第30話後編 これまでの斬魔機皇ケイオスハウル!【第三章完結】

 前回までのケイオスハウル!

 

 佐助はゴーツウッド諸島のセヴァンで一夜の宿を得る。


 ナミハナが当たり前のようにとったスイートルームに圧倒されつつも、なんだかんだくつろぐ佐助。


 彼はナミハナと情報の共有を行うが、その過程で今後の戦いに備えて自らの持つ力の来歴や、ニャルラトホテプの真実、自らの全てを語ることに決めた。


********************************************


「――――それでは話そうか。俺の忌まわしき旅路の記憶を――――」


 俺の宣言を聞き届けたチクタクマンは溜息をつく。


 驚いたことに、腕時計の姿でどうやっているのかは分からないが、ため息っぽい音が出ているのだ。


「サスケ、本当に良いのか? ここでナミハナ嬢に語ればもう彼女も後戻りは――――」


 チクタクマンの台詞をナミハナが制する。


「構わないわチクタクマン、やっとサスケが話す気になってくれたんですもの。それを聞き届ける人なんて、この世界でワタクシ以外の誰が居るというの?」


「其処まで言うのであれば私も君達を信用するしかない……か。元々この手のことはサスケに任せるという約定ができている」


「ありがとう、チクタクマン」


 深呼吸をして気持ちを落ち着ける。


 思い出す。思い出す。めぐるましく過ぎたこの一ヶ月の物語を。惨劇を、奇跡を、皆の思いを。


 始まりは覚えている。今でこそ魔術師を気取っているが、一ヶ月前までの俺は漫画家志望の高校生だった。


 学校の中でも別に友達が多かった訳じゃない。喧嘩っ早い性格のせいで人からは疎まれていた。


 本当に俺が話をできていた相手といえば、幼馴染のお姉さんと親父くらいだったっけ。


「まず俺がこのアズライトスフィアに来たのは、俺の家がミ=ゴと呼ばれる宇宙人によって襲われたせいだ」


「ご家族が襲われたの?」


「親父と……何より愛犬のマロンがな。俺の目の前で一瞬だ」


「愛犬? サスケの家も犬を飼っていたのね……」


「そこら辺は異世界でも変わらないのかな?」


「ええ、アズライトスフィアでもペットは飼うわよ。神話生物避けに」


「やっぱりそうか……俺もマロンのお陰で助かりそうだったのにな……。マロンが殺されたのを見た瞬間に、なんかこう、カーッと熱くなって化物相手に殴りかかって……殺された」


「殺された!?」


 珍しくナミハナが動揺している。


 そういえばミリアには話していたけど、ナミハナには話したことがなかったのか。


「うん、殺された。そこをこちらチクタクマンに助けてもらった訳だ。俺は一度死んだから、人殺しをしたくないんだ」


「ま、まあ佐助が人殺しをしたくないというのは分かるけど……助けてもらったってどういうこと? 死んだのではなくて?」


「ハッハッハ! 信じられないかもしれないがサスケは脳だけにされてしまっていてね。義体に移すのも苦労したよ」


「脳だけ!? そんな状態で生きていられますの!?」


 やっぱりそう思うよな。


 ミリアはそこまで深く追求してこなかったが、流石にナミハナは変だと思うか。


 情報もより多く開示している訳だし。


「そこが俺の話の核心に当たる部分でもある。俺は、俺の身体は、外なる神の一柱“ニャルラトホテプ”によって構成された義体、邪神特製のサイボーグなんだ。俺は邪神によって蘇り、ケイオスハウルに乗ってミ=ゴの宇宙船を脱出した後、ある目的の為にこの世界に遣わされた」


「――――――ニャルラトホテプ!? 邪神の力を使っているとは思ってましたけど……まさかそこまでの大邪神を……」


 さすがのナミハナも表情が変わる。

 

