第40話後編 斬魔機皇(ケイオスハウル)【第四章完結】
前回までのケイオスハウル!
ついに改修作業が完了したケイオスハウル!
戦闘訓練の相手が用意できないとみたアマデウスは、自らが訓練相手となり、ケイオスハウル重装改及び佐助自身の成長を促すことを決める。
だがその訓練の
「佐助君、ここで提案しましょう。私の魔術を継いでくれるなら、君はアズライトスフィアでの戦いを降りても良い」
この提案を行うアマデウスの真意とは!?
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「佐助君、ここで提案しましょう。私の魔術を継いでくれるなら、君はアズライトスフィアでの戦いを降りても良い」
「なんですって……? そんなことしたら
「そうなっても私が君の映し身を作れば滞り無く世界は進む。機械でも、生でも、神にさえ匹敵する私の魔術が有れば人間のコピーというのはさして難しいものではありません。もし貴方が戦いを放り出すのが嫌だというなら、君はその映し身を操って安全なところから一方的に戦うこともできるのです」
こいつ、急に何を言っているんだ?
「ヘイ待ち給え! アマデウス! そんなことが許されて……」
「君にとっても有益な提案ですよチクタクマン。何せこうした方が佐々佐助の安全は保てます。しかも戦いは今よりずっと安全に続けられる。良いことでしょう?」
「む……た、確かにそうかもしれない。だがその映し身を作るにしても君からの提案を信用しろと言うのかね!? そもそも人間の君にそんなことが本当にできるのか!? そんなことをしようと思えば、我々でさえ相当時間をかけることになるぞ! 今からでは間に合わん!」
「ええ、できます。そして信用してください。私は彼に虚無教団を滅ぼした後の世界を託したいのですから」
チクタクマンですらできるかどうか怪しいことを何故こうも自信満々にできると言える?
アマデウスの信じる神の力がそういった創造や複製に特化しているのか?
今まで見たアマデウスの大魔術や魔術無効化といった能力からはそんなこと感じ取れなかった。
そもそもクトゥルフ神話においてそんなことができる神なんて居るのか? いや……一柱だけ居るな。
俺はチクタクマンに「今のうちに破損箇所をこっそり修理しろ」とテキストチャットで命令しながら推理を開始する。
神の攻略法、そしてアマデウスの正体を。
「ちょっと待って頂戴! 我輩思うに佐助ちゃんのメンタル揺さぶってるだけよ!」
「馬鹿な、そんなことで佐助が揺らぐ筈が!」
うるさい奴らだ。もうとっくに俺の心はボロボロだ。
「だから貴方は駄目なのよチクタクマン! ここ一ヶ月で佐助ちゃんが疲れているのが分からないの!?」
ボロボロの俺を心配してくれて、痛みを背負ってくれるアトゥ。本当にありがたい。
彼女が居なければ俺は戦えなかったのに、今の俺は彼女に報いることができない。
「まあ落ち着いてくださいアトゥさん。佐助君がここで戦いを映し身に任せれば彼の本体を独占できるかもしれませんよ」
「やだ我輩完全勝利!? やっぱりお嬢様なんて負け属性だったのね!」
……やっぱ報いなくて良いかもしれない。
「ま、そこはさておき少なくとも貴方にとって悪い話では――――」
「きゃははっ」
アトゥがアマデウスに乾いた嘲笑を浴びせかける。
初めて出会った時の残酷な神の側面を思い起こさせる酷薄な笑み。
そしてその冷たく突き放した笑い声から一転、俺の耳元で優しく声が響く。
「――――駄目よ。そんなことしたら佐助ちゃんが喜ばないもの。佐助ちゃん、頭が良い癖にそういうのを上手に言葉にできないけれど、我輩にはわかるわ」
アマデウスにも聞こえていたのだろうか。
彼はその言葉に反論する。普段のアマデウスらしからぬ、少し焦った調子だ。
「ですが佐助君も含めて誰も傷つかず損をしない。合理的な提案だと思うのですがいかがですか?」
「無しよ。無し無しあり得ないわ」
「アイシンクソートゥー! 今回ばかりは私も彼女に同意だ!」
「待ってくれ二人共」
「ちょっとサスケちゃん?」
「此処に来て投げ出すつもりかサスケ!?」
そうだ。確かにこれは合理的で、安全で、皆にとって得が有る提案かもしれない。
ああ……でも何故だろう。
「アマデウスさん。俺も貴方の提案は正しいと思います」
何故だかわからないけど。
「やはりそうですか。ならば――――」
「――――でもそれは嫌だ。アトゥの言う通り、はっきりとした理由なんて言えないけど! チクタクマンの言うように、貴方が信用できないなんて思わないけど! でもそれがやってはいけないことだってだって俺は思います! 例えそれが一番合理的な方法じゃなくても……ここの人々を置いて俺だけ安全圏に居るなんてできません! もうここは俺の世界です!」
「成る程……君はここで生きる覚悟が有ると。それは良い。良いでしょう。でもそれで若い命をあたら散らすつもりですか!?」
「違う……今のあんたの言葉で分かった! 思い出したよ! これは、この戦いは俺の命だ! 戦うことで俺は生きる機会を手に入れた。だから俺が生きる為の戦いを捨てる訳にはいかない!」
「君という人は――――ッ! それで死んで何の意味がある! 嘆く人が居ると何故わからない!
