第44話 父と娘

 前回までのケイオスハウル!


 復活したナミハナと力を合わせ、ついに長瀬斬九郎とニャルラトホテプ“悪心影”を打ち倒した佐助!


 一方倒された斬九郎は自らの願いであった最強の敵との戦いを終えて、長年の妄執からついに解放されるが……?


********************************************


「あー、お前ら。聞こえるか。侵入者の親玉は捕縛し、新社長であるナタリアの身柄は確保した。残りの侵入者は無理に追いかけず逃げるままにしておけ、手向かいする奴には容赦は要らん。捕まえた奴の処遇その他一切細かいところは新会長であるユリウスに任せる、以上だ」


 斬九郎は自らが持つ魔力による連絡機能付き社員証に向けてそう叫んだ。


 これで社内の混乱は一応収まることだろう。


「ありがとうございます斬九郎さん」


「礼には及ばねえよ。ああ、そうだ。ユリウスと連絡とれるか? どうせあいつの指示も受けながら戦っていたんだろう?」


「俺の体内に仕込んである通信機を使えば秘匿回線で連絡できます」


「そうか……じゃあ“好きにやれ”とだけ。あいつならそれで丸く収める」


「何か他に伝えることは無いんですか?」


「あいつは俺と違う人間だ。あいつのやりたいようにやらせるのが一番だ。きっと俺やあいつの母親には届かない未来を作ってくれる」


「それでも聞きたいものですけどね、親の声」


「あーあ、ったくよう。母さんに頼んで新しく作らせた袴が台無しじゃねえかこのやろう馬鹿野郎。そろそろ父の日だし誰か俺にモテそうな袴を仕立ててくれる孝行息子はいねえもんかなあ! ユリウスくらいしか居ねえか! それとなーく話して伝えてやるかなあそれくらいやっても許されるよな! なにせあいつに権力の座から追い立てられちまったしよう!」


 俺の呟きなど聞こえない振りをする斬九郎さん。


 素直じゃないのは親子らしい。よく見れば牡牛のように大きな身体もそっくりだ。運動しなければユリウスさんのように太って、鍛えあげると斬九郎さんみたいにマッチョマンになるのかもしれない。


「馬鹿野郎はどちらですか! そもそも一度でも依頼に失敗したら家に連れ返すと約束したからって本当に連れ返すことはないでしょう! しかもワタクシと佐助を引き離すなんて信じられない!!」


 ナミハナはすっかりお冠である。大怪我をしている斬九郎さんは抵抗もできないまま肩を揺さぶられているが、なんだか嬉しそうなので止めないでやろう。


 怪我が無いのは嬉しいんだけど……もう少しやさしくしてもバチは当たらないと思うな。


「ま、待たぬか! ナタリア! お主もう少しお淑やかにだな! 斬九郎の傷口が開く!」


「だいたい何処の何方どなたなのこの小娘! ワタクシを知ってるみたいだけど、ワタクシこんな子供見たことありません! 只でさえ十人も妻が居るなんて信じられないと思ってたのにしかも子供相手だなんて! あとナタリアって呼ばないで下さる!? 今の私は湖猫のナミハナなんですもの!」


