第46話 化身・佐々佐助
前回までのケイオスハウル!
母親が
「
魔法少女で
「注ぐ光は命の奇跡!
もうだめだ
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「母さん! 今さら何しに来たんだよ!」
「今のリンは佐助ちゃんの母にあって母にあらず! 救世を願う宗教団体“
こいつ、質問に答えてないぞ!?
「ちょっと貴方! 救世を願う? 正義? 何を言ってらっしゃるの? あの滅茶苦茶な演説は何よ! あんなことをして世界中の人を煽っておいて何が正義ですの? 貴方達のやっていることは弱者の尊厳を弄ぶ邪悪そのものよ!」
「今のリンは機嫌が良いから教えてあげる。あの演説は暴動を煽る為の嘘よ!」
「なんですって!?」
やっぱりそうか……。
「あらあら……ナミハナちゃんと違って分かっていたという顔ね、佐助ちゃん?」
「父さんがあそこまで感情的になるのはおかしい。何が有っても笑顔を絶やさない人だった筈だ」
「でもあれは間違いなく佐々総介、私の素敵な旦那様で、貴方の頼れるお父様よ」
「つまりあれは演技だろ? 世界中混乱に陥れる為だけの。俺の推測が正しければ、この後演説によって決起した風を装った武装集団が世界中で暴れる筈だ。でも何故? 何故そんな馬鹿げた真似を?」
「ふふふ……我々
お前が人と話す気が無いことだけは分かるぞ!
「俺の記憶の中の母さんを返せ……」
「佐助ちゃん、いいえ我が子よ、そして我が子の……えっと、ガールフレンド? で良いかしら?」
「変なところで素に戻らないでよ……」
その場に崩れ落ちる俺。
「サスケ、彼女が会話に気を取られている隙に急ピッチでケイオスハウルとラーズグリーズの修復も完了させた。アトゥも叩き起こす。タイミングを指示してくれ」
「俺がもう一度地面に膝をついたら機体だけ頼む。アトゥは俺がタイミングを見計らって呼び出す」
そして母に唇の動きが気取られないようにチクタクマンと会話する。
これで奇襲の準備はできた。
「ともかく貴方達には私とカダスまで来てもらうわ。それがかの偉大なる御方の意思を知る為の一番手っ取り早い方法ですもの。二人共、恐れることは無いわ。総介様は佐助ちゃんを後継として期待しているもの。貴方が頼めばこの馬鹿げた大乱もすぐさま止めてくれるわ」
「どうするおつもりなの佐助? 親子の問題ですし、ワタクシは貴方の方針に合わせますけど……」
項垂れる俺にナミハナが問いかける。
今の俺達は消耗している。無理な連戦は避けたい。
――と、俺が思うと俺の母親は思う筈だ。
「……母さん、せめて付いて行く前に教えてくれ。どうしてこんなことになった?」
俺は顔を上げ、立ち上がって彼女に問いかける。
「それはリンが第六王朝末期、今はエジプトと呼ばれる国の女王であった頃に遡ります」
「母さん、手短にお願い」
「そんな……!」
あからさまにショックを受けるマイ・マザー。
なんでそんながっかりするのさ……。
「佐助ちゃん、貴方は普通の人達と同じようなことを言うのですね。貴方は母の受け継いだ魔道を次代に繋ぐ義務とそれを自在に振るう権利が有るというのに……総介様は教育をいくらかお間違えになったのでしょうか」
本当に魔法を使える厨二病患者の相手は辛い……。
「…………」
でも、確かに悪の組織の首領の息子としてエリート教育を受けたかった。そうしたらここまで思い悩むことも無かったろうに。
「コホン、まあ良いでしょう。子供の前で父親の悪口など言うものではありません。なんやかんや有ってリンは日本の魔道の家門に生まれ変わります。貴方を産んだのはこの時ですね。そして前世の記憶や記憶を引き継ぐ生まれ変わりができるようになったのも同じです。リン=カルタとして自我を確立させた私はナイ神父のご指導により魔法少女として大活躍し、憧れの幼なじみである貴方のお父様をゲットしました。まるで少女漫画のような恋をしたのよ!」
「ナイ神父? あの男が家庭教師ですって?」
「あの邪神が真面目に家庭教師なんてする訳無いだろう!」
俺とナミハナの言葉を聞いて母は首を左右に振る。
「するわよ。というかしてくれたわよ。とてもお世話になったわ。総介様に魔術を教える時も調達が面倒な教材とか用意してくださったし」
俺はナミハナと顔を見合わせて首を傾げる。
そんな俺達に構うことなく母は話を続ける。
