第五章 未知なるカダスへ君をのせて

第41話前編 赫奕邪神底都ルルイエ浮上

 前回までのケイオスハウル!


 ついにアマデウスを打ち破り修行を完成させた佐助!


「待っていろナミハナ。今俺が助けに行く!」


 ついに訪れた作戦決行当日、佐々佐助はメガフロート上の長瀬重工本社へと突入を開始する!


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 長瀬重工本社前。そびえ立つ巨大な門とその奥で更に高く伸びる社屋。


 メガフロートの上に建築されたこの建物は長瀬一族の築いた対邪神要塞と言っても過言ではない。


 しかしその規模に反して門のところで自動小銃を構える警備員はわずか五人。


 いずれもサイボーグだ。俺が同じサイボーグであると気がついたのか、にこやかな笑みの仮面を捨てて、すぐさまこちらに銃口を向けてきた。


「止まれ、そこのマントの男」


「名前と来社目的、IDカードあるいはそれに類する者を提示しろ」


 俺は顔を上げ、フードを剥ぎ取りマントを投げ捨てる。


「名前は佐々佐助、来社目的は長瀬重工現会長である長瀬ナルニアの息女ナタリア・ミストルティン・ハルモニア・ナガセの誘拐。身分証明は――――」


 左腕に巻き付くチクタクマンを彼等にさらけ出す。


 打ち合わせ通り、チクタクマンは自らの魔力偽装をやめて周囲へ遠慮無く魔力を流し始める。


「――――これで十分だろう」


 五人のサイボーグの内、二人がチクタクマンが何者かを直感してしまい発狂。銃を捨ててそのまま気絶してしまう。


千貌導師マスター・オブ・ニャルラトホテプ!」


 狂ったように叫び、狂ったように撃ち続ける門番達。


 銃弾は一発たりとて俺の身体を傷つけられない。


 それにしても本当に指名手配されて顔も割れているのか。ちょっとショックだな。


「チクタクマン」


 俺が小さな声で囁くと、左腕の妖神ウォッチが光り輝く。


 その光りに照らされた瞬間、自動小銃のコンペンセイターははじけ飛び、グリップは抜け落ち、弾倉は詰まり、その攻撃力の一切を失う。


 そして抵抗を続けようとしていたサイボーグ達は機械化した神経に不調を起こし、立つこともままならなくなる。平衡感覚を一時的に麻痺させたのだ。


「ヘイサスケ! 彼等は殺さなくて良いのかい?」


「俺は俺のエゴにより彼等に死の自由を認めない」


千貌導師マスター・オブ・ニャルラトホテプ、この化物め……!」


「化物? そうか、化物か。まあどうでも良い」


 俺は守衛のサイボーグ達に背を向けて歩き出す。


 この突入では誰一人として殺さない。殺させやしない。そうしたら、ナミハナが笑ってくれなくなるから。もうこれ以上人間をやめてたまるか。


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「さて、ここがエントランスか」


 エントランスは既に厳戒態勢。俺が攻略について考えているとアマデウスからの通信が脳内に飛び込んでくる。


「佐助君。随分と甘いのではないですか? いくらユリウス氏が事前に警備を薄くしてくださっているから余裕が有るとは言え、殺さない為にここまで一々手間をかけなくても……」


「申し訳ありませんがアマデウスさん。突入を行っているのは俺です。俺の選択には従っていただきます。突入ルートの設定及び退避用の魔法陣の維持に全力を集中してください」