「わかったよナミハナ。それにしても……そうか、道理で父の日や誕生日に娘達からのプレゼントがしょっぱい訳だ。でも口をきいてくれるだけお前は優しいよ……」


 これが英雄の末路か……寒い話だ。


「お父様……。言われてみればワタクシくらいよね、ここまでされて同情する娘なんて」


「まあ俺はその十人の妻から誕生日プレゼントもらえるから、娘達のことは気にしてないけどな! 女のことはなるべく女に任せるに限る!」


 やっぱ同情するのやめよう。


 戦国時代の人間はやっぱ常識が違う。


「馬鹿ッ!」


 ナミハナは斬九郎の肩口を思い切り蹴りつける。まあ蹴られても仕方ない男だし、これくらいで済ませるのだからきっと優しいのだろう。きっと。


「痛い!? そういうのはお前彼氏の居ないところでやれよ!」


「お黙りっ! 佐助だってもっとやれって思ってるわ!」


 ※思ってません


「ま、待てナタリ……ナミハナよ。斬九郎も斬九郎なりにお主のことを……」


「お黙り小娘っ! あのね! それが! 迷惑ですのおおあああああ!」


 ナミハナは少し興奮しているみたいだ。俺が止めなくてはこのまま二回戦が始まってしまいそうだ。


 怖いけど止めよう。


「あー、そちらの女の子については良かったら俺が説明するよ。だから少し話を聞いてくれないか?」


 ナミハナが斬九郎に足を乗せたままこっちを振り返る。


「佐助が?」


「佐々の子孫が説明するなら儂も大人しく黙ってようかのう」


 信長様、多分俺は佐々成政さんとは関係無いですからね……。


「そういうのはチクタクマンかアトゥちゃんが説明した方が良いのではなくて? 佐助だって完全に巻き込まれた被害者でしょうに」


「ザッツライト! だがそれでも佐助の説明を聞くことを勧めるよ。何せ彼は邪神に詳しい。我々よりも遥かに人間にとってわかりやすい説明をしてくれるよ」


「そうよ。ナミハナ嬢なら我輩がいかに仕事できないか知っているでしょう!?」


「儂もこいつらに事情の説明させるのはオススメせんぞ。契約者である佐々の小僧の前でこ奴らも嘘はつかんだろうが、かといって真っ当にしゃべるとはとても思えん」


 人に働かせたところで全く懲りない悪びれない。これでこそ邪神ニャルラトホテプである。


 もはや理不尽にすら思わないのは俺のSAN値が減っているからだろうか。

 

「なんだか悪いわね。お願いできて?」


 もし俺がスパ○ボに出たら間違いなく説明キャラになるなこれ。


「どうしたの? 急に笑い出して」


「なんだかこうやって穏やかに話ができるのが楽しくてさ」


 いくらSAN値が減ったとはいえ、こうしていられる内はまだ狂気に囚われずに済む。それが俺には嬉しい。だから笑ってしまった。


「まあとりあえず説明させてくれ。まずそこの女の子もニャルラトホテプの化身だ。長瀬斬九郎はニャルラトホテプの化身と契約して力を手に入れたんだ。俺と同じだ」


「お父様が異世界から来た夢見人だとは聞いていたけど、佐助と同じ世界から来ていたの?」


「同じかは分からないけど、似通った歴史の世界ではあるみたいだ。ただ、仮に同じだとしても俺が生きた時代から遡ること五百年前の人間だね。当時は戦乱が続いていたと聞くし、それで死にかけたところをニャルラトホテプに救われたんじゃないか?」


「うむ、婿殿の言う通りだ。しかし戦乱が続いていたといっても俺が生まれる少し前でな。俺は使う宛の無い剣術を日がな一日修行するだけの武家の三男坊よ。それで家から出奔した挙句ちょっとした義侠心から島原の乱に参加してたら殺されかけてな」


 満足気に頷く斬九郎さん。きっと俺がナミハナを止めたことで感謝してくれているのだろう。もう面倒だから婿殿って呼び方は無視だ無視。


「最後に戦った相手は誰だったかなあ、確か名前は新免……」


「お父様ちょっと黙ってて下さる?」


「新免って新免武蔵か? ということは斬九郎さん、貴方あの乱に農民の側で参加したのか?」


「おう、だってそっちの方が格好いいからな。どうなった? 負けただろ?」


「負けた。だけどあの大名は斬首になった」


「ならば良し! 我慢しておこう!」


「ちょっと待って佐助。大名って?」


「王様みたいなものだ。死にかけた斬九郎さんを救ったニャルラトホテプも大名みたいなものだった。人間の頃の名前は織田信長、歴史上の偉人だ」


「偉いのじゃ!」


「ただ俺が知る歴史では男だった筈なんだけどな……」


「儂、昔からなよなよ女よりむくつけき益荒男の方が好きだったからのう! 次の身体は愛されボディのプリティーガールにしてやろうと! 可愛いじゃろう!? こんな可愛い信長ちゃんならもはや誰も裏切るまいて! ふはははは!」