 当たり前だ。ニャルラトホテプと言えば人間を弄び破滅を齎す最悪の邪神。積極的に人間に関わってトラブルを起こすという意味では他のどんな神より危険な存在だ。


 最初からこの話を聞かされていたら、流石に彼女も俺達を信用してくれなかっただろう。


「安心したまえナミハナ嬢! 我々ニャルラトホテプは無数の化身を持っている。故に一柱ごとの力はさして大きい訳ではない。精々上位の精霊と同等、良くて地方のマイナーな神格程度だ」


「あらチクタクマン、ワタクシそんな台詞に騙される程甘くなくてよ? 一柱あたりの力は小さくても、サスケを軸にして無数の力を重ね、サスケの思考によって制御されることでのではないかしら? 勿論、サスケと貴方達の思惑が一致している限りですけど」


「流石だな、ナミハナ。俺とチクタクマンは確かに同じ目的の為に行動している。俺達は神々の王“アザトース”の復活を阻止するつもりだ」


「アザトース?」


「この世界ではアザトースが知られていないのか?」


「ええ、ワタクシ聞いた事ないわ」


「ははは、我が父上は寝てばかりだからね!」


「父上!? ニャルラトホテプに父親なんて居るの!? 確かにそれなら危険だというのも納得できますわ……」


「まあ詳しくはこれを読み給え」


 ナミハナの連絡端末が振動を始める。


 なにやらデータがメールの形式で送り込まれたらしい。


「初めてでも分かるクトゥルフ講座.pdf……?」


「ああ、私がサスケの為に邪神の知識を纏めたものだ。もっとも、彼には不要だったんだがね」


「ふぅん……そういえばワタクシと最初に会った時もミ=ゴのことをよく聞き慣れない名前で呼んでらしたものね」


「あれは翻訳魔術の不発だ。チクタクマンが悪い。その聞き慣れない名前ってのは恐らく俺達の世界におけるミ=ゴの呼び名だ。固有名詞の翻訳は難しかったり、誤作動が発生しやすいんだ」


 俺はそう言ってチクタクマンを指差す。


 思い出す。ミ=ゴの宇宙船を沈めてやった後、突然襲いかかってきたナミハナのことを。


 あの時はまさかこんな仲になるなんて夢にも思っていなかったっけ。


 人間と戦うのはあの時が初めてだったが、機動力の高い攻撃特化型としてセッティングされていたナミハナの乗っていたラーズグリーズに対して、ケイオスハウルは重装甲型。チクタクマンの支援で攻撃に耐え切れたお陰で、カウンターが上手く刺さり、辛くも勝ったという感じだ。


 この後もピンチは多かったけど、ケイオスハウルの装甲が貫通されたのは、実はナミハナと戦った時だけだったりする。案外この戦いが一番の山場だったのかもしれない。


 ケイオスハウルの装甲を貫いた武装は今のところナミハナが乗るラーズグリーズのドリルだけ。そう考えると、今はナミハナが敵じゃなくて良かった。真剣に。


「ふふ、でもあの時のサスケは素敵だったわ。ワタクシのドリルを受けながら啖呵切る殿方なんて初めてでしたもの」


「あの時は良くやったな俺……生きた心地がしなかったよ」


「でも、それくらいが一番気持ちよくなれるのではなくて?」


「ナミハナ」


「なぁに?」


「この際だから素直に言いたい。俺を君みたいな戦闘民族と一緒にしないで欲しい」


「なっ……なんですって!?」


「俺は基本的に魔法使いなの! デスクワークの人なの! 血みどろの前衛とか嫌なの! 安全なところから一方的に勝利したいの! っていうか……そもそも戦わなくて済むなら戦わない方が良い! 戦う前から勝つのが最も合理的だろ!」


「結構ショックですわ……そんなことを考えていたの? それだけ強いのに?」


「そこら辺は生まれ育った環境が違いすぎるよ。でも別にナミハナの趣味自体は否定しないよ。そういう所も含めてナミハナはナミハナだし、そういう所も含めてパートナーになりたいと俺は思った訳だし」


