第40話前編 激闘! 無明彩機プロヴィデンス!
前回までのケイオスハウル!
ついに改修作業が完了したケイオスハウル!
戦闘訓練の相手が用意できないとみたアマデウスは、自らが訓練相手となり、ケイオスハウル重装改及び佐助自身の成長を促すことを決める。
「君と私で戦いましょう」
ついに明かされるアマデウスの実力とは!
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ギルドNo.3“アマデウス”私設海底基地機体格納庫。
俺はケイオスハウル重装改の目の前に立ち、妖神ウォッチに向けて高く叫ぶ。
さあ、やられっぱなしは此処でお終い。ペイバックタイムといこうじゃないか。
「――――起て、ケイオスハウルッ!」
コマンドワードを受け取ったケイオスハウルは内部で転移魔法陣を展開、同時に妖神ウォッチ内部でも転移魔法陣を励起させて俺の身体をコクピットに収容する。
俺のサイボーグの肉体から
「さあ、一つになってもらうわよ!」
馬鹿言うな冗談も大概にしてくれと突っ込みたかったがそんな余裕は無い。
「があああっ!」
痛いのだ。頭が、身体が、心が。
チクタクマンとアトゥの双方が抱える膨大な記憶や感覚情報、そして魔術の知識が頭の中を埋め尽くす。焼き切れそうな自我と全身を支配する苦痛。
意味不明な画像が目の前を幾つも
嘲笑する雌山羊が頬を舐める幻。
俺の住んでいた家を思い出させるスノーボール。灰の降り積もる故郷。
歯車の町。重金属酸性雨。
森の奥でのたうつように踊り続ける首の無い人々。
「どうしたのサスケちゃん!?」
「二人共……少し、うるさい……」
「しまった! 今まで通りではサスケに負担が掛かり過ぎるのか!?」
「我輩が肩代わりするわ! さっさとサスケちゃんを守りなさい!」
「言われずともだ!」
頭の中に入ってくる情報量が減る。ケイオスハウルの両腕、腹部の隠し腕、下半身のホバークラフト。俺の肉体がケイオスハウルであると感じ取れる。
人間のものではない肉体を、当たり前のように俺は受け入れた。この変質が、歪みが、もはや異常であると俺には感じられない。だがこれでいい。これでこそケイオスハウルの力を引き出せるのだ。
「ヘイ、これでいいかな? 機体との同調を下げて知覚能力は通常のエクサス並にした。サスケの魔眼が有れば補える範囲だろう?」
「サスケちゃん様子はどう? ケイオスハウルとのシンクロによって入り込む情報に、我輩がフィルターをかけたわ」
「二人共ありがとう。良い感じになった」
眼下のアマデウスは俺たちを見上げると満足気に頷く。
「佐助君は機体に乗り込みましたね。それでは私も失礼しましょうか。下がっていなさいMr.レン」
「え? 此処で戦うんですか!?」
「いえいえ、此処は軍事基地であると同時に私の本拠地たる神殿でもあります。なのでこの複合大神殿の結界を用いて亜空間を形成し、そこで戦うのです」
「亜空間なんて人間の魔術で作れるんですか!?」
「それができるから
そう言ってアマデウスは純白のマントを翻し、同じように高く謳う。
「
アマデウスの口元から漏れる言葉の一つ一つが魔力を帯びて輝き、それらが見る間に形を変えて繋がりエクサスのような何かを形成していく。
魔法使いじみた三角帽子のようなヘッドパーツと純白のマントを羽織った純白の機体。その右手に構えるは
アマデウスはその機体の名を名乗る。
「――――無明彩機プロヴィデンス。我が振る舞いこそ神意なれば」
自らが神の子を名乗る男。だが俺はそれを傲慢とは思わない。奴にはそれだけの力がある。
だからこのまま相手にだけ名乗らせる訳にはいかない。こちらも対抗しなければ気圧されたまま戦うことになる。
今から始まる魔術戦においては僅かな心の隙も許されない。
「
ケイオスハウルは両腕を大きく広げて吠え猛る。全身から噴出される余剰の魔力が大気を揺らしているのだ。
「
まるで耳元で発生したかのように、アマデウスの指を鳴らす音が聞こえた。
一瞬で景色が変わり、辺りの風景は昔テレビで見た月面そっくりとなる。
目の前にはプロヴィデンス。すでに杖を構えて臨戦態勢だ。
「勝負です。佐々佐助。君の行き着く先を見せて下さい」
そう言うが否や、プロヴィデンスの背後の空間が歪み、龍の頭を持った光の柱がケイオスハウルに向けて次々と伸びる。
「
咄嗟に魔力で障壁を形成して相手の攻撃を凌ぐ。
龍の頭を持つ
「まだですよ佐助君。この程度で障壁をすり減らしているようではあの男の一刀は凌げない!」