 いや、ちょっと……引く。


「どういうことですの佐助? 貴方達の国ではあの、その、同性愛的なアレが盛んで……?」


「時代が違うから俺もちょっとわかんないかな……」


「失礼な若造共よな! 今の儂は立派な女の子じゃというに! 故にノーマル! どストレートじゃ!」


 そうだな、一周回って普通だな。


「ちょっと悪心影! サスケちゃんの前で何言ってんのよ! あまりの性癖ブラックホールに青ざめてるわよ!?」


「カマトトぶるでないわアトゥ。お主だってアフリカに居た頃は……」


「やめないか二人共! 佐助のSAN値は残り僅かなんだぞ! 余計なことをしゃべるな!」


 ナミハナが斬九郎さんを見て引きつった笑みを浮かべている。


 確かに彼は悪いことをしたのかもしれない。だがここまでされる謂れは有るのだろうか? これがニャルラトホテプの力を借りた罰だというのか? 残酷にも程が有るのではないか?


「ありがとうチクタクマン……お前やっぱ最高の相棒だよ……」


「お互い様だ。私も君のお陰で助けられているんだからね」


「はっはっは、俺と右府殿もあんな頃が有りましたなあ」


「そうじゃのう。青い青い」


「…………」


「HAHAHAHA!」


「と、ともかく一度人間として死んだ信長……もとい悪心影は同じく死にかけていた斬九郎さんを何らかの目的でアズライトスフィアに連れて来て影から彼の立身出世を助けた。そういうことで良いかな……?」


「うむ、光秀……ああいや天海上人めが施した封印から復活に時間がかかったせいで、戦国終わってたのには儂も困ったがのう! 斬九郎みたいな若武者が転がっててラッキーじゃった!」


「ここからは質問なんだけど、悪心影はなんでまたそんなことを?」


「人類史の守護、そう言って信じるかえ? 儂ら人間が燦然なりし三千世界で築きあげる全ての営みを崩壊から守るべく、ドリームランドに来たのじゃよ」


 世界を守ろうとするニャルラトホテプ。


 もしこの悪心影に織田信長の意識が残っているならば、その答えはさして不自然ではないように思えた。


 完全にニャルラトホテプとなったのだとしても人間の世界という遊び場が無くなるのは困るし、織田信長の意識が保たれているならば世界の破壊など許さないだろうと考えて間違いない。


「チクタクマン以外にも世界を守るために動く存在が居たのか……」


「まだその頃は多くのニャルラトホテプがアザトース覚醒などという戯言を信じておらんかった。故に儂は独断でこの世界に来て、アザトースの狂信者と戦い続けておった。ま、先輩じゃな。程々に敬え」


 成る程、ではそろそろ一連の事件の核心を突くとしよう。


「では悪心影さん。そうやって斬九郎さんとこの世界で力を蓄えたのは分かりましたが、それだけ色々考えていて目的も有った筈の貴方達がどうして急にナミハナ誘拐なんて馬鹿なことを?」


「試したのじゃよ。なあ斬九郎」


「応ッ! 佐々佐助が俺の娘に相応しい男かどうか見たのよ」


 この野郎その為にどれだけ周囲に迷惑かけたと思ってるんだ!?


「ワタクシ大迷惑ですわ!」


 怒れ! もっと怒って良いぞナミハナ!


「すまんかった! だが娘よ。良い男じゃないか。俺が佐々佐助だったら無鉄砲に単身突っ込んで死んでいたところをこの男は口八丁手八丁で仲間を集め、ユリウスと連絡をとり、俺を策で弱らせながら情報を集め、こうして見事お前を救った! 俺はそれがただ嬉しい! お前達は一人一人なら俺には敵わんが、二人揃えば俺を越えていく! お前達は二人で俺に未来を見せてくれた! 勝手ながら自分の娘がそういう相手に出会えた事が嬉しい!」


「ふ、ふん! まあお父様にしては物分りが良いわね。でもそんな調子の良いこと言ってもワタクシが貴方を許すと思って?」


 長瀬斬九郎、なんて迷惑な奴なんだ……しかも強いせいで手がつけられない。


 待てよ?


