第43話 ニャルラトホテプvsニャルラトホテプ
前回までのケイオスハウル!
ついに佐助の下にナミハナの父である斬九郎が辿り着く!
同じように邪神の災禍に巻き込まれた二人は互いに響きあいながらも譲れない人の為に刃を交わすこととなる!
一刀の冴えを極めた斬九郎に対し、幾重にも策を巡らせ彼を待ち構えていた佐助!
果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか!?
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俺のケイオスハウルと斬九郎の悪心影が激突する。
ケイオスハウルより遥かに小柄な筈の悪心影なのだが、鍔迫り合いは驚いたことに互角。
「ガッデム! 馬鹿な! 出力ではこちらが大きく勝る筈だ! あのような旧式相手に互角など私の改修作業の意味が無い!」
「我輩達二柱分の邪神の力を佐助ちゃんが共鳴させ、佐助ちゃんの魔眼で擬似的な星辰の一致状態まで作ってるのよ! なんで押し勝てないの!? 悪心影なんて化身の中じゃさして強くも無い方の筈なのに!」
「…………」
技量の差、徹頭徹尾戦士として鍛え上げた心構えの差、相棒と過ごした長い年月。
機体を後ろに引くと、悪心影は瞬く間に接近して腹に向けて一刀を放つ。
それはケイオスハウルの分厚い装甲をバターのように切り裂き、コクピットにまで傷をつける。
「シット! 修復を開始する!」
こんなダメージをケイオスハウルが与えられたのは、ナミハナとの戦い以来だ。さすが親子。変な所で似たような真似してくれやがって。
まずは修復の為の時間稼ぎだ。
「ゴッドハウル!」
収束させないゴッドハウルによって牽制をかけると、悪心影はすぐさま後ろに下がって魔力障壁で身を覆って直撃を避ける。至近距離では威力が高いが、離れたら威力が下がるゴッドハウルの波動としての性質を理解してすぐに逃げたか。
だが障壁の作り方が荒い。魔術の心得はあまり無いと見た。
コクピットに付けられた刀傷が補修されたのを確認してから、俺は二柱の神に声をかける。
「焦ることはない。二人共、俺に魔力を」
此処に来るまでにこの男の戦闘データは他の仲間達から送信してもらっている。
長瀬斬九郎。大太刀を用いた剣術に特化した戦闘スタイルであり、まれに素手で戦うことも有る。剣術と言っても介者剣術と呼ばれる対装甲剣法が源流であり、通常の装甲による防御は非常に難しい。
これは単に優れた剣術というだけではなく邪神の力を利用した独自の秘剣にまで昇華されており、細心の注意が必要である。
「ゴッドハアアアアアアアアアアアアアウル!」
俺の絶叫を魔力により増幅し、振動を収束させて魔力障壁をこじ開ける。
この隙に両肩のガトリングガンを撃ちまくり、まずは奴に第一の邪神剣を抜かせるのが俺の狙いだ。
「邪神剣の一、矢返し!」
悪心影が大太刀を一閃すると、弾丸が来た方向にそのまま戻り、連射した弾と正面からぶつかり合う。
弾丸同士がぶつかり合い、そこら中に跳ね返り、結果として悪心影には一発も当たらない。
「チクタクマン、解析を頼む。時空間に極小の断裂を起こしていないかに焦点を絞ってくれ」
「アメージング! サスケ、君の言う通りだ! 極小の重力変動がケイオスハウル重装改のセンサーに検知されている!」
「そうか……それなら今までに出た邪神剣への対策は完成した。行けっ、アトゥ!」
俺はアトゥの本体を召喚して、黄金の枝や蔦で悪心影の動きを阻害しようとする。
だが悪心影は一瞬早くアトゥの本体の気配に反応してこちらへと踏み込み、袈裟懸けに大太刀を振り下ろす。
奇襲を回避しつつ一気に反撃、俺が予測した通りのムダが無い動きだ。
「展開角度
無数の魔術障壁を角度だけ変えて幾重にも展開し、刃筋を立て辛くすることで剣の勢いをそぎ取る障壁の作り方をした。
日本刀の一撃において必要なのは真っ直ぐな太刀筋だとされる。その太刀筋がそれぞれ違う角度で微妙に傾いた無数の魔力障壁で歪められてしまえば……。
「よし、弾いた!」
硬質の金属音が響く。今度の一刀はケイオスハウルの装甲に傷一つ付けられなかった。