「だけど運命は残酷! 佐助ちゃんが出来た頃にはリンの身体は病魔に侵されていた……多少は魔術でごまかせたけど、最後は駄目だったわ。ごめんね、傍に居てあげられなくて……。本当は、貴方と一緒に生きたかった……」
胸を痛めるべき場面なのだろう。涙を流すべき場面なのだろう。
だが、今の狂気に近づいた俺の中からはその感情が抜け落ちていた。
そうだ、涙すらもう俺には許されない。俺に残されている時間は少ないのだから。
「――――なあ母さん、その延命魔術に何人使った?」
魔術の知識が有ればこれは当然の疑問だ。そして真っ先に聞くべきことだ。どんなに綺麗な事を言っても、結局魔術師のやることだ。信用してはいけない。
「そうね、ざっと四人で二年誤魔化したわね。貴方にママと呼ばれる為に」
人一人の命で死人を半年生かす。効率は決して悪くない。だがそんなことはどうでも良い。
「四人、誰を使った……?」
そうだ。その過程で人を殺したであろうことが俺には許せない。
「貴方のおじいちゃんとおばあちゃんよ」
「……は?」
最初、何を言われたのか分からなかった。
次に理解が追いついた時、悍ましさのあまり目の前の視界が一瞬だけ真っ暗になった。
そして、今更ながら俺は気づいた。俺の父はそれを分かっていてこの女を止めなかったのだと。
俺の正気を保っていた最後のか細い線が千切れる音がした。
「あ゛あ゛あああああああ! お前ら絶対に許さねえええええ!」
作戦のことなんて頭の中から吹き飛んでいた。
「ホワット!? ケイオスハウルがこの私の意思を無視しているだと!」
修理を終えたばかりのケイオスハウルが俺の意のままに動き出し、リン=カルタに向けて両手を組んで振り下ろす。
鋼の拳と少女のステッキが正面から激突し、大地が揺れる。
「ぶっ潰せ、やっちまえケイオスハウル!」
意識を悪意が汚染し始める。煮え立つような怒りが次々と魔力へと変わり、俺に力を与えてくれる。本来ならば、人間ならばあり得ない量の
鈍重だった筈の機体が信じられない速度で拳を繰り出し、リン=カルタを一方的に追い詰めていた。
「なんで俺なんか産んだ! なんで俺を! 何故俺を愛した! そんな愛なら無い方がよっぽど幸せだった! 俺は、俺は!」
俺がケイオスハウルなのか、ケイオスハウルが俺なのか、どちらか分からない渾然一体とした意識の中でなおも俺は叫び続ける。
「捕まえたぞ! リン=カルタァ!」
ケイオスハウルの巨大な腕がリンの両腕を握り、空中へと拘束する。
彼女はこちらを見て優しく、それは優しく微笑み、そして頷いた。
「やめなさい佐助っ! そんなことしたら貴方!」
ナミハナの声が聞こえた。
「ストップだ佐助! 君は――」
チクタクマンの声が聞こえた。
俺は、何をやっているんだ? 何をやっていたんだ? 我に帰ったがもう遅い。
「ゴッドハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアウル!」
至近距離からリンに向けて放たれるゴッドハウル。
彼女が弾け飛ぶ姿を見る前に、俺の身体は地面にどっと倒れ込む。
「ああ……腕が、腕が!」
ぼやける視界の中で最後に見たのは漆黒の両腕。
幾つもの目が生えて、こちらを見ている。黒い、原形質の、両腕。
そうか、母親を殺すような奴だもんな。これくらいの報いは受けないとな。
俺は人間じゃなくなってしまうのか。
恐ろしい筈のことなのに、俺は不思議とすんなり納得していた。
「だけどやっぱ、なんでだろう……死にたくないな」
口をついて出てきた言葉。誰にも届かない小さな独り言。こんなに酷い目に遭ったのに、それでもなお生きたいと俺は思っているのか。
だけど不思議なことに、その小さな言葉が俺を――――。
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「魔術とは何か、魔術とは人を進歩させる為の知識であり技術だった。リンが生まれた歌留多の家ではその例に漏れず魔術によって“究極の知識”を手に入れようとしていた」
佐々佐助が目を覚ますと、そこは寂寞とした荒野の只中だった。
目の前で佇むリンは変わらぬ笑顔を浮かべるばかり。
「今の貴方になら分かるでしょう? 貴方のお父様は、
次回、斬魔機皇ケイオスハウル 第四十七話「
邪神奇譚、開幕!
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