 だけど本当にそれだけなのか……いや、まさかな。でもそうだとすれば大した役者だぞ長瀬斬九郎。その心意気に感じるところが同じ男として無いではない。


 仮に斬九郎が考えていなくても、悪心影が策を練っていた可能性はある。


 だったらここで俺が仲を取り持つくらいしても良いんじゃないだろうか。


「ナミハナ、俺からお願いがある。斬九郎さんを許してやってほしい。同じ国の出身とか、似た境遇とか、そういうのじゃなくてさ。父親とまた仲良くなれる内になっておかないと、辛いから……」


「佐助……そういえば貴方のお父様は……」


 死んでいるかもしれない。虚無教団の総帥かもしれない。


 どちらにしろ、もう仲良く飯を食うこともできないだろう。


「……だから、頼む」


「そう言うなら聞いてあげても良いけど……」


 ナミハナも根は甘い。最初に会った時からして、正体不明の俺を積極的に殺そうとはしなかった人間だ。


「頼む。俺はもう父親と子供がいがみ合うのは見たくないんだ……」


「分かりました。今回の件に関して家族と社員全員に謝罪を行い、今後の会社の経営をユリウス兄様に任せてご自身が退陣なさるなら……過去の色々な出来事は忘れ、只の父親と娘に戻っても良いでしょう」


 ナミハナは斬九郎に手を差し出す。


 斬九郎はそれを硬く握り返してナミハナを抱き寄せ頭を撫でた。


「ちょっとお父様!? 子供じゃなくってよ!?」


「ぐえー!」


「にゃっはっは! 剣聖と謳われた男も娘にはだらしないのう!」


 抱き寄せたら突き放されて頭を叩かれていたがまあそこはそれだ。きっと思春期の娘の気持ちは分からない人なんだろう。俺も女子とかいう神話生物の気持ちは分からん。だけどその辺りは今後ゆっくり分かり合う時間だって有る筈だ。


「ありがとうナミハナ」


「ま、佐助に頼まれたら仕方ないわよね。ワタクシとしては」


「いやはや借りができたな婿殿。もう俺には剣の腕しかねえが、それでも何時かこの借りは返す」


「お待ちしております」


 やっぱり親子ってのは良いものだ。


 俺もできるなら父さんや母さんともう一度……なんてな。


「いやあ良い話っぽく終わったわね! 我輩も嬉しいわ!」


「やめないかアトゥ! 君が話すと色々台無しになる!」


「ま、実際ここで良い話は終わりじゃからのう」


 悪心影さんの一言で俺は耳を疑う。まだ何かやらかすつもりか!


んじゃがな。儂が今回の事件を起こした背景に実はもう一つの狙いが有った。佐々佐助、お主の背後に居る存在を調べる為にな」


 やはりか。これについてはまだ想定内だ。これには斬九郎さんも一枚噛んでいるに違いないが、娘をついでに巻き込んだと思われると一悶着だ。悪心影も配慮したのだろう。その小細工には乗ってやるよ悪心影。


「背後?」


「とぼけるな。お主の仲間達は長瀬重工で保護しておる。もうアマデウスに憚る必要は無いぞ?」


「待て、どういうことだ? 確かにアマデウスは怪しいが……」


「成る程、ではもっと最初の方から説明しよう。お主がミ=ゴの宇宙船で攫われたのは知っておる。それを誰がやったのかという話からのう。知りたくはないかえ?」


「それは……一体誰が?」


虚無教団テスタメントじゃ。最初から奴らはお主に目をつけておったんじゃよ。チクタクマンがお主を攫った船に潜り込んだのは本当に偶然だったようじゃな。奴らの慌てぶりが目に浮かぶようでマジ受けるんじゃが。グッジョブ後輩なんじゃが」


「……馬鹿な」


「ヘイ、待ち給え悪心影! 貴方は何故そんな情報を持っているんだ!」


「長瀬重工に忍び込んでいた虚無教団の幹部の脳に忍び込んだ。名はハオ・メイ。保因者ハーフリングの女じゃ。この会社ですれ違った時に儂の分身を斬九郎に仕込ませたのじゃ」