悪心影が刀を弾かれた隙に背後からアトゥの金枝が、正面からはケイオスハウルのハウリングエッジがそれぞれ挟み撃ちをかける。
「甘いぞ小僧! 邪神剣の二、漣!」
だがその瞬間、悪心影の右腕が
「オーケー! この瞬間を待っていたんだ!」
ケイオスハウルの腰についていたバズーカをチクタクマンが操作して悪心影の足元へ発射。
二つ以上の邪神剣を同時に放つなど不可能だし、弾そのものではなく爆風ならばそもそも防御する術も無い。
分厚い装甲のケイオスハウルは至近距離でのバズーカの爆発など物の数にも入らないが、装甲自体は一般的なエクサスと変わらない悪心影にとっては間違いなく痛手だ。俺はこのまま一気に追い打ちをかけるつもりだった。
「邪神剣の三、三段突き!」
しかし、ことはそう上手く運ばない。
「なにっ!?」
予想外なことにダメージ覚悟で爆炎の中を突っ切った悪心影が迫る。
あの突きは攻撃速度と追尾性能と防御無視が特色、ケイオスハウルにとっては一番相性が悪い攻撃だ。
「危ないサスケ!」
反応が遅れた俺の代わりにチクタクマンが咄嗟に隠し腕を展開、コクピットを庇う。
繰り出された突きはいずれも隠し腕の関節部分を的確に貫き串刺しにするが、その為にコクピットへの到達が一瞬遅れる。
その間にケイオスハウルの両手が悪心影の手首をつかむ。
大太刀の切っ先はコクピットを貫き、俺の肩口を切るところだった。
俺がケイオスハウルのメインカメラと視神経を接続させていなかったらそもそも戦えていなかっただろう。
「良いわサスケちゃん! このままやっちゃいなさい!」
耳元で妖精のように小型化したアトゥが叫ぶ。
「勿論!」
俺はケイオスハウルの出力任せに悪心影の手首を握り砕く。
「うぉおおおおおおお! 邪神剣破れたり!」
そのままの勢いで大太刀を引き抜き、悪心影をボロ布のように振り回すと幾度も幾度も地面に叩きつけてエントランスの壁へと投げつける。
「俺の剣を破ったつもりになるんじゃあねえ!」
宙を舞う悪心影は受け身を取るより先にケイオスハウルへ大太刀を投げつけた。
反応が間に合わない。
大太刀はケイオスハウルの右腕を貫き、内側で分裂してケイオスハウルの機体そのものを内部から八つ裂きにし始める。
「邪神剣の三が崩し、八重月!」
「シット!」
チクタクマンがケイオスハウルの右腕を自切。
「返すぞ長瀬斬九郎!」
受け身をとる時間も与えずにゴッドハウル、肩部ガトリング、腰部バズーカ、そして胸部熱線照射装置の飽和火力によって徹底的に追い打ちをしかけた。
大気は揺れ、鋼雨が機体を食いちぎり、その隙間にバズーカの爆風と熱線を受けて、悪心影は見るも無残な姿へと変わる。
「――――ッ!」
突然の頭痛。
また頭の中にチクタクマンやアトゥ、そして自分自身の過去の記憶が渦巻き始める。
眠る赤子の俺、それを見守る祖父。重金属酸性雨の街。太古の密林に聳える一本の孤独な黄金樹。機械と人間の融合を目的にした実験。悠久の時を越えて芽生える望まなかった自我。暴走する邪神。
自分は今一体何をしているのか? 自分は今何処に居るのか? わからなくなりそうになる。
だけど俺はまだ此処に居る。
まだだ、まだ正気を手放す訳にはいかない。
「やったわねサスケちゃん!」
「まだだ! 俺の予測が正しければここからが勝負だ!」
「どういうことだいサスケ?」
もはや鉄屑と化した悪心影の下半身に突如として足が生える。
「褒めてやる! 俺と右府殿をここまで追い詰めたのはお前が初めてだ!」
斬九郎からの通信。彼は笑っていた。本当に、心の底から幸福そうに笑っていた。
「そうか。長瀬斬九郎、満足したか?」
「もう少し、もう少しで満足できる」
「それは何より……」
「どうした急に?」
「とある方から貴方のことを頼まれている。満足させてやってくれと」
「ユリウスか。あいつ、今回のドタバタに乗じてナタリアをお飾りの社長に据えてレンが成人するまでの繋ぎにするつもりだぞ?」
なに? そんなの聞いてないぞ。上手いこと利用されていたか。ナミハナが長瀬一族のナタリアとしてお飾りとはいえ社長をさせられてしまったら、湖猫として海に戻る時間は減るし、何より虚無教団追っている場合ではなくなる。
ユリウス! あの野郎!