削れていく障壁をすり抜けた
「二人共魔力を回してくれ。全周囲三層展開に切り替えて相手の様子を見る。反撃はそれからだ」
そろそろ背面から飽和爆撃が来ると踏んだ俺は一足先に障壁を広域展開。
アトゥから魔力が回される。甘い、急に口の中が甘くなる。理由の分からない多幸感。アトゥの感情が流れ込んできている。だけどまだ正気は保てている。
「……ほうほう悪くない防御魔術です佐助君。君が元々持っていた魔力を感じる力のお陰で防御に隙が無い。でもそれだけでは勝つことはできない」
俺達の周囲の空間がキラキラと輝く。
時空が歪み、無数の龍型光条が顔を出す。
「……発生元はその辺りだな」
「サスケ! アマデウスの使用している魔術を解析した結果、空間異常の起きている座標を特定したぞ! 今から君の脳内に直接表示する!」
「了解。チクタクマン、詠唱補助を頼んだ」
「「「「「オーケー、思考分割による並行処理を開始する」」」」」
チクタクマンの声が幾つも脳内に響いてくる。一瞬頭の中が千切られるような錯覚を覚えたが、振り払って詠唱に心を集中させる。
「
「ほう! ほうほう! これは良い! 解除が間に合いま――――」
半分以上はアマデウスによって先に消されたものの、残りの半分がアマデウスのプロヴィデンスに直撃する。
月面が砕け散り、濛々と土煙を上げる。
アマデウスの姿は見えない。魔力のあのキラキラとした光さえも。
「やったか!」
「いいやまだだぞサスケ! レーダーに反応が有る!」
「なにっ!? だけど魔力は……まさか!」
「そうだ佐助君! そのまさかだよ!」
土煙が晴れると同時に純白の
「ですが大した物ですよ佐助君。私の機体ではあの光弾を一発でも受ければ相当なダメージとなるのですが……ケイオスハウルは本当に丈夫なのですね」
俺の推測が正しければ、あれはダゴンとハイドラとの戦いで見せた対魔術結界。確か名前は
あの問答無用の対魔術奥義を突破しなくては俺達に勝ち目は無い。
「当たり前だ! このケイオスハウル重装改はサスケの命を守る為のマシン! 計算上はクトゥグアの直撃にも耐えうる!」
「ふふ、それは頼もしい。チクタクマン……貴方も中々律儀というか、義理堅い神なのですね」
「機械的なものでね! 契約の履行まで彼に死なれては困るのだよ」
「ふふふ、そういうことにしておきましょう――――さて」
プロヴィデンスが再び
だが黙って魔術による攻撃を許す俺ではない。
「させるかっ!」
ケイオスハウルの両肩に設置された20mmガトリングガンに魔力を注ぎこみ、プロヴィデンスに向けて鋼弾の雨を叩きつける。
魔力を纏った弾丸は漆黒の軌跡を描いてプロヴィデンスへと殺到。だが弾丸が直撃する寸前にプロヴィデンスは魔術の発動に成功する。
「時間操作!?」
アマデウスの前で弾丸が止まっている。
「違うな、佐助君。私は時間より大きな枠組を操っている。少し卑怯だが許してくださいね。君も二柱のニャルラトホテプによるツインドライブシステムなんてインチキをしてることですし」
俺はこの後アマデウスがやりそうなことが分かる。
アマデウスを目前に静止した弾丸が大気に溶け込んで消える。すると俺達の目の前の空間が歪み、波打つ虚空から弾丸が現れる。
「君が機先を制する為に撃ちまくることは分かっていました――――さあ、ペイバックタイムだ」
全ての弾丸がケイオスハウルの腹部に向けて放たれる。ナミハナであれば苦もなく回避できるかもしれないが、俺には無理だ。
咄嗟に両腕で腹をかばい、全弾命中を避ける。
両腕と腹部装甲に軽微な損害有り。
「
金色の結晶が砕け散った装甲の穴を埋め、その上からチクタクマンがめり込んだ弾丸の金属を集めてコーティングを行う。
「やれやれ……尋常なる魔術戦では本当に決着がつきそうにない。だがそれが良い実に良い。それは佐助君が私や“魔弾”や“銀腕”や“剣聖”の領域に近づきつつあるということなのだから」
次の瞬間、プロヴィデンスの振りかざした杖がケイオスハウルへ向けられる。
するとケイオスハウルの内部、特に腕の関節からパーツが悲鳴を上げてねじ曲がる。
重力操作によって巨大な重量を持つケイオスハウルの関節部を攻撃している訳か。
だが腕は千切れたら直せば良い。例えケイオスハウルと神経がつながっていても、痛いことも苦しいこともアトゥが一緒に背負ってくれるのだから。
「ふははは! その機体の重量では十秒も保たない筈――――あれ?」
「まずいぞサスケ! ケイオスハウル自壊まであと一分だ」
やっぱ硬いなケイオスハウル!