 そうそう、初めてナミハナを見た時は驚いた。


 あんなやばい機体のパイロットが金髪縦ロールでボンッキュッボンな女の子だったんだもの。親父とマロンの仇討を終えた直後だというのに思わず見惚れてしまった。というか好きになってしまった。


 金髪縦ロールとかいう非現実的な髪型も慣れると可愛いし、なんとなく似合っているようにも感じてしまう。


 そう――――悔しいけど、俺も男の子なんだな。


「ふぅむ……ですわね。お互いに無いものを感じたってところかしら?」


「そういうこと。この世界じゃ根無し草だった俺達に身分とか仕事とか用意してくれたのは本当に助かったよ。ただ、初めての依頼は怖かったな……うん」


「でもあの後のディープワンとの戦いも素敵でしたわ! ワタクシ、一切見せ場無かったけど! 一切無かったけど! 素敵でしたわ!」


「まだ根に持ってるの……?」


 俺とナミハナが二人でこなした初めての仕事。それは海底遺跡の探索だった。遺跡の正体は別世界から転移してきた病院だったのだが、いかんせん人間を体内に取り込んだ超巨大な深きものが居て面倒だったのを覚えている。


 捕まった人々を助ける、神話生物も滅ぼす、どちらもやらなきゃいけないのが俺達みたいな湖猫パイロットの辛いところだ。


「ああ、そうだな! あの戦いはサスケが初めて魔術師としての片鱗を見せた戦いでもある! 私の力を随分上手に使ったものだと感心しているよ!」


「あら? サスケって外の世界の魔術師の一族じゃないの?」


「もしかしたらそうなのかもしれないけど、俺の魔術はケイさんから授かった呼吸や身振りといった基礎的な指導と、チクタクマンから貰った術式がメインだ」


「邪神由来の魔術ってこと? それって危険なのではなくて?」


「イッツ・オール・ライト! 今の佐助ならば特に問題は無いよ! なにせ機械の身体だ。人間ならば血反吐を吐くようなバックファイアが有るかもしれないが、少なくとも私一人の力を使っている分にはさして問題ない」


「あと単純に使い過ぎない限りは身体も保つな。そこら辺の加減の見極めができるようになったのはなんだかんだケイさんとの訓練の成果だぜ」


「依頼を受けていない時のサスケってそんなことなさってたのね。ワタクシとのシミュレーションもしていない時とか何をしているか不思議だったのよ」


「修行ばっかりじゃなくて偶に漫画描いたりしてるけどね、画材買ったし」


「それで思い出したわ、そういえばワタクシの絵は描けたの? ふふ、良かったらちゃんとモデルになってあげましょうか? カメラは勿論だけど肖像画とか描いてもらうことも多いし、慣れていましてよ?」


「じゃあ今度、家に戻ったらお願いしようかな? でも……」


「なに?」


「戦ってる時が一番キラキラしてるよな、お前」


「まあね。カメラでも使って撮っておいたら?」


「考えておこう。モデルにするなら……そうだなあ……」


 モデル、モデルか。


 俺、人物描く時は描いてから服着せる系男子だから描いている途中を見られると何か勘違いされないか怖いな。


 いやむしろ俺が妄想して勝手に興奮し始めてしまうに違いない。なにせ人物描く時は描いてから服着せる系男子だからな! 身近な人間でやると……なんて、なんて恥ずかしいんだ……!


「どうしたのサスケ? なんだかそわそわし始めちゃって?」


「あ、えと、ほら! あの――――」


 その時だった。


 部屋の中央に水晶と黄金で出来た樹木が突如として発生。


 水晶の中に埋め込まれた黄金がうねりながら人型を形成し、水晶の内側からお仕着せの女性が現れる。


 まあ……確かに俺とナミハナの初依頼を語る上では外せない存在だ。


「アトゥちゃん参上! ちょっと二人共良い雰囲気だから邪魔しに来たわ!」


 やっぱりお前だよな。またメイド服か。というか、お前は初登場時の神々っぽい服どこやった! そのうち土壇場で着替え直して格好良く決めようとでもしてるのか? それとも本気を出す時か、エネミーになった時だけしか使わないつもりか?


