第9話後編 ダブル・コントラクト
「キャハハハハハハハハ! 素敵! 素敵だわ! 我輩を楽しませて頂戴な!」
眼を開き、恍惚を伴う哄笑を上げるアトゥ。
彼女はまるで舞うようにその場でくるくると回転して笑い続ける。
その笑みは邪悪で、その舞は淫靡で、その光景は一枚の絵画のように美しい。
こんなことを思わされてしまうなんて、おかしいのに、狂っているのに、恐ろしいのに。
「アハ、ハハハハ! キャハハハ! フフ……」
アトゥは一しきり俺達を笑い終えると、我が子をあやす母親のように優しい表情を浮かべる。
「不敬者でもこうなってしまえば可愛いものね」
俺の頬に手を触れる。
顔を背けようとしても首もろくに動かない。
「俺を……どうするつもりだ!」
「どうもしないわ。貴方に大した罪はないもの。それにほら、我輩だって慈悲はあるのよ?」
「じゃあ……」
「でもあの女は別よねぇ。我輩の供物を直接神域から持ちだしたんだもの」
「まさかナミハナのことか!?」
あっ、不味い。
絶対今余計なこと言ってしまった。
親父と違って動揺するとすぐ態度に出てしまうのが俺の欠点だ。
「そう、その女だわ! アレは尊厳という尊厳を打ち砕き、魚人共の苗床に堕としてやってもまだ足りないわ!」
「ふざけるな!」
「やだ、真面目よ我輩?」
「くそっ! 来い! ケイオスハウル!」
「ああ無駄無駄、我輩に囚われた時点で貴方の力は封じられているわ」
もがく腕に水晶の枝が食い込み、皮膚を引きちぎる。
流れだす赤い血。久しぶりに何の軽減もされない痛みを受けた気がする。
確かにチクタクマンの魔術が封印されている。
「やめたまえアトゥ! 私のパートナーにこれ以上の非礼を働こうと言うなら黙っておかないぞ!」
「チクタクマン、今の貴方に何ができるの? いくら貴方でもあの
「シャラップ! 私を見くびるな! 貴様こそ
「おっと、駄目よ。今動いたらこの子を今すぐ殺すわ。貴方どうせ、契約に縛られているんでしょう? 吾輩が何かしなくても貴方にサスケを害する行動をとることはできない」
「シャーラップ!」
契約?
いや、そんなことよりもチクタクマンは動けるのか?
あくまで拘束されてるのは俺だけか。
これは良いことを聞いた。
「クソッ……彼女は関係ない! やるなら俺をやれ!」
だったら手のうちようは有る。
「それは許可しないぞサスケ、私は君の保存が最優先だ」
「チクタクマン! お前!」
「我々の関係はギブアンドテイクだ。そこまで甘えられては困る。敢えて言おう。君に死は許されない」
「分かっている……けど! こんなんじゃ死んでいるようなものじゃねえかよ……」
俺は表情を見られないようにがっくりと項垂れる。
何か手があるんじゃないかと思案していることを悟られぬように。
「キャハハハ! 素敵! 素敵な絶望よ! やっぱり新鮮な絶望と無垢な嘆きは美味しいわぁ! この世界じゃ中々味わえないもの! サスケ、我輩は貴方が気に入ったわ!」
「それは羨ましい。生憎と俺はお前のことが親の仇と同じくらい憎いよ」
「そうでしょうね! 悲しいんでしょう? 憎いんでしょう? 腹が立つんでしょう! でも駄目よ。それどころか貴方は我輩に泣いて感謝することになるんだから」
「なに?」
「選ばせてあげると言っているの」
「……まさか」
「貴方の左腕のチクタクマンを我輩に捧げるならば貴方もあのお人形さんみたいな女の子も見逃してあげる。逆にあの綺麗な綺麗な女の子を我輩にくれるなら貴方とチクタクマンは見逃してあげる」
成る程、最悪の選択だ。
「さあ、どちらにするの?」
アトゥは厭らしい微笑みを浮かべる。
ニャルラトホテプの化身らしいやり方だ。
チクタクマンと違って俺の心を充分に理解した上で動いてくる。
「アトゥ、君は何を言っているんだ? 私に消えろと言っているようなものじゃないか!」
「言ってないわよ。それを決めるのはあくまでサスケだもの。そうそうチクタクマン、サスケの自我を操るのは無しよ? 貴方が妙な動きをしたら本当に皆殺しにするから」