アマデウスが普段ならば見せない激情を露わにする。
底の知れない陰謀家、気前の良い先輩魔術師、アザトースの信奉者、一騎当千の大導師。果たしてどれが彼の素顔なのか分からない。
だけど……この人の言葉に嘘はない、気がする。だからちゃんと正面からぶつかって説得しなきゃ駄目だ。
「生きて帰ります! その為のケイオスハウル! チクタクマンが作ってくれた最強マシンなんだから! いくら貴方がアザトースの契約者で
「――――――――ッ!」
アマデウスが息を呑む。
「おいサスケ、それは本当かね!? ヘイアマデウス! そんな話を私は……」
アマデウスはしばし沈黙した後、笑い出す。
「……ふふ、ふは……ふはははははは! 気づいていたのですか!」
チクタクマンの表情が青ざめる。
「シット、こいつは想定外だ……」
「あらやだ。どうするチクタクマン? 我輩達思わぬところで感動の親子の再開かもしれないわよ」
「ビリービット!? 勘弁してもらいたいね」
「安心して下さいお二方。ここで私がいと高き全能白痴なる我が神を召喚する訳がない。なにせ私もまだ死にたく有りませんから」
「じゃあやっぱりそうなんですね!」
「ええ、そうです! 良く気づけましたね佐助君! その通りです! どうやってその答えにたどり着きました?」
「虚無教団を追いかけていて、世界そのものを創りだす魔術や虚無から存在を創造する魔術を使い、仏教系の詠唱を使っていた。これだけならばニャルラトホテプの系列の可能性も有りましたけど、チクタクマンもアトゥも貴方の正体が掴めていない。ニャルラトホテプ同士で相手が何者かわからないことなんてそう有りません。そうなるとアザトースの信奉者と考えるのが自然です」
「よろしい! それも概ね正解! だが六十点だ! 途中の推論に飛躍が多すぎる! ところで、其処まで分かったなら我が奥義についても見抜けたのでは?」
「あのコンファインシステムとやらですか……あれは“魔力の無い世界”を創造してを無効化したんですね?」
「それに関しては百点満点! 良く看破した佐々佐助! やはり君は我が後継とするにふさわしい男だ!」
そうか……やはりアザトースの信奉者だったか。穏健派って奴か?
しかし気になることもある。佐々総介と同じようにアマデウスもアザトースを信奉していることになる。
アザトースの信奉者は本来多くないものだ。こんなに都合よく俺の周囲にそれが二人も居るのか?
まさかとは思うが、このアマデウスこそが俺の――――。
「――痛ッ! 頭……が……」
あれ? 俺は一体何を考えていたんだ……?
「さて、対話の時は終わりだ」
「サスケ! しっかりしないか! アマデウスが杖を構えたぞ!」
顔を上げるとアマデウスは戦闘態勢に戻っている。
そしてそれと同時にモニターに投影されるチクタクマンからの『修理完了』のメッセージ。準備はできたという訳だ。
「来なさい。そこまで分かっているなら早く来るのです佐々佐助。戦って、戦って、君の言う最果てさえ突き抜け、未来を切り開いてみせろ! 私はそれを見てみたい! 魔術とは本来無限への旅路! 果てなき未来への咆哮なのだから! 君もまた魔術師だ! 老いた私に未知なる時代を、輝ける次代を見せてくれ!」
……もしかして修理終わるの待っていたのか? あれで意外と
まあ良い。期待をされたら頑張るのが俺という男だ。
「勿論!」
莫大な
俺が魔術師として戦う限り、この先何年何十年修行を積んだところで勝てる相手ではない。
だけど俺には仲間が居る。大切な
だからここで負ける道理は無い!
