第33話 暴虐たる烈日
前回までのケイオスハウル!
海と空を埋め尽くす謎の神話生物軍団による襲撃!
しかし二ヶ月の修行によりパワーアップを果たした佐助とナミハナは合体技を以てこれを打ち破る!
だが生き残ったビヤーキー同士が合体した超神話生物キングビヤーキーとの戦いにより、佐助はショゴスのコロニーの中央へと叩き落とされてしまう。
絶体絶命の窮地! ナミハナの甥“レン・ナガセ”がその愛機たるアステリオスで佐助の危機を救ったに見えたが……?
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アステリオスはその紅の頭部だけをこちらに向け、ゆっくり、本当にゆっくりと両腕を上げようとしている。
物言わぬ機械、その瞳には間違いなく殺意が漲っていた。
これだからクトゥグアは嫌いだ。野蛮な奴め。
「アステリオス! 止まれ! 止まってくれ!」
それに気づかないレンは年頃の少年らしい悲鳴を上げ、何やら操作を続けている。
アステリオスの周囲を飛び交っていた
「うわバカ! なんで味方に武器を……! 佐々さん! 逃げてください!」
彼の弱々しい声とは裏腹に、彼のアステリオスはゆっくりと腕を上げる。
ロボット物のアニメでよく見る二連装の銃身を持ったライフル。
砲はどちらも紅蓮の炎を纏い、煙が銃口から白く薄く伸びている。
「サスケ、あれは恐らくクトゥグアの体組織を動力として利用したライフルだ。先ほどショゴスの波を焼き払ったところを見るに、火力は我々が対峙したあの時のクトゥグアに勝るとも劣らないぞ!」
「説明ありがとう。さしずめ
「ザッツライト! 勿論だが例外的に我々の機体の装甲を貫通できるだろう! まあ有利不利関係なく、あの熱量ならば突破できるだろうがね!」
俺達が対応を決めかねていると、ついにアステリオスが攻撃を開始する。
「――――あっ!?」
ライフルからの熱線が一発だけケイオスハウルに向けて放たれた。
だがそれはチクタクマンの魔術によって軌道を逸らされ、ケイオスハウルの隣に巨大な水柱を立てるにとどまる。
「ああ逃げてください佐々さん! 僕一人でなんとかしてみます!」
「待つんだレン君。ここで君を置いていく方が危ない。今は……」
そこで言葉に詰まる。どうするべきなんだこれ。
まずは艦長に指示を仰ぐべきなんだろうけれど……下手に攻撃もできないし!
「ふむ、先ほどの使用で装備も損耗しているようだね。長時間の最大出力照射は不可能か」
「分析している場合じゃないぞ! どうするんだこれ?」
「それは君が考え給え。分析までは代わりにしているのだぞ?」
「それは違いないけどさ……」
そうこうしている内に、艦長もケイオスハウルとアステリオスの様子がおかしいことに気づく。
「何をやっている二人共! 敵はもう撃退した! 戻ってこい!」
確かにそうしたいのはやまやまなのだが、流石にこの状態で艦の近くには戻れない。戦いに艦を巻き込んでしまう。
「マ、ママ……僕のエクサスが……。試験では一回も暴走しなかったのに!」
レン君、実はママ呼びが抜けてないタイプか。
案外可愛いところもあるじゃないか。
「艦長、レン君のアステリオスが現在暴走中です。可能な限り離れてください。俺が止めます。恐らくはケイオスハウルが原因です」
「なんだと? レン、あんたはとにかく機体を押さえな。無理だと見たらすぐに脱出。脱出も無理なら……助けに行くわ」
「は、はい! 今やってるよ!」
「了解。後で事情は説明してもらうとして……佐々佐助。この場を収める手立ては有るかい?」
「有ります。その為のケイオスハウルです」
「良い返事だ。男と見込んだ。支援は任せな。最悪その機体はぶっ壊しても構わん。艦長として許可する」
「イエスマム!」
許可はとった。これでアステリオスに反撃を仕掛けても問題は無い。
ケイオスハウルのスラスターが唸りを上げる。
「行くぞチクタクマン! 動けない内に接近して、
「高機動はあまり時間が保たないぞ? 逃げられるなよ」
一瞬だけスラスターのリミッターを切り、巨体に見合わぬ速度でアステリオスに肉薄するケイオスハウル。
チャンスは相手が動けない今のうちだけだ!
