第16話後編 遭遇、虚無教団
海賊退治ということで武装化した島の中に乗り込んだ俺達は、基地の中枢近辺で足止めを受けていた。
砲戦用のエクサスが隊列を組んでひたすら撃ちまくってきているのだ。
今は壁に身を隠して凌いでいるものの、下手に突撃するのは危険である。
「予想以上の装備だな! 絶対あいつら只の海賊じゃねえ!」
狂信者の集団が武装や資金を提供しているに違いない。
「ああ、倒しても倒しても切りが無い」
「サスケちゃん、サスケちゃんの好きな突撃じゃ駄目なの?」
「流石に火力を一点集中されると装甲の再生も追いつかないし、魔術防壁は動きを止めないと使えない」
「あん、イヤね」
「サスケ、無理やり押し通っても良いのではないか?」
「そろそろ俺の体力がだな……」
「殺しちゃいましょうよサスケちゃん、なまじ手加減するから消耗しちゃうのよ」
「お断りだ」
「でもサスケちゃんがちんたらしてたらあの女の子が危ないんじゃない?」
「今回はアトゥの意見に賛成だ。彼らは人間の基準でも殺して構わない存在なのだろう?」
邪神共め、好き勝手言ってくれる。
確かにあいつらは死んでも良いと世の人に言われる犯罪者かもしれない。
誰があいつらを殺しても、俺は絶対に心を痛めない。
だけど俺が殺して良いなんて、俺は絶対に思わない。
「――――まだ、だ。まだ俺は意地を貫ける。合わせろチクタクマン」
「サスケ、君は自分自身を犠牲にするつもりかね?」
「自分の生き方の為に使う命を……犠牲とは呼ばない!」
「オーケー! そういう答えは悪くない!」
呼吸を整え、精神を集中。
体の中の魔力を注ぎ込むイメージ。
ケイオスハウルの両腕から蒸気が噴き出す。
「
飛び出した二つの拳が壁の向こう側でライフルを撃ちまくる海賊のエクサスを捕まえる。接触によってチクタクマンが二機のエクサスを支配。
「機体のコントロールが効かねえ!?」
「何が起きたんだ! 撃て! 撃てっ! あの捕まった奴から――――ぎゃあ!」
チクタクマンに支配した機体に組み付かれることで間接的な接触が発生。ゾンビ映画みたいにチクタクマンに支配される機体は増加する。
「隊長の機体が操られたぞ! 加減するな! 隊長ごと撃ちまくれ!」
「やめろお前ら!?」
「で、でも隊長!」
「撃つな! 撃つな! お前ら逃げて援軍を……」
「駄目です隊長! もう防衛部隊はこれで全部です。兄貴が逃げ出すまで――――」
「おい、格納庫で爆発だ! 兄貴が巻き込まれた!」
うわ、えげつねえなミリア。
「もう俺達の団はおしまいだああああああ!」
いやまあ確かにお終いだろうな……まあ良い。
俺は敵が混乱している間に俺は大好きな突撃を敢行。
肉薄さえすればこちらのものだ。
「おい、あいつ近づいて――――」
近づいてから無造作に拳を繰り出す。
一回、二回、拳を振るう度に無力化される機体が増えていく。
見回すと、機能が停止したエクサスの残骸がそこら中に転がっていた。
「こちらナッツクラッカー、任務を完了したのであります。これより全人軍の増援を要請し、その後に離脱します」
ミリアから無線による通信が入る。
「こちらケイオスハウル、基地中枢部一歩手前まで到達。こちらも離脱する」
俺もそれに返答し、退却を開始することにした。
「ああ、お待ち下さいサスケ殿! ならば基地中枢で合流しましょう! せっかくなので金目の物が有れば頂いていくべきです!」
先程から表示されていた基地内部のマップにミリアの機体の反応が映る。
敵の反応はどんどん基地から離れていっているし、あの辺りの残党狩りは軍の連中に任せれば良いだろう。
それに帰り道は俺の通ったルートよりも敵を皆殺しにしているであろうミリアの来たルートの方が安全だ。
火事場泥棒をするかどうかは別として、俺達は一先ずミリアとの合流を決定した。
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基地の中枢部は巨大な地底湖を利用した格納庫になっていた。
此処に収まっていた筈の機体はもう一つも無い。空っぽの倉庫ばかりだ。エクサスの為のコンデンサーが幾らか転がっているぐらいだ。
ミリアは幾らかぼろぼろになったパルティアンショットを駆り、地底湖の向こう側からこっちに近づいてくる。
「いやあ大戦果でありますな! 大儲けでありますな! サスケ殿が大暴れしてくださったお陰でぬるい仕事でした!」
「そいつは何よりだ。トラップは大丈夫だったか? こっちはいきなり爆弾喰らったりして散々だったよ」
「こちらは基本的に海賊団の団員だけが使う裏口だったので防衛設備は無かったのであります。少々手強いエクサスが居ましたが、自分の敵ではありませんでした!」
囮冥利に尽きるねこいつは。
とはいえミリアに手傷を負わせる相手が残っていたのか。
改めて驚きだ。
やはり只の海賊とは思えない。魔術師との取引の賜物か?