「やってやるぜ! 行くぞ二人共!」
「オーケー!」
「任せてちょうだい!」
チクタクマンとアトゥ、そしてデータ化されたネクロノミコンから魔力を吸収してケイオスハウルの出力に変える。
両腕から吹き出す魔力煙が輝きを放ち、その軌跡が俺の目には翼のように見えた。
「ああそれは音に高き光の翼! クン=ヤンの科学者達が作り上げた第零世代エクサスが起こした奇跡の再現ですか!」
「受けてもらうぞアマデウス! これが俺の、俺たちの全力だ!」
魔力を受けてケイオスハウルの内部構造が変化、およそ物理法則を無視した動きで両足がホバークラフト部分から生える。
漆黒の金属と金色の水晶に包まれた両足。以前のような異形の両足ではない。完璧な調和が行われている。
「「「――――
足が生えたことで全長三十メートルを越えたケイオスハウル重装改。今ならばいかなる魔術であろうが押しつぶすだけの力がある。
腰のフーン器官推力偏向ノズルから魔力を全速力で噴射、プロヴィデンスへ雄叫びを上げて突進する。
そしてそのまま拳を振り上げて眼下のプロヴィデンスへと繰り出した。
「異界形成、同調率80%安定、
だがプロヴィデンスとの間合いを詰める直前、一瞬だけアマデウスの周囲で光が歪む。魔術殺しの結界が作動した。ケイオスハウルの両腕から伸びる光の翼が一瞬で消え去る。
ここで魔術を無効化されると、姿勢制御に回しているケイオスハウルの魔力も、コクピットを保護している魔術も、全て消滅する。
俺が乗る30t近い鋼の塊が、100km/hを超える速度で、俺には何の安全装置も無い状態のまま、転んで地面に激突する。
それは死ぬ。
「アマデウス! 君の思うようにはさせんよ!」
「ネタさえ割れちゃえば我輩とチクタクマンがなんとかできるわ! 行くわよ!」
「オーケー!」
「「我々の真の姿をご覧にいれよう!」」
チクタクマンとアトゥが自らの姿を漆黒の霧へと還元し、ケイオスハウルの周囲を自らの肉体で包み込む。
あの霧はニャルラトホテプ本来の姿、化身を手に入れる前の原初の姿だ。自らの肉体という異空間にケイオスハウルを包み込むことで、アマデウスのコンファインシステムの“魔力も魔術も存在しない世界”を無理矢理突破する訳だ。
「神には神を!」
チクタクマンが叫ぶ。
「世界には世界を……きゃはは!」
アトゥは嗤う。
「これが答えだアマデウス!」
俺の絶叫と共に黒鉄の拳が振り下ろされる。
「なんと!? 素晴らしい! ああ素晴らしい! 素晴らし――――」
純白の機体は漆黒の拳に触れた側から装甲に擬態した魔法陣を剥ぎ取られ、回路に擬態した種々の魔術触媒がはじけ飛び、行き場を失った魔力が魔眼でなくても見えるレベルで暴走して大爆発を起こしかける。
だがそうはさせない。
「機械同化!」
チクタクマンとアトゥに魔力を吸い取らせ、そのエネルギーを元にケイオスハウルの体内の弾丸やパーツ、そして装甲を錬成して損傷と損耗を補う。
そして脚部は光の粒になって消失し、ケイオスハウル重装改は最初にハンガーで見たのと同じ姿へと戻る。
アマデウスの姿は見えないが、この程度で死ぬ男ではないしきっと大丈夫だ。
「見事、実に見事。私の負けです。エクサスを破壊された以上、もう戦うことはできません」
頭上から声が聞こえる。気づくとケイオスハウルの頭上にアマデウスが立っていた。やっぱり無事だ。
彼は空中で三回転半程宙返りしながら俺達の目の前に降り立つ。
「アマデウスさん。ありがとうございました。この戦いのお陰でケイオスハウルの力を引き出すコツが掴めたような気がします」
「いえいえ、それは元々貴方の中に眠っていた力です。私が教えられることはこれくらい。貴方は一つの完成を見ました。あとは囚われの姫君を救い、邪悪を破り、世界を明日へ進めなさい」
アマデウスがそう言って指を鳴らすと、俺達の視界は歪み、また元のハンガーへと戻っていた。
「おかえり佐助! どうだったー!」
ケイオスハウル重装改の足元でレンが手を振っている。
「いやー負けました負けました。まさか私がこんな簡単に負けるとは! もうそろそろギルドナンバーズも引退ですかねえ私!」
レンの隣に降り立ったアマデウスはカラカラ笑っている。
「えっ!? 本当ですかアマデウスさん!」
「まさか! そんな訳――――」
俺が訂正しようとすると、仮面の横から覗くアマデウスの瞳が光る。
余計なことは言うなということか?
可能な限り自分の実力は隠したいのだろうか?
「――――紙一重だった。運が良かっただけだよ」
「ああ! 練習だから加減したんですねアマデウスさん!」
「はっはっは! 私が練習とはいえ手加減する訳が無いだろう? 佐助君、そして機体を開発した君の実力だよ。今後も励んでくれよレン少年」
「えっ!? あ、ありがとうございます! 僕がんばります!」
アマデウスはまた何時もの優しい声に戻っている。
あの異空間で見せた激情、今見せる穏やかな顔。
どちらが仮面でどちらが真実なのかが俺には分からない。
だが、ケイオスハウルの力は十分に分かった。
待っていろナミハナ。今俺が助けに行く!
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ナミハナ奪還計画決行。
長瀬重工本社の警備を正面から突破する佐助。
ついに長瀬の邸宅へと辿り着くが、会長直属の抜刀エクサス部隊に包囲される!
だがその時、ついにアマデウスが切り札を開示する!
アズライトスフィア最高峰の魔術師による究極魔法とは一体!?
斬魔機皇ケイオスハウル 第四十一話前編「ルルイエ浮上」
邪神機譚開幕!
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