「あいつに何を吹きこまれたかは知らないが、あいつもあいつで中々悪知恵の回る男だ。これからも付き合っていくなら存分に気をつけるのだな、婿殿」
「婿!?」
「違うのか?」
「そ、そうでもあるがああ! あるけどおおお!!」
「なんだか知らんがとにかく良し! 見ていろ佐々佐助! これが俺の
「邪神剣の五、悪心影ぇええええええ!!」
鉄屑を化していた悪心影が大気に満ちる
足が生え、真紅の装甲の周囲には黒い霧が発生し、顔面と腹部には牙の生えた口が現れた。より生物的になったデザインは、それが邪神の侵食を受けていると確信させるに十分だ。
「あれは……ケイオスハウルと同じ! 身を削る覚悟か!」
「身を削る? 馬鹿言ってないでやろうぜ佐々佐助! ここからが本当の神対神、最高の戦いだ!」
「平気なのか!?」
俺が毎度命がけでやってることなのに!
「はーん、まだニャルラトホテプの力を使いこなせていないのか。これくらいできて当たり前だろうが! 俺と右府殿はお前らみたいな急造トリオとは年季が違う!」
斬九郎が狂気に呑まれている様子は一切無い。悪心影を受け入れ、完璧な調和を行っているのは、俺の眼ならば完全に理解できる。
ケイオスハウルが真の姿を顕す度に、力を使う度に正気度が削れていっている俺とは
チクタクマンやアトゥではなく、俺自身の力量不足。幾ら邪神剣に対応したところで、幾ら火力で圧倒したところで、ニャルラホテプの力を引き出す部分で負けては敵う道理が無い。
それに、いくら休息したと言っても今までの戦いで俺は大分消耗している。今無理にチクタクマンやアトゥの力を引き出せばこの後に不測の事態が起きても対応できなくなる。
「なんだ、来ねえならこっちから――――」
「――――だったら! 佐助とワタクシなら如何かしら!?」
「ナミハナ!」
「ナタリアか!?」
長瀬邸の天井が音を上げて崩壊、そして頭上から流星の如く降ってきたドリルが悪心影の頭部に突き刺さる。その衝撃により周囲の壁が吹き飛び、長瀬邸は一瞬で更地へと変化した。
一方で不意打ちを受けた悪心影のカブトは粉々に砕け散り、引きちぎられた顔面の装甲の隙間からは黒い液体がじわりと漏れだす。
だがそれだけだ。この一撃を受けたにしてはあまりに軽いダメージ。
「あら、思った以上に硬いのね」
突如乱入してきた機体は着地と同時に百八十度回転。ターンして瞬く間にケイオスハウルの影に隠れる。
流線型に近いホバークラフトにヘッドパーツと作業用の腕だけをつける真紅の機体。全体的なデザインは変わっていないが先ほど天井を突き破って入ってきたところを見ると性能は全体的に上がっているみたいだ。
「ナミハナ! 遅いぞ!」
「待たせたわね佐助! ギルドNo.10“ナミハナ”が戻ったわ! 何やらコンビネーションで負けていることに悩んでたみたいだけどもうこれで心配無くってよ。だって私達の絆はお父様と悪心影の絆になど負けないもの」
「応ッ! 見せてやろうぜ!」
「小僧、貴様の実力は既に見切った! それではナタリアの足を引っ張るばかりぞ!」
ナミハナのラーズグリーズが両腕のドリルを振り回し、悪心影に対して突貫を始める。
迫るドリルをどこからか再び召喚した大太刀で受け止め、二人は互角の打ち合いを始める。
完璧な戦況だ。
「
俺はすぐに修理呪文を詠唱。ケイオスハウルの切断された右腕を、アトゥの本体である黄金樹の召喚で補う。黄金樹の上からはチクタクマンが周囲の瓦礫の中から金属を集めて装甲を被せて強度を補う。
そして俺はケイオスハウル内部のネクロノミコンを起動。
「なんだ? 何故お前ばかり前に出る! ナタリア!」
「お父様、私の佐助は元々後衛よ? 魔術師よ?」
「は?」