「やれやれ……一度負けた手前あまり強くもいえませんね。好きになさってください。こちらの介入は要請が無い限り貴方がこれ以上戦えないと判断してからにします」


 脳内からアマデウスの声が消える。


「サイボーグ部隊は無効化されるぞ! エクサスだ! エクサスで囲め!」


 社員が次から次へとエクサスに乗って現れる。


 見たところ長瀬重工が開発した第三世代型エクサスのパルティアンショット。その最新モデルだ。


 本社防衛に特化したカスタマイズが施されているに違いない。


「撃てっ!」


 エクサスの持つ20mmの機関銃が俺に向けて火を噴く。


 降り注ぐ鋼の弾嵐を魔力障壁で逸し、防ぎ、凌ぎきる。


「やったか!?」


 濛々と立ち上がる土煙の向こうで男達が快哉を上げる。愚かしい。


「アトゥ、好きにしろ」


 俺がそう呟くと足元から灼熱と溶岩流を伴って金色の大樹が出現。その枝が鞭のようにしなり俺を囲んでいたエクサスを片っ端から打ち据える。


 エクサスは次々大破、機能停止に追い込まれて動けなくなる。


「ねえねえ峰打ちにしたわよ! 褒めて!」


「お前も気が利くようになったじゃないか」


 すっかりスクラップで埋まったエントランスを見回す。


 微弱な魔力の乱れを感じる。魔術師のものではない。


 俺が咄嗟に指を鳴らすと同時に俺の背後で一丁の拳銃が分解される。


 エクサスでもない機械ならばチクタクマンの能力で分解はすぐに終わる。


「誰だか知らんが命を粗末に――――」


「う、うわぁあああああああああ!!!! くるなくるなくるなくるなくるなkるらうらうあrkるあうれああああああああ!!!」


「遅すぎたのか。狂ってやがる」


 拳銃を先ほどまで構えていた男はアトゥの真の姿を見て発狂、何やら喚きながら逃げ出してしまう。


「もう、失礼しちゃうわね! 乙女の素肌を見ておいて!」


「俺にはちゃんとお前が見える。気にするな」


「あらあら、後であのお嬢様に怒られちゃうわよ?」


 俺はその問には答えずに先に進むことにした。


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 一階の奥に在る金庫室。巨大な金庫を前にして俺はアマデウスに通信を飛ばす。


「アマデウスさん、この奥か?」


「ええ、事前に侵入していた私の部下、そしてユリウス氏からの情報提供によればこの奥に長瀬一族の邸宅が有ります」


 通信にノイズが走る。誰かが俺達の秘匿回線に乱入してきた。


「いきなりだが通信に割り込むぞ君達。すまんが会社内部での遅延工作はそろそろ限界だ。父上直属の警備部隊やら何やらが今からそちらに向かう。はっきり行って精鋭揃いだ。君とて無傷で乗り越えるのは難易度が高い。そして父上自身もしばらくしたらそちらへ向かう。急いでナミハナを連れ出せ」


 この秘匿回線に割り込めるのはユリウスさんだけだ。


 彼の言うことが本当だとすればここからが正念場となる。


「了解しました」


「今の父上は私のせいで機嫌が悪い。気をつけろよ」


 何してくれたのユリウスさん……?


 とは思うがあえて聞かないことにしよう。


「来い、ハウリングエッジ!」


 そう叫ぶといつもケイオスハウルが使っている高周波ブレードが床から伸びる。


 俺が使う為に普段よりサイズは小さくなっている。


「行くぞチクタクマン」


 俺はハウリングエッジを床から引き抜くと走りだす。


「オーケー!」


 目標は金庫室の奥に在る巨大な鍵付きの扉。俺は其処に向けてハウリングエッジを突き立てる。


「「夢幻侵食ドリーム・オブ・ワイアーズ!」」


 金庫の内部構造はチクタクマンによって破壊。金庫内部の魔術的防御はネクロノミコンの支援を受けた俺が自ら対抗術式を送り込んで破壊。コンマ一秒のズレも無い完璧な物理的魔術的攻撃が巨大軍産複合体の最重要金庫を一撃の元に砕いた。


 乱暴に扉を開けた俺は目の前の光景に息を呑む。


 扉の向こうに有ったのは別世界。緑と赤と紫の庭園、美しく輝く青い空、そして白亜の大邸宅。


「あれですよ佐助君。あれが私達の目指す場所です。そして脱出の為にはこの出入り口の確保こそが最重要課題です」


「ああ……分かった」


「――――居たぞ! 侵入者だ!」


 先ほど戦ったエクサスに比べて重武装のエクサス部隊が金庫室の小さな扉を破壊しつつ乱入してくる。いずれも背中に大太刀を背負っているところを見ると、あれが会長の親衛隊だか直属部隊って奴か。