「シット! アトゥ、貴様という奴は!」
「それにね、チクタクマン。貴方はやっぱり人の心が分かっていない」
「ホワット? 一体何を……」
チクタクマンは俺の方を怪訝そうに見上げる。
まあこいつはそういうのが分からん奴だ。
俺はそういうところも含めてこいつが嫌いではない。
「まさか、サスケ? 君は迷っているのか! 何故だ! 同種、中でもとりわけ異性の同種を守るのが人間という種の基本的かつ根本的な行動原理ではないのか! 契約の中にそのような内容は含まれていないだろう!」
「黙れ……チクタクマン、俺達はあくまでギブアンドテイク……甘ったれたことを言うな。俺が何もしていない内に、お前が俺の前から勝手にいなくなることは許さない」
「落ち着くんだサスケ、私ならばこの牝狐を出しぬいて逃げ出すことくらい訳は無い。今は素直に私を……」
「俺の命を助けてくれたお前を裏切ったら、俺はもう二度とお前に顔向けできない!」
「そんなことはない! 我々の相性は最高だ! 何時だって私は君を……」
「俺が俺を許せないと言っているんだ!」
「ああ、サスケ! 君という奴は! いいや、人間という奴はこれだから困るのだよ!」
「キャハハ! 素敵よ、素敵な茶番よ。古来より物語は神に捧げられたもの、この茶番劇は上等な供物だわ!」
「…………ふふっ」
アトゥが笑っている姿を見て、俺も思わず笑みが溢れた。
とっくに俺がこの場を切り抜ける算段をつけたことも知らないのだ。
この愉快な茶番の裏で、俺が策謀の糸を手繰っていたことをこの女は知らない。
「なあに? なにがおかしいの?」
「お前、人が苦しむ姿を見るのが好きなのか?」
「当たり前よ。それが我輩の生きる力だもの」
「じゃあ俺と来い。俺と契約して、俺に魔術の力を与えろ。そしてこれより先の旅路で俺が苦しみぬく姿で腹を満たせば良い」
「サスケ、君は正気かね!」
まずは飴。
きっと今、アトゥは差し出された飴の価値に気づかない。当たり前だ。わざと説明を破棄して断らせるのが目的なんだから。
彼女はこの世界にきてからずっとこの病院跡に引きこもってきた筈だ。
だから今のドリームランド自体をろくに知らない。
精々偶に訪れてきていたエクサスのことくらいだ。
そこに付け入る隙は有る。
「――――ハッ、賢しいわ」
アトゥはそう言って俺を嘲笑する。
俺が思いつきで上手いことを言って切り抜けようとしていると思ったのだろう。
「そんな浅知恵で神を出し抜けると思っているのかしら?」
「この辺りには島がある。人類の一大拠点だ」
「へえ……だから?」
若干驚いたような表情を浮かべるアトゥ。
やはり何も知らないのか。
ニャルラトホテプは群体としてみればほぼ全知全能だが個体レベルでは案外抜けていることが多い。
今回もそのパターンらしい。
「お前が天秤に乗せたあの少女、彼女は人類の権力者の一族だ。お前が何かすれば記録からここで何か起きたことが分かり、大量の人間がここを攻める」
「だからどうしたっていうの? そんなの我輩が……」
「倒せるのか? 俺とあのディープワンの戦闘は見ていた筈だぞ。いやその前にだって人間たちとディープワンの戦いを見ていた筈だ。あの人間の機械が千、二千、大量に攻めかかってきてお前は身を守れるのか?」
「ハッタリでしょう? 確かに貴方達二人のような力を持つ人間が居れば別だけど、雑魚共ならば私の……」
「すまないな、可愛いペットを殺してしまった。本当に済まない」
「ソーリー、私も此処に来るまで奉仕種族が大量に居たから追い払わせてもらったよ。一年は帰ってこないだろう。アイム・ソー・ソーリー!」
いかにニャルラトホテプの化身と言えど、中でも武闘派のアトゥと言えど、護衛を奪われた状態で大量のエクサスに取り囲まれ攻撃を受け続ければ死ぬ。
アトゥとて、それくらいのことは理解できる筈だ。
「サスケ、チクタクマン……我輩をコケにしているの?」