「…………」


「…………」


 まあ腹の中では色々思うところがあるものの、いきなり出てこられると……その、なんだ。俺もナミハナもリアクションに困る。


「……あー、これ空気読めてない奴よね。おねえちゃんわかっちゃうな~」


 こいつも黙ってさえいれば、長い黒髪とか、切れ長の瞳とか、スレンダーバディとか、エキゾチックな美人要素の塊のような神様なんだ。特に顔立ちが何処の民族とも微妙に違う辺りだって実に妖しげで良い。


 勿論そんなこと言うと喜ばれるから絶対言わないけど。


「それで、何しに来た? さっきお前の話題になってた時はだんまり決め込んでた癖に」


「ええ、空気がギャグに寄ってきたし今なら出てきても許されるかなって。サスケちゃんの情報を漏らしちゃったのはミスなのよ? 反省しているから、広大な心で我輩を許してくれると嬉しいわねっ!」


 まあこいつはこういう奴だ。こんなにアーパーでも根は良い子だから許してあげよう。


「……ちなみに、お前は俺達と初めての出会い覚えてる?」


「勿論! 遺跡の奥で封印されてたワタクシをサスケが助けてくれたのは忘れないわ! まあ最初は不幸な行き違いとか有ったけど些細なことよね! 我輩はサスケちゃんによって邪神と人間が対話を成立させられることを理解したわ! フォローミーフォローユーよサスケちゃん!」


 まあ、ナミハナのこと恨んでたとかマジギレしてたとか余計な事言うとこいつの職に関わるし、俺としてもそれは避けておきたい。


 何よりこのフラワリング脳味噌な女神の頭の中では可能性が高い。


 それに……俺のSAN値を回復させる離れ業をやってのけたのはアトゥだけだ。それを思えば今手放すのはあまりに惜しい戦力だとも言える。心理的にも戦略的にも離れがたい邪神だ。


「邪神と人間の対話? サスケ、アトゥは何を言っているの?」


「それが俺の目指す邪神アザトースの復活回避方法だ。邪神と人間の対話による最終戦争の回避。アザトースを目覚めさせない範囲で殺し合いましょう、あるいは殺し合いなんて止めましょうってね」


「止まるの?」


「止まるよ。だってアズライトスフィアの人間は強い。強い人間と一々戦うなんて面倒だと思うはずだ」


「あら、ワタクシ達って強いの?」


「俺の居た世界の人間より遥かに強い。例えばナミハナ、お前みたいに遺伝子の組み換えによって高い戦闘力を得た人間も居ない。勿論、俺みたいなサイボーグも、ラーズグリーズみたいなエクサスも無い」


「そんな……それでどうやって戦ってるのよ!?」


「ゼアーズノーミーンズ! サスケ達の世界では邪神は目覚めていない。存在を知覚する者もごくわずかだ。偶に、ごく短い時間だけ邪神やその眷属が目覚めたとしてもその場に居た人間が一方的に蹂躙されてオシマイ。要するに打つ手が無い!」


「チクタクマンが言うとおり、俺達地球の人間は弱い」


「そんな……」


「心配しなくて良い。このアズライトスフィア程じゃないが……あの夜闇の下にも、心身を削って戦い続ける人々が居る。俺みたいな力を持っている訳でもないのに、戦い続ける戦士が居る。あの世界には、まだそういう人間が居る……きっと」