「アトゥ! やれ!」


 アトゥが再び地面からの奇襲をかけて彼等の足並みを乱す。


 エクサス部隊は足を止めてアトゥの触手を装甲の分厚さでガードし、背中の大太刀を次々と引き抜く。


「斬邪刀! 抜剣!」


「抜剣!」


「「「抜剣!」」」


「かかれぇええええええええええええええ!!!!」


 奴らは奇妙な雄叫びを上げたかと思うと、あろうことかアトゥの枝を片っ端から切り落とし始めた。


「冗談みたいな連中だな……」


 俺は状況の危険性を理解して思わず舌打ちをする。奴らの攻撃は強烈かつ迅速だ。アトゥの身体の修復のために俺の身体から次々魔力が吸い取られているのに、それでも彼女の修復が追いつかなくなりつつあるのだ。


「ああんもうサスケちゃん! お嫁にいけなくなったら責任とってよねっ!」


「よく頑張った! 戻れアトゥ!」


「ここでまさかの●ケモン扱い!?」


「もう来たようですね、敵方の援軍。そろそろ私の出番ですよね?」


「そうだな……皆を此処に送ってくれ。アマデウスさん」


「ふふ君が頼ってくれるというのは気分が良い。それではーー」


 頭の中を握りしめてかき回すような声の詠唱が始まる。それはあまりに冒涜的で、あまりに名状しがたい、あまりに聞き慣れた呪文。


死せる瀛神ふんぐるい むぐるいなふル・リエーの館にてくとぅるう るるいえ夢見るままに待ちいたりうがふなぐる ふたぐん


 空間がねじれる。

 

 俺に向けて迫っていたナルニア社長直属抜刀エクサス部隊の姿が一瞬で消える。


「座標指定完了、対象霊魂確定、銀鍵機関フルドライブ、最終神罰執行準備完了! 今です……浮上なさい赫奕邪神底都ル・リエー!」


 俺達、そして謎の空間を封じ込めた金庫は一瞬の内に見たことも無いような都市の一角に強制的に転移させられていた。


「なんだこれは……!?」


「貴方も聞いたことくらいはあるでしょう。ここは邪神要塞ルルイエ。私の秘密基地ですよ」


 先ほどまでの秘匿回線による通信ではない。アマデウス自身の肉声に驚いて俺は振り返る。


 其処に並んでいたのは六騎の有人エクサス、そして優に百を超える無人エクサスの部隊。この基地を拠点にアマデウスは防衛戦を開始するつもりか。


「増援の相手は私と――――」


 純白のプロヴィデンスの中からアマデウスの声が


「自分がするのであります! とっととお姉さま連れ帰ってくるのであります!」


 全身を巨砲で装飾した無骨にして優美なデザインのサイコパルティアンからはミリアの声が


「ちょっと待ってくれませんかミリアさん? ここは皆で足並みを揃えてですね……」


 仏像じみた光輪を背負う真紅のエクサス“アステリオス”からはレンの声が


「かははは! 落ち着け坊主共! おいサスケ、背後は任せておきな。俺達の機体も強化してある。御姫様はゆっくり助け出して来い」


 藍色の装甲と紅の角という鬼みたいな外見が特徴的な、量産型ファランクスのカスタムモデルからはシドさんの声が


「そうそう、シド先輩の言う通り! ちゃーんと報酬全額払ってもらわないと俺なんか死んでも死ねないからねえ。師匠にぶっ殺されちまう」


 狙撃銃一丁とエクサス用のハンドガンだけを持った蒼海色の量産型パンツァーカイルからはアヲノさんの声が


「それでは皆様お揃いですね! 佐助様、此処は我々に任せて安心して行ってらっしゃいませ! お早いお帰りを待っております! 帰ってきたらナミハナ様に是非会わせてくださいね!」


 猫耳を生やした格闘特化型の謎のエクサスからはアマデウスのメイドであるリンちゃんの声が 


「行きなさい。佐助君。他の誰でもない貴方自身の為に!」


「俺、行ってきます!」


 皆の声が俺の背中を押す。


 俺はもう一度前を向くと、金庫の扉の向こうに有る広い空間へと駈け出した。


********************************************


 ナミハナ奪還計画決行。


 長瀬重工本社の警備を正面から突破する佐助一行。


 だが長瀬の邸宅を守る最後の男がそこに居た。


「お久しぶりですな。サスケ様」


「ケイさん!? やっぱり待っててくれたんですか!?」


「ええ、待っておりましたとも。ただ一度、貴方と全力で戦う為に」


 次回、斬魔機皇ケイオスハウル 第四十一話後編「男の戦い」


 邪神奇譚開幕!

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