同じニャルラトホテプの契約者だからといって、戦い方まで同じと考えたのが奴の運の尽きだ。恐らくケイさんからも俺の戦い方については聞いていたのだろうが、残念なことにアマデウスの下に居る間に俺はより魔術師として遠距離での戦いに習熟していた。
しかも、ナミハナにもできるだけ俺が前に出て戦った話を多く聞かせるようにとユリウスさん経由で伝えていた。一緒に戦っていたナミハナはそれだけで俺の意図を理解しただろう。
俺は後ろで機体を止め、詠唱に専念する。
「
ラーズグリーズへと刃を繰り出していた悪心影の腕が止まる。その隙を狙ってラーズグリーズの繰り出したドリルはいともたやすく悪心影の纏う霧を打ち払い、その右腕を引きちぎる。
「く、そ、がああああああああああああ!!!!」
頭が悪い訳ではないのだろうが、斬九郎は一度戦い始めると熱くなる癖がある。普段ならばケイさんのように有能な仲間が居て、それをカバーしたに違いないが、生憎と今回はそれが無い。
「まだまだあ!」
ラーズグリーズは急加速と急停止を繰り返し、まるで分身でもしているかのように四方八方から悪心影の装甲を削り砕く。
俺が唱えたのは【萎縮】と呼ばれる呪文だ。萎縮などと名付けられているがその実態は対象をこの世界に実在させる因果の焼却に他ならない。
外見からは見えづらいが、今頃悪心影の内部と斬九郎は見るだけでも吐き気のするような
勿論本来ならばこういった魔術なんて斬九郎や悪心影には通用しないが、俺は斬九郎という真名を知り、ニャルラトホテプの支援を受けて魔術をかけた為に悪心影の守りを突破出来たというわけだ。
四肢をもがれ、今度こそ再生不可能なレベルでダメージを受けた悪心影。
これで戦いは終わった。ナミハナを連れてギルドに帰るとしよう。
「ナタリア、佐助、両者とも天晴である」
あ、このパターン見覚えがある。
「不味いわ佐助! お父様まだ動いてる!」
追い討ちに走るラーズグリーズ。
「だが――まだまだぁ!」
悪心影の中から漆黒の大太刀を持った斬九郎が飛び出してラーズグリーズの右腕を切り落とす。
咄嗟に離れてケイオスハウルの後ろに隠れることで追撃は躱したものの、斬九郎は崩れ落ちた悪心影の上で意気揚々と大太刀を構えていた。
よく見ればその四肢は既に無く、影を凝集させた漆黒の原形質を義手義足として補っている。それでもなお眼光は衰えず、殺気を充満させ、原形質の中に浮かぶ無数の眼と共にこちらを見据えている。
「我が邪神剣術心影流の奥義でお相手仕る!」
その雄叫びと同時に再びニャルラトホテプが持つ無尽蔵の魔力が次元を越えて長瀬斬九郎の大太刀へと収束する。
魔力を帯びて巨大化した大太刀は例えるならば天に伸びる夜の柱。時を超え人に闇を齎し、神の領域に思いを至らせる魔王の顕現に他ならない。
「お父様が久しぶりに本気ですわ! 行きますわよ佐助!」
「みたいだな、やってやるさ!」
チクタクマンとアトゥ、そしてデータ化されたネクロノミコンから魔力を吸収してケイオスハウルの出力に変える。
ケイオスハウルの両腕から吹き出す魔力煙が光を放ち、まるで翼のような形をとる。
「面白い! 光の翼を使う者がまだこのアズライトスフィアに居たとはな!」
「受けてもらうぞ斬九郎! これが俺の! いいや――」
「ワタクシ達の!」
俺とナミハナの声が重なる。
「「全力
「
「
腰のフーン器官推力偏向ノズルから魔力を全速力で噴射、斬九郎へと雄叫びを上げて突進する。
その隣にはガルヴァーニエンジンを最大出力まで上げて同じく突撃するナミハナ。
俺達は拳とドリルで左右から挟みこむようにして攻撃を繰り出した。
「邪神剣の六、第六天魔王波旬!」
一瞬で黒い光の柱と化した大太刀が俺達の機体を薙ぐ。
俺は魔力障壁でケイオスハウルとラーズグリーズを守りながら、なおも前に進む。
「邪神剣の一が崩し、
しかし俺達の一撃が届くかに見えたその時、目の前で空間がねじれる。
此処に来て異なる邪神剣の同時併用だと!?