「「
ケイオスハウルの誇る
ネジというネジを弾き飛ばし、リベットというリベットを打ち砕き、装甲そのものが自壊し、アステリオスは機械という形を喪失しはじめる。
「
ケイオスハウルの拳がレンに迫ったその瞬間、俺は魔力障壁をレンの周囲に展開。
魔力障壁ごとアステリオスの内側からレンを取り出す。
そしてスラスターの勢いのまま一気に丹陽へと駆け抜ける。
腹に風穴を開けられたアステリオスは、バラバラになった部品を生体組織で補う形で自己再生を開始している。
急いで逃げなければ追撃を受けるに違いない。
「さ、佐々さん! 僕が居なくなると暴走が加速します!」
「それはわかってる! だから少し我慢してくれよ!」
空気抵抗や急加速でかかるGは本来膨大なものだ。
そんな力から脆い少年一人を守るために費やす魔力もまた膨大。
俺の魔力だけでは間違いなく枯渇する。
――――二ヶ月前までならば、そうだったろう。
印を結び、韻を整え、因を理解し、果を導く。
そういう魔術を覚えることは造作も無いことだ。
なにせ日本の高校生は勉強熱心なのだ。
「
空いた左手で印を結ぶことで障壁の形状を指定、そして単純な詠唱の韻律を細かに変えることで魔力の循環を操り、最低限の魔力で最大限の防御を行う。
そうだこの二ヶ月、商船護衛の仕事ばかりやっていた訳じゃない。
「佐々佐助、今そちらに迎えの者を寄越している! レンを渡してやってくれ!」
「ありがとうございます!」
「礼を言うのはこちらだ。息子……いや部下のことは感謝する」
こちらに近づいてきた丹陽の直掩部隊のエクサスに、手のひらの上のレンを渡す。
「この子を頼みます」
「応ッ! いい仕事だぜ魔術師殿!」
そう言った名も知らぬ湖猫が、彼のエクサスの親指を立てる。
「ありがとうございます。もう一仕事してきます!」
俺もそれに対してケイオスハウルの親指を立てると、未だに沈黙を保ったまま自己再生を続けるアステリオスに再度突撃を始めようとする。
「サスケ! スラスターが限界に近い! 通常速度に戻るぞ!」
「このタイミングで!? まだ遠いんだぞ!」
今一速度が乗らない。
驚く無かれ時速八十キロ。戦闘中のエクサスとしては泣ける程遅い。
量産機でも戦闘中ならばこの三倍は欲しいものだ。
ちなみにナミハナのラーズグリーズはこの五倍くらいの速度で急加速と急停止を繰り返す。やはりゴリラ……!