「その間に止めさせる!」
「移動はできないから撃ちまくりなさいサスケちゃん!」
「勿論! 全砲門用意!」
胸部装甲を開放し、熱線照射装置をプロヴィデンスに向ける。
これに肩部バルカン、隠し腕で操作するバズーカ、そしてゴッドハウルを合わせれば重力操作どころではないはずだ。
「喰らえ――――!」
息を思い切り吸って絶叫する。
「ゴォッドハアアアアアウル!」
魔力により発生した熱線による攻撃、実弾兵器による攻撃、魔力そのものを叩きつける攻撃。
この三つを織り交ぜることで、
無効化限界の有無、無効化範囲、概ねデータは出そろうだろう。
「ほう、この技を一度見ただけでその発想ができるのですか? 悪くない。及第点ですが――――」
大気中が、そしてプロヴィデンスが再び魔力の光で輝き始める。夜空に浮かぶ星のように、遠く尊き光が周囲を満たしていく。
重力操作が解ける。次のアマデウスの一手は何だ? 無効化か? 魔術によるバリアか?
「不味いぞサスケッ!」
「え?」
その瞬間、大気が爆ぜた。チクタクマンが咄嗟に防御魔術で俺を守ってくれたから良かったものの、ケイオスハウルのカメラを含めた精密機械が破損してしまった。
攻撃も全て無効化された。熱線は掻き消され、ガトリングの砲身は折れ、ゴッドハウルは逆位相の魔力を叩きこまれて相殺された。
大気中に満ちる
滅茶苦茶だ。魔術だけでなく、魔力まで圧倒的じゃないか。
「――――まだ地力が足りませんね。それでは君、死にますよ」
ああ……確かにこいつと比べたら格が違う。
「私はつねづね思うのです。誰かを助けても、自分が死んでは意味が無い。死人は誰も助けられないのだから」
「…………」
俺は父の言葉を思い出す。父さんも、同じことを言っていた。
「佐助君、ここで提案しましょう。私の魔術を継いでくれるなら、君はアズライトスフィアでの戦いを降りても良い。元の世界に戻り、平和な生活を手に入れることもできる」
「なんですって……? そんなことしたら
「そうなっても私が君の映し身を作れば滞り無く世界は進む。機械でも、生でも、神にさえ匹敵する私の魔術が有れば人間のコピーというのはさして難しいものではありません。もし貴方が戦いを放り出すのが嫌だというなら、君はその映し身を操って安全なところから一方的に戦うこともできるのです」
そんなバカなことがあるのか?
こいつ、急に何を言っているんだ?
もしそうなら今までの俺の戦いは何だったと言うんだ?
唐突な提案に俺は自らの耳を疑うことしか出来なかった。
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熾烈を極めるアマデウスとの戦い!
そんな中、アマデウスは佐助にアズライトスフィアでの戦いから身を引くように
突然の言葉に動揺する佐助。チクタクマン、アトゥがそれぞれに譲れない理由を語ることで、彼もまた自分自身の理屈にならない強い気持ちを再確認する。
「光の翼! クン=ヤンの科学者達が作り上げた第零世代エクサスが起こした奇跡の再現ですか!」
「受けてもらうぞアマデウス! これが俺の、俺たちの全力だ!」
「「「――――
佐助、心に出会う!
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