俺が見誤った? まさかこの土壇場で成長したのか?
なんにせよ、ここで空間をねじって送り込まれる先と言えば……!
「佐助!?」
「ナミハナ!!」
目の前にラーズグリーズが現れる。
このままじゃ激突だ。
「このおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「させませんわああああああああああああ!!!!」
俺とナミハナはお互い自分から右に向けて回避行動。一度出していた技を止め、無理矢理機体を動かしたことで魔力が逆流して全身に燃えるような痛みが走る。
「……っは」
口の中から人工血液が吹き出す。
魔力の流れがおかしい。ケイオスハウルが思うように動かない。足を作った故にケイオスハウルはそのまま転んで地面に倒れ伏す。
一方でナミハナのラーズグリーズはすぐに体勢を立てなおして斬九郎にとびかかるものの、あえなく攻撃を回避されて反撃で左の腕まで切り落とされる。
「かぁああああああああああああああああああっっ!」
斬九郎が全速力でこちらまで駆けてくる。
失った手足を邪神の血肉で補い、燃やし尽くされた筈の魂の輝きを瞳に集め、まるで少年のような軽い足取りで。
そしてついに彼は大太刀をケイオスハウルの中枢、俺の居るコクピットへ繰りだした。
鋼を裂く鋼、鋭い突きが俺の目の前まで迫り、そして止まる。
「あと十年……早けりゃ、な」
斬九郎の四肢を構成するニャルラトホテプの原形質がゆっくりと崩れ始始めた。
「だが満足だ。異界からの
「もう
「そうか、それを聞いて少し安心……した、よ」
そう呟くと斬九郎は瞳を閉じてその場に崩れ落ちる。
地面にぶつかりそうになった彼の前に再び悪心影の少女が現れ、その巨体を受け止めると、彼を優しく地面へと寝かせた。
俺はコクピットから転移魔術で抜け出し、彼女に近寄る。
「貴方が悪心影ですか」
「うむ、そうじゃ」
薄手の和服に褐色の肌、美しい黒髪に金の瞳。
うん、間違いなく織田信長だな!
俺は現代っ子だからもう何が信長になっても突っ込まないもんね!
「佐々か……懐かしい名前じゃのう」
「佐々成政とは関係ありませんよ」
「だが貴様も中々面倒そうだ。似ておる。なあ佐々佐助、チクタクマンやアトゥは健在か?」
「イエスオフコース!」
左手首の妖神ウォッチからチクタクマンが微笑む。
「ちょっと貴方何やってるのよ! てゆーかなんで可愛くなってるの! そういうの我輩だけで十分じゃない!?」
人間の姿で実体化したアトゥはプリプリ怒って悪心影に詰め寄る。
「話は聞いてやるから静かにせんか。此奴を少し寝かせてやっとくれ。今やっとこさ長い夢から覚めたのじゃからな」
「分かりました。俺はナミハナの様子を見て来ます。アトゥはここで悪心影を見張っていてくれ」
「分かったわ。我輩だってそこそこに空気読むもの。チクタクマンも預かるわよ?」
「あー……頼んだ」
「ホワイ!? ああいや、まあ今回は私も君達の語らいに水を差すのはやめておこう」
「お前も随分人間らしくなったな」
俺はくすりと微笑むと、横転しているナミハナのラーズグリーズへと向かった。
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ついに打倒された長瀬斬九郎!
最強への執着から解き放たれた彼は本来の大らかな人格へと戻り、佐助達とアズライトスフィアの過去について語り始める。
そして斬九郎の話を聞いたナミハナも、佐助の説得で父への素直な思いを語り、二人はついに和解を果たす。
だがそこで織田信長が思わぬことを口にする。
次回、斬魔機皇ケイオスハウル 第四十四話「父と娘」
邪神奇譚、開幕!
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