 物語やTRPGの中だけではなく、本当に探索者は居る。今ならそう思える。


 だから、別にあの世界がどうでも良い訳じゃないが――――


「まあ、サスケちゃんが居るのはここだし? 今はここで頑張ろうってことよね?」


 おっと、アトゥに言われてしまった。まあナミハナもこれは分かってくれただろう。俺が何も言わなくても勝手に俺の心を汲みとってくれる仲間が居るのは良いことだ。


 ついぞ、元の世界では親父とあの人以外会えなかった。


「そういうことだな」


「ぶいっ! サスケちゃんのことは我輩が一番分かってるからね! なにせ神様ですから」


 ナミハナが怒りそうだから、少しアトゥを窘めとくか。


「今回はまあ良いとして、人の心にあまり安易に土足で踏み入るのもどうかと思うけどな。そういうのって人による訳だから」


 俺自身は感謝しているけどね。


「ああん! 冷たい!」


「アトゥは俗ですわね。神々なのに」


「くぅううううう―――――っ! なによなによっ!」


 アトゥが悔しそうに俺が寝る予定だったベッドでぴょんぴょん跳ねている。


 こいつは確かに俗物で、強いものに弱くて、自己中極まりない邪神だが、それでも無垢な心を感じる時が有る。


 きっとそれが今もこいつを憎めない理由なんだろう。


「ところでアトゥ、お前ちょっとお城帰ってメイドの仕事してこい」


「えっ?」


 体内に残るアトゥの魔力を引き出し、事前に学習していた魔法陣を展開。


「要するに、仕事をサボるな。ちゃんと帰って働けってことだ」


「あん、もういけず!」


 《アトゥの退散》なんてレア呪文なのだが、本から教えてもらえばざっとこんなもの。詠唱だって要するに相手と自分に意味が通り、自分の精神を集中セッティングできればなんだって良いのだ。

 

 不満そうにぶーたれながらもアトゥは姿を掻き消す。


「やっとやかましいのが消えたか!」


「嬉しそうだなチクタクマン?」


「オフコース! 我々ニャルラトホテプは根本的に相容れないからね! そもそも、ニャルラトホテプの存在の中に有る相容れなかった部分が、それぞれに神の力を寄り代に顕現しているんだぞ?」


「ああ、ニャルラトホテプが人間に積極的に干渉する割に、大した被害を出さないのってそういう理由でして?」


「いやはや耳が痛い。ナミハナ嬢の言う通りだろうね。だがあのクトゥグアを正面から討ち取ることも不可能ではないのだよ? 勿論、サスケの指揮で我々の力が集約されたならば、だがね」