「サスケ! 砲撃来るぞ!」
「応ッ!」
チクタクマンが本来持っている魔力を借り受け、更に自分の魔力も込めても全身の装甲を強化し、攻撃に備える。
「来るぞっ! 前回のクトゥグアと同レベルのエネルギー反応だ!」
アステリオスは棒立ちのまま、両腕の二連装ライフルから熱線をこちらに向けて浴びせかけてくる。
何発かは無傷で持ちこたえたものの、少しずつ装甲が融解を始める。
「素晴らしいぞサスケ! 前回よりも我々の力を引き出している! それに比べて見給えあのクトゥグア! パートナーを持たぬ神のなんと哀れで弱々しい! 神々が何故地球などという宇宙の片隅に集まったのかも考えられぬ自動兵器風情が!」
今チクタクマンが聞き捨てならないことを言ったが、それに突っ込むのは後回しだ。今の状況は決して良くないんだから。
「そうは言うけど、案外不味いぞこれ」
こちらが迫るより少し早くアステリオスが逃げる為、追いつくことができない。
ゲーム的に言うと引き撃ちで嵌められている。
「確かにこちらの攻撃は相手に届かないね。対策は無いのか?」
「人間じゃないのにこんな賢しい真似をされるとは思ってなかった」
ロケットパンチも考えたが、防御が疎かになるので其処を突破されると不味い。
ロケットパンチ一撃で倒せるなら良いのだが、そうもならないだろう。
「成る程、恐らくアステリオス内部の戦闘データの解析によるものだろう」
「邪神も学習をしているのか?」
「ハハハ! 我々ニャルラトホテプならまだしも、クトゥグアはエクサスとしての肉体を与えられているからそれに従っているだけだ」
俺達が手をこまねいている間に、アステリオスの両肩から、日輪の如く輝く
「おっと、ドローンか? サスケ、アレの機銃に気をつけろ。恐らくクトゥグアの眷属であるアフーム=ザーが憑依している。熱線と冷凍ガスの両方を使える筈だ」
「奥の手か。やっと焦れてくれたな」
実はこれを待っていた。
「何か策でも?」
「生、生、生、星に命は満ち溢れ――――」
「ワット?」
ケイオスハウルの両手を使って九字印を結びながら詠唱を開始する。
これはアトゥと俺が二人で作ったオリジナルだ。チクタクマンには初めて見せることになる。
「――――苦、苦、苦、蒼海は夢見る血潮に穢される」
全身から大量の血液が消失し、契約の魔術を通じてアトゥの内部へと流れていく。
アトゥが何処に居るのかって?
「佐々流邪神忍法・木遁!
ケイオスハウルを囲む自律航空機の内部。
そして何よりアステリオスの内部。
彼女は既に潜んでいた。
先ほど、ケイオスハウルの
あとはコクピットという弱点に根を張り、武装へと種子をばら撒き、俺の合図一つで開花するその時を――――
「――――アトゥちゃん、待ぁってました!」
アトゥの叫び声と同時に、蒼炎を纏ったドローンが、一斉に銃口をアステリオスへと向ける。
アステリオスは事態の異常さに気づき、加速して俺達から距離を取ろうとした。
だが遅い。
「第四世代型ってだけなら、俺達の方が年季は上だ」
四方八方から伸びる蒼白い炎。その炎は触れた瞬間に周囲の熱を吸い取り、問答無用で相手を凍てつかせる。
アステリオスの腕が凍り、下半身のホバークラフト部が凍り、そして周囲が凸凹の流氷となり、更に内側からは凍りついたアステリオスを貫いて金色の大樹へと変化したアトゥが現れる。
凍りついたアステリオスから見事脱出したアトゥは透き通る琥珀色の鳥の姿になると、俺達の元へと戻ってくる。
俺はケイオスハウルの胸元からハウリングエッジを抜き放ち、その剣にアトゥを憑依させる。
アトゥの力を得て金色の光輝を放つハウリングエッジ、これで放つ
見よ。単純に邪神の力を解放するのではなく、収束させ、範囲を絞ることで確実に扱えるように人外の力を制御する。
見よ。これこそが魔を統べる術。魔術だ。
「
エクサスとして驚くほどゆったりとした速度で、アステリオスに迫り、全身の力を込めて剣を叩きつける。
断ち切るなどという上品なものではない。打ち付けただけの乱暴な剣だ。だが超高速の振動と、ハウリングエッジそのものの重量で、アステリオスは不快な金属音を鳴らし、ひしゃげて裂ける。
そしてその直後、真っ二つになった筈のアステリオスが、チクタクマンの魔術により機械として完璧に補修される。
人間が作るより完璧に、完全にクトゥグアの力を制御できるように。
かくて、アステリオスの内部に居たクトゥグアの封印は完了した。
「斬魔、遂行!」
金色の剣をケイオスハウルの胸にある時計の刻印へと回収し、勝利の雄叫びを上げた。
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再度立ちふさがったクトゥグアを相手に快勝した佐助!
艦長の信用を得た彼は無事に船にも馴染み、依頼は順調に進んでいく。
しかしそんなある日、艦長に呼び出され、丹陽が運ぶ積み荷を見せられる。
だがその積み荷というのがニャルラトホテプの化身で……?
次回、斬魔機皇ケイオスハウル第三十四話前編「
邪神機譚、開幕!
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