「アトゥ、サスケが君に持ちかけているのはお互いの大切なものを守るための対等な取引だよ。同じニャルラトホテプの化身として君に忠告させてもらうが、人間は強いぞ? あまり舐めてかからない方が良い」
「馬鹿にしてるわ! 人間と対等に取引だなんて! それにそもそもサスケが嘘を吐いている可能性だって有るじゃないのよ!」
怒るか。それで良い。この取引が悪くないことはもう理解できている筈だ。しかし一度断った取引を今更もう一度だなんて、自分からは言い出せないのだろう。
「じゃあ俺の記憶を見てみれば良いだろう?」
「良いわ! 見てあげるわ!」
アトゥが俺の額に右手を当てる。
「うそっ……なんで邪神相手にまともに戦ってるの……? チクタクマンの身体を貫くなんて……」
アトゥは左手で自らの口を覆う。
この台詞からしてナミハナが俺達相手に大暴れした場面だろう。
「アトゥ、この世界の人間は強い。俺や君が居た世界の人間とは比べ物にならない」
「…………」
アトゥは不機嫌そうな表情で俺を睨んでいる。
このまま下手に出て宥めても良いかもしれない。
だが、それでは何時こいつが調子に乗るか分からない。
こいつを仲間にする必要は有るが、その前にこいつの気位を一度折らねばならない。
「決めかねているんだな? じゃあもう一つ教えてやる。俺はお前に提示された選択肢では絶対に絶望しない。どちらの選択を選ぶにしてもチクタクマンに俺の記憶をデータ化して奪ってもらえば良いんだからな。俺は大切なものを失うが苦しむことも悲しむこともない。そしてお前は飢えて死ぬ」
「――――――あっ」
アトゥは思わず小さな声を漏らしてしまった。
これでチェックメイト。
人として、神としてのキャラクターを強く持っているからこそ思考が俺達人間の常識に強く囚われている。
それに自分と同格の神が居るせいで無理な力押しもできない。
だったら裏を掻くことも難しくはない。
「あ、あ、あんた人間に有るまじき事を言うのね!?」
「俺の身体は殆どが義体だ。もう機械やら人間やら俺にも分からないんだ」
「減らず口を……!」
「こいつは不味いよなあ? 折角手に入れる筈だった蜜の味も消え失せて、すぐにお前の城には敵が大挙して訪れる。そしてお前を守る者は居ない」
「面白いことを思いつくじゃないかサスケ、ならば矢張り私を切り捨ててあの少女を優先すべきだ。ギルドを動かすにあたってはそれが最も都合が良い」
「ぎ、ぎるど? なにそれ、ちょっと、ちょっと待ってそこまでまだ記憶を読んでない!」
「異世界に飛ばされておいて情報調査を怠ったのがお前のミスだ。お前の思いついた悪趣味な究極の選択とやらはまっったくもって無意味だ!」
「そ、そんな……」
俺は皮肉たっぷりの笑みを浮かべて少女に問いかける。
「選べよアトゥ、如何にお前が滅ぼされるかを……さ」
アトゥが明らかに動揺を始める。
「だ、だったら今ここで貴方を叩き潰すわ!」
「チクタクマンが黙っていると思うなよ」
「ザッツライト! アトゥ、君と私の力は互角だ。サスケが倒れたとしてもそれは変わらない。無益な潰し合いをしたいなら受けて立つぞ。言っておくが今日の私は不機嫌だ!」
「だそうだ。どうする?」
「あ、ああ……」
「どうする?」
「我輩……知らない、アトゥ知らない……アトゥはこんなの知らないしどうにもできないもん……」
「 ど う す る ? 」
「……知らない、知らない、しらない、シラナイ……あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
アトゥは頭を抱えてその場に蹲る。
自分が追いつめられることには慣れていないのだろう。
ところでちょっと年上の貧乳お姉さんが子供みたいに駄々こねながら蹲るのってめっちゃ興奮するね。
服の隙間からこう、大事なところが見えそうで見えないのが最高。
「やだ……アトゥはここで幸せに皆の嘆きを食べてただけなのに……」
物理的な状況は何も変わっていない。
変わったのは精神的な主導権のみ。
ここでもう一度俺は飴を渡す。
