第39話後編 ケイオスハウル重装改!
前回までのケイオスハウル!
正気を磨り潰しつつも魔術書の読破により更なる力を手に入れる佐助!
そしてついに改修作業が完了したケイオスハウル!
もはや恐れるものは何も無い!
佐助は試運転の為に海底にあるアマデウスの秘密基地まで向かうのであった!
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アマデウスが海底に作った秘密基地に戻ると、レンが一人で出迎えてくれた。
「おかえり佐助!」
「ああ、ただいま。下準備は概ね終わった。後は計画の決行とそれに伴う訓練だけだ。機体はどうなった?」
「完璧!」
レンが手渡したタブレットの画面を眺める。
何やら事前に渡されていた強化案よりも装甲と武装が増えている。
「こんな強化をこの短期間で?」
「短期間って言っても、佐助が目覚めてからもう一ヶ月だよ? 遅いぐらいだ。本当は武装ももっと増やしたかったけど、とりあえず市販の品にしたよ。ごめんね」
「構うことはない。だが一ヶ月か……」
「父さんによると今の叔母さんはそこそこ大人しくなったみたいだよ。佐助が目を覚ましてから少しずつ脱走挑戦の回数も減ったみたいだしね」
「だったら良いけど……決行当日までに万全の状態になっていて欲しいものだな」
「父さんに伝えておくよ」
「ああ、ユリウスさんが唯一の窓口だ」
「でも最近はなんとなく怪しまれているらしいから……あんまり期待しないでね。もしかしたらもう僕達の動きはバレてて、爺ちゃんが自分の楽しみの為だけにわざと僕達を放置している可能性も有る」
「分かった」
「それじゃあ行こうか佐助。早くケイオスハウルを見せたいんだ」
俺は頷くとレンの案内でケイオスハウルの待つ海底基地のハンガーへと向かった。
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「見てよ佐助! ケイオスハウル重・装・改! シミュレーションではあの震電もパンチ一発でぺちゃんこさ!」
「おいおいおいおい……そりゃこれだけでかければ質量差で潰せるだろうけど……」
ホバークラフトの上に人の上半身を載せたエクサスとしての基本的なデザインは変わらない。
最初に見たのと同じように装甲の色は漆黒、人間に良く似た顔つきの殆どをマスクで覆っている。見えるのはカメラになっている二つの緑の目だけだ。あのマスクの下に魔力増幅用の第三の目が有る。
両腕は捻れ曲がる非ユークリッド幾何学的な金色のラインで彩られており、如何にも豪華である。しかしその歪んだ曲線の造形は見る者に何とも言えない胸騒ぎを感じさせる。
一方で胴体には幾つもの作業用の副腕が格納されたラックがついていてさながら軍用のベストだ。ラックの一つ一つに燃ゆる三眼をアレンジした紋章が、これまた金色で刻まれていた。
そして胸部には今まさに十二時を刻もうとする時計の図案が刻まれている。チクタクマン曰くこれは破滅時計とやらがモチーフだそうだ。
機体を覆う装甲はミ=ゴの採取していた特殊な金属とチクタクマンが構築した高度な魔法陣が幾重にも組み合わされている。魔力が続く限り最硬無敵の壁としてあらゆる魔術と物理的攻撃を受け止め続けることができるのだ。
何度も言うが基本的なデザインは何も変わっていない。では何処が改修されたのだろうか?
まず変化が有ったのは腰だ。下半身のホバークラフト部と上半身の人型部を接合している腰のところにビヤーキーが持つフーン器官を利用した推力偏向ノズルが増設された。
魔力の莫大な消費と俺の肉体への負担と引き換えに、巨大質量による突進が可能になった。ビバ質量暴力。
続いて指先の無限生成ミサイルだけでなく肩部へのガトリングガンの搭載、胸部への熱線放射装置の搭載、後背部には対神話生物兵器として無数のベアリング弾を射出するクレイモアじみた兵器が搭載された。腰にはなんとバズーカまで! 実弾兵器がてんこ盛りになったのだ。
だが一番大きい変化は巨大化だ。元のケイオスハウルの倍近い巨体になっている。こんなものどうやって扱えというのだ。こんなもの操縦する湖猫が魔術師でなければ出力不足で動かせないし、万一魔術師でも邪神の補助無しで乗ったら全身から魔力を吸い取られて死ぬ。あるいはニャルラトホテプと意識をつなげて発狂する。
ああなんてことだ! 俺にしか乗れない!
