第2話 唸れ! 夢幻侵食!

 眼前には武装したミ=ゴの群れ。

 だが恐れることはない。

 今の俺にはケイオスハウルが有るのだから。


「うおらぁっ!」


 武装したミ=ゴの群れに飛び込むと同時に大きく腕を振り回す。

 すると右拳が射出され、鎖付きのハンマーのように変形した。

 変形――変形!?


「なんだこれ!?」

「ケイオスハウルの機能の一つだ! 君達の文化を参考に付加したんだぞ。面白いだろう?」

「面白い……?」


 ミ=ゴ達のある者は拳と腕を繋ぐワイヤーに巻き込まれ身体を引きちぎられ、ある者は拳に叩き潰された。比較的固い殻とやわらかな中身の触感のコントラストに吐き気を催す。

 だがにそれを気にする暇はない。

 まだ敵は居る。戦い続けないといけない。

 戦わなければいけないのだが……問題が起きた。


「チクタクマン、あれを戻してくれ!」


 ワイヤーで射出された右の拳が戻ってこないのだ。


「戻せないのか?」

「分からない! 右手の感覚が無いんだ!」

「成る程、右腕だけが自由に飛び回るという状況に君のイマジネーションが追いついていないようだ。私が補おう」

 

 右拳がワイヤーの巻取りで戻ってくるとまた俺の右手の感覚が戻ってくる。


「ギミックは抑えてくれ、多分だけど俺じゃまだ使いこなせない物のほうが多い」

「オーケー! こういった機能は君の成長まで封印しよう」

「じゃあ続きといくか!」


 ケイオスハウルは全身から激しく蒸気を吹き出す。


「キィ! キィ!」


 ミ=ゴ達が叫んでいる。何かを呼んでいるのか? それとも……。


「こっちだって生きるか死ぬか! 恨んでくれるなよ!」


 並み居るミ=ゴを殴り飛ばし、倒れたものはホバークラフト部のスクリューで引き裂き、立ち塞がるものは質量に任せて撥ね飛ばした。

 奴らの冷凍ガスも、訳の分からない光線も、ケイオスハウルの鋼の身体の前には無駄な抵抗でしか無い。

 正しく鉄の城。これぞ動く要塞。蹂躙する鋼の台風。

 こんなことを思うのは間違っている筈だけど、最高だ。


「さて、もう終わりか?」


 俺は辺りを見回す。

 格納庫に殺到していたミ=ゴの姿はもう無い。

 しかし俺が虐殺に熱中している間に格納庫には隔壁が降ろされていた。

 さっき何か叫んでいたのはこれか?


「ここの生命反応は消えてしまったね。だがまだ終わりではないだろう?」

「だな……」


 きっと、この船に居る戦えるミ=ゴは今ので多くが死んだに違いない。

 残りは多分……非戦闘員。

 それを考えると化物相手でも気が引けた。


「どうしたんだ? 随分クールダウンしているじゃないか」

「まあな……賢者モードっていうか……むなしいなあこれ。復讐ってのは本当に」

「賢者? 君も魔術が使えたのか」

「いや違う。なんでもない忘れてくれ」


 ここから先の戦いは正直気が進まない。

 死んだ家族は帰ってこないし、やっているのはもはや只の弱い者いじめだ。

 こういう時、親父ならどうするだろう。

 親父は常に理詰めで物を考えていた。

 そういう親父のことを俺は尊敬していた。

 親父ならきっとこう考える。

 今やっていることを面白いとは思わないが生き残りに復讐されると困る。

 この船に乗っている奴は可能な限り皆殺しにすべきだ。

 うん、そうだ。

 嫌だけどやらないと。考えてみれば学校の勉強と大差無い。どこに行ってもそういうのは一緒か。


「さてチクタクマン、閉じ込められたけどどうすればいい?」

「其処の隔壁を殴ってみるんだ。私の力を見せよう」


 もはや俺の腕と化したケイオスハウルの腕が宇宙船の隔壁を殴りつける。

 ケイオスハウルの拳が触れた瞬間、隔壁が小さな螺子と歯車に変化して粉々に砕け散った。


「うわ……なんだこれ?」


 中からは戦闘機にでも搭載されていそうなガトリングガンが突然現れる。

 戸惑っているとケイオスハウルの右腕から俺の意思と無関係にコードが伸びてガトリングガンに接続された。


「ケイオスハウルは機械であると同時に邪神でも有る。触れた金属を部品に変換することも難しくは無い」

「随分便利だな。神様の力って奴か」

「ザッツライト! その通りだ」


 成る程。ミ=ゴに簡単に物理攻撃が通る理由もそれか? 純粋な物理的エネルギーの大きさで押しつぶしている側面も有るのだろうが、確かにニャルラトホテプ程の神格の放つ一撃であればいかなる神話生物の科学技術的装甲も魔術的防護も関係無い。