「なあ、アトゥ。俺は君と仲良くなれると思うんだ。ほら、別の世界から来た者同士だろ? お互い恨みは捨てて、友達になろう?」
アトゥは顔を上げて俺の方を見る。
そしてそのままゆっくりと後ずさる。
泣きそうな顔をしていた。
そりゃそうだ。一度断った誘いに乗るだなんて神のプライドが許さない筈だ。
しかしそのプライドこそ、俺が叩き折ろうと考えたものだ。
――――今から俺は、神を殺す。
「俺だって許せない気持ちは有る。君だって同じだ。でもこのままじゃ共倒れだ。それだったら許し合って手を取り合う方が幾らか素敵だよ」
「こ、来ないで……」
そもそも縛り付けられて動けないので安心して欲しい。
「いいや、今の俺には君を放っておけない。だってもうすぐここにはエクサスで武装した人間が大挙して押し寄せる。君がどれだけ抵抗したところで、君の幸せな毎日は終わる。そうなれば俺が恨まれ、また君と戦うことになる」
アトゥは瞳を閉じて顔を伏せる。
「やだ……やだ……うぅうぅぅ……アトゥはやだもん」
「頼む。神様だろう? 俺を、俺達を許してくれ、助けてくれ。俺もお前を助ける」
「たすける……?」
「異世界から飛ばされた者同士、仲良く助け合ってもいいだろう?」
「…………」
暫くの間沈黙が有った。
「…………あはは」
アトゥは力なく笑った後、一つため息を吐いて立ち上がる。
先ほどまで見せていた迷子のような怯えはもう何処にもない。
「分かったわ。アトゥの……我輩の負けよ、サスケちゃん。貴方の提案に乗るのも愚かしいけど、蹴るのはもっと愚かしいもの」
「ちゃ……ん?」
「最初から言っていたでしょう。気に入ったと。じゃなきゃもっと早く殺してたのに……」
気に入ったから俺をイジメ抜いたのか……?
難儀な性格してやがる。
「成る程、お互いに幸運だったみたいだな」
「そうね。チクタクマンには勿体無い。本当に気に入ったわ。だから最後は神様キャラらしく、素直に負けを認めて貴方の蛮勇を讃えてあげる」
キャラ?
いや、まあ其処は突っ込んだら負けだな。うん。
「いいや、勝ちとか負けとかそういうことじゃないよ。この場に負けた者なんて居ないんだ」
「……そう、そうね。じゃあ契約をしましょう。アトゥは、我輩は神だもの。約束は守らないと」
「それはつまり……」
アトゥは顔を上げる。
瞳を閉じて薄く微笑む。
最初に現れた時と同じ、美しき黒髪の女神の姿を取り戻していた。
そこにはもう、自分の知らない世界に怯え戸惑う幼い暴君は居ない。
「ええ、我輩は貴方に従います」
「一緒に来てくれるのか。ありがとう……!」
「さあ目を瞑りなさい。今離してあげます」
言われた通りに目を瞑る。
するとすぐに何か柔らかいものが口に触れた。
……え?
眼を開けると細く眼を開けて艶っぽい笑みを浮かべたアトゥが居た。
「女神のご褒美よ」
「……えー?」
「あら、嫌だった?」
「…………」
悪くない。
天国の父さん、母さん。
どうやら僕のオトコノコノハジメテは邪神に奪われたようです。
不可抗力だ。不可抗力なんだけど……柔らかくて良い香りがしたなあ……。
「アトゥ! 貴様、サスケに変なことをするんじゃない!」
熱い。
顔が赤くなっているのが分かる。
だが、その、悪くない。
ごめんなさい嬉しいですごめんなさい! 俺は最低かもしれないけどでも嬉しいんですよ! それを分かって下さいごめんなさい!
「キャハハハ! 変なことじゃないわぁ? 素敵なことよ!」
「言わんこっちゃないぞサスケ! やはりこんな邪神を味方にするなど正気の沙汰ではない! 今からでもケイオスハウルを呼んでこの女を叩き潰そう!」
「それは悪くないが神様相手に嘘を吐くのは後が怖い。こいつなんだかんだ俺に嘘吐いてないし……」
「サスケ、今君はテンションが上がっているのを理屈でごまかそうとしているね?」
「……クッ!」
「うめいても無駄だ! 君の行動パターンは……サスケ?」
心臓がバクバクと音を立て、急に視界が暗くなる。
「あらぁ? もう効いてきたかしら」
あれ? 何かされてた!?
