が最初から人助けしようと思うな!」


「その言葉そっくりそのまま返してあげますよ! 君だって無償の人助けは嫌いな癖に!」


 ケイオスハウルの翼と佐々総介の翼がぶつかり合い、その度に巨大な城が大きく震える。


「俺だってこんなことしたくなかったさ! なんで世界なんて救ってるんだ! お前が余計なことさえしなければ!」


「だから僕と一緒に全てを手に入れようと言っているのです! 君は世界なんて救う必要は無い! 君は僕にとって今の世界の全てに優先する!」


「母さんが死んだからか! 大切と言っても形見程度にしか思ってないんだろう! 死んだ人を死んだままに何故できない! 一人息子を置いて消えて、汚いことに手を染めてでも会いたかったのか!? それを母さんが知ってどう思ったか考えたことがあるか!」


 肩部ガトリングの流れ弾で城壁の一部が吹き飛び、腰部バズーカから射出された弾頭は空間跳躍によって天井に直撃する。


「勿論考えましたよ、問題有りません! 凛ならば僕の我儘を許し、暖かく受け止めてくれます! 彼女は貴方の母であったかもしれませんが、僕の母ともなる女性だったのですから!」


 佐々総介は手をかざし、光の翼でケイオスハウルを包む。


「お、お母さん!? うわっ!」


 視界が眩い光で閉ざされた。


「一切無明に再帰する。これは神意であり、我が振る舞いはその証明である。故に来たれ、無明彩機プロヴィデンス!」


 光の向こうから現れたのは、ケイオスハウルと同じ光の翼を備えた佐々総介の愛機プロヴィデンス。


 ついに本気の戦いという訳か。


「やるのか……佐々総介!」


「佐助君。最後の勧告です。この戦いで失った全ての者を新しく幸福な邪神の居ない世界で再び蘇らせましょう。だから私にくだりなさい」


「全て?」


「ええ、アトゥちゃんだけではありません。例えばこの戦いの中で死んだ無辜の人々を蘇らせても良い。僕としてはどっちでも良いのですが、貴方だって胸が痛むでしょう? コストのことなら心配無用、新しい世界では全てが可能で――――」


「くどい! お前の息子が見ず知らずの他人の為にそんな誘いに乗ると思ってるのか! 俺は正義の味方じゃない! 確かにこの戦いで犠牲になった人に関しては胸が痛むけど、それはそれとして知らない人の為に奉仕なんてしない!」


「そんなこと堂々と口にして恥ずかしくないんですか!?」


「お前の存在が恥ずかしいよ!」


「それもそうですね……ですがそうなると仕方有りませんね」


 プロヴィデンスは矛盾螺旋メビウスの杖を取り出して構えを取る。


「やはり君を倒して僕は僕の愛する人スベテを取り戻すとしましょう」


「お前を倒せば少なくともナミハナは助け出せる。俺にはそれで十分だ!」


 俺がそう啖呵を切った時だった。


「――――それには及ばなくってよ!」


 俺達の間の空間に火花が奔り、何も無い筈の場所からドリルが伸びる。


「なにっ!? 私の粛清魔術が――――」


 突如として飛び出した機体はプロヴィデンスに飛びかかり、その鋼の装甲をドリルで抉った。


「ぐあっ!?」


 かと思うと反撃を受ける前にケイオスハウルの後ろへ即座に隠れてしまった。


「おのれ! やってくれますね!」


「ナタリア・ミストルティン・ハルモニア・ナガセ! 無事帰還ですわ!」


「ナミハナ!」


「ビリービット! 信じられない! まさか佐々総介の創りだした亜空間からこの短時間で抜けだしたのかい!?」


「その通りですわチクタクマン。だってワタクシと佐助は対等のライバル、何時も助けられている訳にはいかないでしょう? 可愛げが無いけど許して頂戴ね、佐助」


「そんなことない! ありがとう! 帰ってきてくれて! 本当に……!」


 俺と共に歩いてくれる人が居る。こんなに嬉しいことは無い。


 俺の旅が一人足掻くだけの暗夜行路ではない。それだけで俺はまだ戦える。


「もう……男の子の癖に可愛いこと言うのね。ちょっと嫉妬しちゃう」


 良かった。本当に良かった。彼女だけは最後まで生きて、俺の隣に居てくれる。だから俺は戦える。彼女が隣りに居てくれるから、俺は何処までも飛んでいける。


「大したものですミス・ナミハナ……私の作った小世界からどうやって脱出を?」


「それを大人しく答えるとでも――」


 総介の問に答えたのは思わぬ相手だった。


「ぬわははは! それは儂じゃ!」


「ノッブ!?」


「その声は……悪心影! 貴方も居たのですか?」


 なんと斬九郎さんと行動をともにしていた筈の悪心影がナミハナと共に戦場に現れたのだ!


「斬九郎の命令でのう! こんな事もあろうかと分身をラーズグリーズの中に隠しておいたのじゃよ! それでナミハナをナビゲートしてお主の粛清魔術とやらを支えていた魔法陣にドリルを打ち込ませたのじゃ!」


「ナイ神父如き俗物にあの“剣聖”斬九郎が苦戦していたのはそういう訳ですか! 確かに分身に力を割けば弱体化もするというもの! おのれニャルラトホテプの使徒! 何処までも僕の邪魔ばかりする!」


 そういえばさっきの通信でケイさんに獲物を盗られたって嘆いていたけど……そういう裏が有ったのか!


「ま、そういう訳ですわ! ところでアマデウス?」


「なんだねミス・ナミハナ?」


「ワタクシのラーズグリーズの名前の由来はご存知?」


「後学の為に聞かせてもらおうか」


「Ráðgríð、即ち神の計画を砕く女神ですわ!」


「……ほう、やはり君がこの計画における特異点だった訳だ」


「そうね。そしてそんなワタクシが佐助と共に戦う以上、貴方の敗北は必然となった訳だけど……」


「なんだね?」


「お覚悟はよろしくて?」


「はっはっは! 僕が今まで覚悟も無しにやってきたとでも?」


「だ、そうよ? やってしまいましょう佐助!」


 父への怒り、嘆き、恨み。


 ナミハナへの期待、安堵、そして――――


「…………応ッ!」


 俺達の機体は同時にプロヴィデンスへ躍り掛った。


 万感の思いを、刹那に乗せて。


********************************************


 ついに始まった本当の戦い!


 完璧なコンビネーションでプロヴィデンスを押し込む佐助とナミハナだったが、アザトースと融合した総介は世界創造の力により幾度でも立ち上がる!


 次第に迫る星辰正しき刻! アザトース復活まで残り僅かな時間の中、佐々佐助は一世一代の奇策を思い立つ!


 次回、斬魔機皇ケイオスハウル 第五十一話「時を越えて~Beyond The Time~」


 佐助、矛盾螺旋メビウス宇宙そらつ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る