「そうね、あの海賊狩りの一件でしょう? 確かにそれはチクタクマンの言うとおりだけど……結局サスケが倒れたなら意味が無いのではなくて?」


「うっ……ユーアーライト。全くその通りだ……」


 そう、ナミハナの言う通り俺達は一度クトゥグアと戦った。一緒に仕事をしていた少女ミリアや、海賊のアジトで保護した子供を逃がす為に、俺が足止めをしたのだ。


「チクタクマンを責めないでやってくれ。あそこでの戦闘判断は俺に責任がある」


「サスケ、無理はしないでよ? ワタクシ、もう貴方が邪神と相討ちして目を覚まさなくなるとかごめんなんだから!」


「分かっている。気をつけるよ」


 クトゥグアを呼び出した相手も相手だった。虚無教団、アザトース復活を目的とするカルト集団だ。


 そんな相手が敵ともなれば、退くことはできない。


「シドと行った酒場での一件もそうだが、虚無教団は何処に潜んでいるか分からない。今後は一層の警戒が求められるね! 頼むぞサスケ!」


「分かってる。とはいえ俺が生身でできることなんて……」


 あんまり無い。友人のシドと共に酒場で飲んでいた時もそうだ。


 虚無教団の幹部“ナイ神父”の襲撃を受けたが、ナミハナの執事のケイさんに助けてもらったのだ。


 あの時はケイさんが来なければ危ないところだった。


「サスケ、虚無教団って前言っていたカルト? ギルドにも情報が無かったのですけど、今まで現れた狂信者達の別名か何かではなくて?」


「アザトースを信じるカルトは無いのか?」


「そもそもワタクシみたいな湖猫でもアザトースなんて名前は知らなくてよ? そんな神のカルトなんて有るわけ無いじゃない!」


「言われてみればそれもそうか……奴らを炙り出す方法も追々考える必要がありそうだ」


 彼らは俺を仲間に引き入れようと狙っている。そしてその影にはどうにも父の影響を感じる。もしかしたら父さんが彼らに捕まって協力させられているのかもしれない。


 だとすれば俺は奴らのことを絶対に許せない。


「でも、今考えるべきは目の前の依頼のことですわ」


「……それもそうだな、特に今回の依頼は虚無教団の連中が目をつけそうだ」


 邪神の生体パーツを利用した第四世代量産型エクサス。もしこれが実用化されれば人類側の戦力は飛躍的に向上し、邪神と人間の戦いは更に激化する。


 だがこの第四世の実用化は、邪神と人間を機会を通じて接続することで、双方の意思の交流が行われる可能性も増すということでもある。


 更にこの世界では忌み嫌われる落とし仔ハーフリングはこの第四世代の操縦に高い適性を持つことが推測される。彼らは邪神の血を受け継いでいる人間だからだ。


 例え兵器扱いに過ぎなくても、犯罪者かカルトの生き神扱いかしか選べない人生より幾分マシになる。俺はそう変わっていく切っ掛けになると信じている。


「……ふぁ、あ」


「あらサスケ、あくび? 何時になく話したからもう眠くなっちゃったのかしら?」


「今日はまだ話したいんだけどな……」


「まだ夜は長くてよ? まずはディナーにしましょう。それからまたゆっくり……ね?」


「分かった。そういえばまだ晩飯も食べてなかったっけか……」


「シェフ内原の料理も素敵だったけど、やっぱりサスケは普通が一番なんでしょう?」


「……まあな。ナミハナの城で食わせてもらってた種類の普通の料理が一番良い」


 内原さんは人格的に今まで俺が会った人間の中で最も好ましい部類に入る人間だし、彼の料理は文句無しに旨い。だがそれとこれとは別だ。邪神料理はキワモノすぎる。


「さ、着替えて? レストランに入るのにはドレスコードってものが有るのよ? お金なら貴方の取り分から引くから心配せずに受け取りなさいな」


 ナミハナは笑顔で俺にスーツを差し出す。


 部屋の隅に転がっていた無数の買い物袋を見るについでに買ってくれたのだろう。


「確かに簡単でも礼服は必要か……ありがとう。この世界のテーブルマナーは詳しく知らないんだけど大丈夫?」


「城と同じ、普段通りで良いわよ。テーブルマナーは異世界でも変わらないっておかしいわね。あとその服はミリアと選んだの。既成品レディメイドだけど悪く無いでしょう?」


「意外だな。あいつが?」


「あの子、実は結構な衣装持ちなのよ。普段は依頼受ける都合でスーツの上から安い服着てるけど、オフの日はメガネも外して髪型も色々セットしなおして只の可愛い女の子やってるんだから」


「意外っていうか……びっくりっていうか」


 でも、そういう平和な一面が彼女にも有ると分かってなんだか嬉しい。子供の頃から傭兵をやっていたと聞いていたから特にそうだ。


「ネクタイ結んであげるわ。さっさとジャケットとシャツをお脱ぎなさい」


「え? いいよそれくらい一人で……」


「ワタクシが困るのよ、良いから黙って結ばれておきなさい」


「はいはい……」


「はい、は一回!」


「はーい」


「伸ばさない!」


 結局、俺はナミハナにされるがままにすることにした。というか、今はなんだかされるがままでいたかった。


 ネクタイを締めてもらいながら、俺は覚悟という名の静かなる焔を燃やしていた。


 俺は此処で、為すべきを為そう。


 他の誰でもない、彼女と。


 俺達の戦いは今始まったばかりだ。


********************************************


 第三章完結!


 完璧に覚悟を決めた佐助。


 本格的に行動を始める虚無教団。


 そして怒涛のごとく現れるニャルラトホテプの化身達。


 物語はここに加速を始め、収束と終焉へとひた走る。


 第四章「第四世代量産型エクサス、邪神蒼騎起動」


 乞うご期待!!

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