「ならば結構だ。さっさと裏口から帰ろう。もうすぐ軍が来るんだろう?」
「はい、捕まった人達の救出に関しても彼らがやるとのことであります」
「捕まった人達……」
「それは居るに決まっているのであります。人身売買用の子供なんかがたっぷりであります。勿論降りて助けようなどとは思わないでください。我々はずば抜けた性能のエクサスに乗っているから海賊共を蹴散らすことができるのでありますから……その辺りは軍に任せるべきであります」
「……いや、待て」
「なんでありますか?」
俺はチクタクマンに質問をする。
「チクタクマン、捕まった人達を見つけたら安全な場所まで逃がすことができるか?」
「ふむ、転移陣を用いれば安全な場所まで逃がすことはできるよ。だが既に海賊共は逃げ去った後、軍に任せても問題は発生しないだろう」
「そうなのか」
ミリアとの通信に戻る。
「よし、済まなかったミリア。ここは帰投しよう」
「それでは案内いたします。基地の中枢部という割には金目のものもありませんし……」
「待て、サスケ。おかしいぞ。床、床が魔力を弾く素材だ。何か隠れているかもしれな――――」
チクタクマンの台詞を遮り、アトゥが俺の耳元で叫ぶ。
「サスケちゃん! 生体反応が二つ! この近くよ!」
「サンキュー二人共! 動くなミリア!」
俺は咄嗟に魔力の壁でパルティアンショットとケイオスハウルを包む。
「ひゃはははぁ! くたばれやぁ化物ぉおおおおおお!」
突然倉庫の下の床が割れて異常にぎらついた瞳の男が俺に向けてバズーカを構える。SAN値がピンチだと一目でわかる。アトゥのせいだなこれ。
バズーカから飛んできた徹甲榴弾により、魔力の壁が光を散らして砕け、続いて火球が現出する。
飛び散った破片が装甲を叩く音が聞こえる。衝撃は無い。
なんとか防御には成功したようだ。
「ケモノは貴様らであります!」
ミリアは機銃を操ってぎらついた瞳の男を一瞬で肉片に変えた。
使用した弾丸はたった三発。頭・胴体・膝に的中させる人間離れした射撃だ。
「大丈夫でありますか、サスケ――――」
――――あっ。
何かが来る。
「お父さんの仇!」
その叫び声が聞こえる前に、俺はミリアのパルティアンショットの前に立っていた。
甲高い金属音と共に銃弾が弾き飛ばされる。
アンチマテリアルライフルの類だったんだろうが、ケイオスハウルには通用しない。
顔を上げると巨大な銃器を構える子供が倉庫の屋根の上に居た。
怯えた子供。
俺は彼の顔を睨みつけた後、息を大きく吸い込み、一気に叫ぶ。
「ゴッドハアアアアアアアアアアアウル!」
螺旋を描く魔力流に飲み込まれ、子供は空高く打ち上げられる。
殺さない程度に出力は絞っておいた。
俺はケイオスハウルの拳を射出して子供をキャッチすると、こちらまで優しく引き寄せる。
「サスケ殿、何をなさっているのですか!?」
「すまないミリアちゃん、見逃してくれ」
「そんなことより……ご無事で?」
「大丈夫だよ。俺、魔法使いだから」
「良かった……サスケ殿に何か有ったらお姉様に申し訳ができません」
そうだ。大丈夫なんだよ。魔法使いになっちゃったから。
もう只の高校生には戻れない。
「それは俺もだ。しかし……な」
肉片になった男と、ケイオスハウルの手の中で眠る子供を交互に見る。
殺そうと、殺すまいと、命を狙われることには変わり無しか。
いやはや虚しい浮世であることよ。
「ええ、分かりますサスケ殿。殺しても、殺さなくても、同じでありますなあ」
「本当にな……まあ良い。帰ろうかミリアちゃん」
結果が同じだとしても、いいや同じだからこそ、あえて選ぶ道に価値が生まれるのかもしれない。そう思っておこう。
「それは良いのですが……その子供、連れ帰るのでありますか?」
「見捨てて置けるか?」
「殺されかけた身でなければサスケ殿の提案には賛成してたであります」
「……やっぱ、駄目か」
ミリアは無線の向こうでクスクス笑う。
「ノーコメント! 自分は知りません故、サスケ殿の好きにすると良いのであります!」
「感謝する」
これで後は俺達が海賊の基地から離脱すれば――――
「ブラッボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! パーフェクト! パーフェクトな筋書きだ! かくして若き魔術師は自らの正義を通し、父を喪った少年はあらたなる世界を見ることとなる! そして元少年兵の娘は少しだけ人間らしく優しくなったという訳だああああああああ! んんんんんんんんんんんんんんんんん!!!! 好き! こういうベタなのでいいんだよベタなのでさあ! 僕もこういう話を書きたいと思っていたんだ!」
なんだ!?
俺が咄嗟に叫び声の聞こえた方を振り返る。
湖の上に、人間が持つ者とは思えない程巨大な万年筆を携えた男性が立っていた。
ヴォードヴィリアンぶった極彩色の衣装をはためかせ、男はニヤニヤ笑っている。
「サスケ、魔術師だ!」
「サスケちゃん気をつけなさい。あの男は結構強いわ。あとキモい」
それは俺も同意する。
「サスケ殿! 下がってて下さい!」
俺があっけにとられている間に、ミリアのパルティアンショットは男に向けて対人対神話生物ヒートベアリングを放った。
「駄目だね。そういう噛ませ犬っぽいムーブ」
だがベアリングは男の目の前で静止し、湖の中へと落ちていく。
「脇役は脇役らしくしてくれないと困るよ」
「お前、何者だ!」
俺の質問を聞いて男は満足気に頷く。
「我が名はシャルル・ド・ヴリトー。究極の邪神アザトースを奉る虚無教団の大導師にして……いや違うな。僕はなにより三文文士さ」
シャルルという男はそう言ってそれはそれは不敵に微笑んだ。
********************************************
俺を人間だと言ってくれた少女が居る。
父を奪われたばかりの子供が居る。
地獄の底で震えながら救いを待つ人々が居る。
正義の為に俺達を助けに来ようとしている人々が居る。
――――だから、俺は一歩も退かない。
第十七話前編 「悪意の語り手」
邪神奇譚、開幕!
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