「どうだいサスケ? 良い機体だろう?」
「誰がここまでやれといったチクタクマン!」
「安心したまえ。この機体は私とアトゥ、そして電子版ネクロノミコンが動力炉として搭載されることを前提とした機体だ。君に余計な負担を強いるつもりはない。そして君以外には絶対に乗れない! 何故なら私達が手を貸さないからだ!」
「お馬鹿! この限界知らずの技術キチ!」
アトゥも中々どうして頭がおかしいが、チクタクマンもそういえば頭がおかしかったんだっけか。うっかり忘れてた。
「でも佐助! このケイオスハウル作るの超楽しかったよ! だってこんなの絶対動く所見られないもん!」
レンも良い笑顔だ。お兄ちゃん嬉しいよ。
「お前は叔母さん拉致られて、母親が軍病院で事情聴取中なのに、なんでそこまでイキイキしてるんだ!?」
「あの祖父にしてこの孫有り、僕も大概人でなしだからね!」
「グッとガッツポーズするんじゃありません! お父さんが泣くぞ!」
「ソーリーサスケ! レン少年を思うままやらせたのはこの私だ! 叱るなら私を叱ってくれ! でも、こんなモンスターマシン……いやゴッドマシンを作って心が踊らない男が居ない! それは分かってくれたまえサスケ!」
「ああそうだろうな……お前らの笑顔、眩しいぜ……」
俺達がぎゃあぎゃあ騒いでいるとアマデウスさんもハンガーにやってきて完成したケイオスハウルを若干驚いたような顔で見上げる。
「いやー実物見るとひどいものですね。私がかき集めた予算の五分の三を喰った機体なだけはありますよ。Mr.チクタクマン、そしてレン君、お二人は一体何と戦うつもりなんですか?」
予算の五分の三、そういった時の彼の顔は仮面で覆われている筈なのに泣きそうな表情を浮かべているような気がした。
っていうかなんだ五分の三って。るろうに●心じゃねえんだぞ。
「「限界!」」
でも笑顔で声を合わせる二人を見ていると、なぜだか優しい笑みが零れた。もうこいつらはこういうものなんだ……仕方ない。
アマデウスさんの方を見ると、彼の仮面の下からも俺と同じような諦念の笑みめいたサムシングが見てとれた。
本当に邪神ってのは恐ろしいな! レン君、君が長瀬重工継いだら会社傾きそうでサスケお兄さん怖いよ!
「成る程、良く分かりました。完成したなら少し慣らし運転も兼ねて模擬戦をしましょうか」
「待ってよアマデウスさん! 僕の知る限り、今のケイオスハウル重装改の模擬戦の相手になるエクサスなんて……」
「――――ええ、なので私が出る!」
「えっ」
レンが目を丸くした。
「なんですって?」
俺は耳を疑った。
「アンビリーバボゥ! アマデウス、まさか君が自ら動くというのかい! 私が見たところ、君は自分が手を下すのを極端に嫌う性格だと思っていたのだが!」
チクタクマンは呵々大笑だ。
「元々、佐助君には稽古をつけるつもりでした。そうでなくてはあのナルニア会長を討ち破ることなど不可能ですからね」
俺の中にはまだ残っている。俺達が手も足も出なかった強敵を瞬く間に無力化し、悠々と屠ったあの圧倒的な力を振るうアマデウスの姿が。
「アマデウスさん、貴方は祖父を知っているのですか?」
「ええ、勿論ですよ。私は“
名前から推察するに魔弾やアガートラムというのはギルドNo.7と執事のケイさんのことだろう。
「もしかしてアマデウスさんって俺やサスケさんが思っているより年上なの?」
「ふふっ、それは秘密です」
レンの問に優しく微笑むアマデウス。仮面の下の瞳も何処か温かい。さんざん胡散臭いと言われているにも関わらず、この人の善良さをまだ俺は疑えないでいる。
「今回は訓練や起動試験も兼ねて戦闘時のナルニア会長について知っている貴方が仮想敵になってくれるということで良いのですか?」
「その通りです佐助君。君と私で戦いましょう。今の君ならば私に届く」
アマデウスはマントを翻し、その下から俺に向けて右手を差し出す。
まるで子供を遊びにでも誘うように。
俺はその手を握り返し、彼の仮面の下の優しい瞳を真っ直ぐ見据える。
「ええ、胸を借りるつもりでやらせていただきます」
アマデウスのその手は優しい筈なのに不思議と冷たく、俺はなんとも名状しがたい奇妙な感覚に襲われた。
何かが危険を訴えかけている? だとしても、それが自分の正気度の減少によるものなのか、アマデウスが危険だと直感しているのか今の俺にはわからなかった。
もしかすれば手を組んで親父を殺しに行く相手になるかもしれない。ナミハナを救出したらこいつについてもっと深く調べる必要がありそうだ。
そのヒントを得る為にも、相手の全力を引き出した上で勝つ――――勝ちたい。俺はチクタクマンの導きに従ってケイオスハウル重装改へと乗り込んだ。
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強化改良を経て得た圧倒的な戦闘力を以てアマデウスに迫る佐助!
だがアマデウスもあらゆる神秘を解体する奇跡の秘術“
「
「無明彩機プロヴィデンス。我が振る舞いこそ神意である」
「
斬魔機皇ケイオスハウル 第四十話前編「激闘! 無明彩機プロヴィデンス!」
邪神機譚、開幕!
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