「エグいわねえ人の脳いじるなんて。アトゥちゃん怖~い」


「お主に言われとうない!」


「嫌ですわ。ワタクシが捕まっている裏で随分ときな臭くなってましたこと」


「ちなみに佐々佐助をアマデウスに保護させて様子を見ることにしたのも儂の作戦じゃ。まさかレンまであちらに残るとは思わんかったがのう。危ない目に遭わせてしもうたわ」


「右府殿、その件については俺も文句が有るから後で聞いてくれよ」


「うむ、時間を割こう」


「ちょっと待て、悪心影さん。俺にはどういうことか全く分からん」


「うむ、そうじゃろうな。お主とチクタクマンとアトゥは、奴に保護された時に一つだけ強力な暗示をかけられておる。絶対にバレないようにたった一つだけな。そしてその一つが上手いこと今までお主から真実を覆い隠していた」


「暗示!?」


「アマデウスの正体はお主の●●である●●●●じゃろ?」


 俺には悪心影の言っていることがよく聞こえない。


「やはりそうだったか……それなら全て辻褄が合う。道理でアマデウスが婿殿に甘い訳だ。俺が同じ立場でもそうするだろうな」


 斬九郎さんは静かに頷く。良く分からないけどやはりとか言ったら折角自分一人の仕事にしようとしている悪心影さんの仕事が台無しなのでやめておくべきなのではないだろうか。


「そんな!? それってあんまりじゃなくて!? だって●の●●が!」


 ナミハナは叫んでいる筈なのによく声が聴こえない。


「あ、あの……すいません悪心影さん。聞こえませんでした。今なんと?」


「エクスキューズミー! 私もだ!」


「ああん、我輩も!」


「こいつら揃いも揃ってこれか……ちょっと待っておれ」


 悪心影は頭を抱えて呻く。


「これでどうじゃ」


 彼女がそう言って指を鳴らすと頭の中でガラスが割れるような音が鳴る。


「何だ今の? あれ、俺何か変だったか……?」


「ま、解除後に気付くだけ上等じゃな。良いか、アマデウスの正体は――――」


 その時だった。


 空が紫影に染まる。


「なんだ!?」


「かっかっか、思ったより動きが早いのう。やはり儂らニャルラトホテプの消耗を狙っていたか」


 紫の大空をスクリーンに一つの映像が映し出される。


 大小二つ玉座にそれぞれ座る仮面の男と緋色の着物姿の少女。


 俺は二人に見覚えが有った。アマデウス、そしてメイドのリンちゃんだ。何時の間にか通信が無くなっていると思ったら何故あんなところに!?


 まさか……。


「この世界の全ての皆様に突然の無礼を許していただきたい。私の名はギルドNo.3“アマデウス”。もしかしたらだが、虚無教団テスタメント偉大導師エクス・グランドマスターとして私を知る者も居るかもしれません」


 アマデウスは仮面を外す。


「私はかつては佐々総介と名乗り、医術と魔術を嗜んでおりました」


 ああ、見覚えがある。


「そしてこちらは我が妻、佐々凛。私の魔術の師であり、公私に渡って私を助けていただいた協力者です」


 リンは無言で一礼する。


 ああ、聞き覚えが有る。良くある名前だから気にも止めていなかったが……そうか、そういうことか。でも、母さんまで……!?


「今日はこの天を借りうけ、神に愛されし子アマデウスとして皆さんにお話させていただきたい」


 俺の信じていた平穏なんて、俺の信じていた日常なんて、俺の信じていた正気の世界なんて、全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て―――――――


「お、お、お……親父いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 ――――――――虚構だったのか。


********************************************


 ついに正体を表した虚無教団テスタメント教主、佐々総介!


 彼は世界中に散らばる邪神の血を受け継ぐ子供達と、量産型ケイオスハウルを尖兵にした恐るべき世界侵攻計画を立てていたのだ!


 しかも、あろうことかその隣には佐助の母であり早世した筈の佐々凛の姿までもがあった!


 これにショックを受ける佐助であったが……。


 次回、斬魔機皇ケイオスハウル 第四十五話「父と息子と時々ママン」


 邪神奇譚、開幕!

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