人生初のチューに気を取られている間に!
その間に!!!
「アトゥ! 貴様契約を違えるつもりか!」
「我輩は契約を破らないわ。貴方と同じで言わないことがあるだけよ」
「貴様と一緒にするなー!」
いや、似た者同士だと思うよ?
「サスケ! サスケ! 目を覚ませ、サスケ……」
チクタクマンの声が遠くなっていく。
身体の奥が熱い。
俺は何かを思い出そうとしている。
瞼の裏に映るのは始まりの夜。
俺がミ=ゴ達に連れ去られたあの時の記憶。
俺はまだ生きていた。
俺は手術台に乗せられて、俺は、生きたまま―――――
「やっ、やめろ! 来るな! 俺は――――!」
最悪の記憶が蘇る。
あいつらはもう潰した筈なのに、身体がすくみ、心が萎えていく。
助けてくれ。誰でも良い。怖い。俺は何の力も無かったんだ。
助けて、父さん、マロン、助けてくれ!
「我輩の名はアトゥ、人の嘆きと血肉を糧とする常若の神なり。汝の絶望、嘆き、迸る命の叫びを対価とし、我がの溢れる命の力と慈愛を授けようぞ!」
視界が光に包まれていく。
先ほどまであんなに感じていた筈の恐怖が嘘のようだ。
「サスケちゃん、もう怯えることは無いわ。痛かったのも、辛かったのも、アトゥだけは見ていてあげる。その嘆きを陽の光に変え、その涙を雨粒に変え、アトゥは貴方の心に根を張り花を咲かせましょう」
優しい声がした。
「アトゥ……?」
眼を開けると、俺は元の病院の中に居た。
四肢を拘束する樹木は消えている。
アトゥの姿も無い。
「サスケ! 大丈夫か!」
左腕の妖神ウォッチを見る。
黒革のバンドには蔦を模した金の刺繍が縫い込まれていた。
なんとなくアトゥの気配がまだ残っている。
「ああ、俺は……アトゥは? アトゥはどうした?」
「そんなことより安全の為に私が封印していた君の記憶が解放されている! なんともないのかサスケ!?」
「え? あ、ああ……覚えてるけど、もう怖くない。怖くないんだ……」
「そうか……アトゥの力か」
「力?」
「人の痛みに共感し、それを引き受ける力だよ。追い詰められた人間であればあるほどその利益は増し、彼女は狂信者を増やす」
「……ああ、だから奴隷に信者が多かったのか」
左腕の妖神ウォッチから小さなアトゥの姿が浮かび上がる。
ホログラムか?
「ふふ、本当に人の心がわからないのねチクタクマン」
ホログラムのアトゥは嬉しそうにチクタクマンをからかう。
「アトゥ、君に言われると実に不快だ!」
「我輩は分かっててやってるのよ?」
「だから不快だと言っている!」
「まあ怖い」
何はともあれ助かったらしい。
一先ずナミハナに連絡を入れて、島に帰ろう。
「それはさておき地図はどうなっている?」
「アトゥと一部の記憶を共有した。彼女も何故か協力的でね。この病院の内部構造に関しては概ね理解できたと言って良い」
「勿論じゃない。我輩、サスケちゃんの使い魔だもの」
「ありがたい、ならばすぐに帰れるな」
「ああ、ナミハナに連絡を入れておくと良い」
「全くだな。あまり連絡を途切れさせていると心配される」
「我輩どうしてればいい?」
「そうだな、とりあえず状況が落ち着くまでは姿を潜めていてくれ。どこでギルドの目が有るか分からないからな」
「分かったわ。仰せのままに」
かくて俺達はケイオスハウルへ歩き出す。
初仕事の結果は上々。
そして、人間と神が手を組むことだってできる。
アトゥのことだけじゃない。チクタクマンが俺のことを対等の仲間として見ていたのを俺は知らなかった。
それが改めて分かったのが実はとても嬉しかった。
しかし、契約……?
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