「だが人前ではあまり派手に使えないことは覚えていてくれ」

「分かった。邪神の力ってバレてしまうんだろう?」

「ザッツライト、残念ながら『ピキー、僕は悪い邪神じゃないよ!』と言っても誰も信じてくれないんだ」


 お前がスライムってタマかよ。


「俺を活動のための協力者として選んだのは自分が人間の姿をとるよりも合理的だと考えたからだろう?」

「ところでサスケ、話している暇が有ったら前を見給え」


 カンコンと甲高い音が響く。

 胸のあたりがむず痒い。

 これは撃たれているのか。

 チクタクマンに言われる通り前を見ると粘液性のスーツを甲殻の上から着込んだミ=ゴが大砲のような物を構えていた。


「なんだ、まだ居たのか。すっきり殺せる連中が!」


 巨大な弾頭を左腕で防いで、右腕のガトリングを構える。


「こいつ使ってもいいか?」

「オフコース! やってみたまえ!」


 左腕が少し冷たい。冷凍ガス弾頭の携行バズーカかだったのか?

 だとしてもあまりにも悲惨な火力だ。所詮対人戦闘しか想定していなかった連中にはこれくらいしかできないのか。

 右手に少し力を入れて引き金を引くイメージをするとケイオスハウルの右腕のガトリングから爆音を上げて弾が垂れ流される。

 質量、速度、数。

 実にプリミティブな暴力の顕現だが、プリミティブであるからこそ強い。

 彼らの甲殻や粘液性のスーツを数と速度と質量の暴力で押しつぶし、文字通り一掃する。本来こういうの効かない筈なんだけどすごいね神の加護。

 それにしても人間のように泣かないし、仮に泣いたり喚いたりしていたとしても俺には理解できないから本当に楽だ。

 ただそれは仇討をする意味の無い相手ということでもあるけど。


「もう武装した連中は居ないだろう?」

「ああ、兵士役のミ=ゴはもう残っていない筈だ。残った研究役や幼体のミ=ゴが抵抗しないとは限らないが……」

「そんなのは見つけてから考える。それより次は何処に行けば良い?」

「何処に行きたい?」


 考える。

 俺のやりたいこと。

 やっぱり化け物共を皆殺しにすることじゃない。

 人間を舐めるとどうなるかはあいつらも思い知ったに違いない。

 ――――だから。


「俺みたいに缶詰にされている人が居る筈だよな。彼らを助けることはできないか?」

「……ほう、見知らぬ人間を助けたいのか?」

「勿論」


 俺の名前はそういう人間になれと両親がくれた名前だ。


「興味が湧いた。理由を教えてくれるなら助けよう」

「俺があいつらに殺された時は凄く悔しくて凄く悲しかった。同じ思いをした人が居るのならば助けたい」

「人間が言うところの共感能力というものか。私達には無い能力だ。良いだろう、共感能力のサンプルを取るために協力しようじゃないか」

「感謝するよチクタクマン」

「話はここの敵を全て片付けてからだ。生体反応がまだ近くにあるぞ!」

「了解だ! ケイオスハウル出撃する! 敵性存在を排除しつつ生存者の救助にあたる!」


 よし、これで良い。

 さっきよりも少しだけやる気が出た。

 これで只の弱い者いじめじゃない。

 胸を張って化物を殺せそうだ。


 *****


 数回の戦闘の後、俺達は無事に目的地に辿り着いた。 

 目の前に並ぶ缶、缶、缶。

 金属製の缶がコードによって繋がれて、壁一面に並べられた部屋。

 ここの天井も高く、なんとかエクサスで入れた。

 元々エクサスで作業できるように宇宙船が大きめに作ってあるのだろう。

 しかしこの缶の全てが人間の脳味噌かと思うと気が狂いそうになる。

 先ほどまで見た化物の死体は平気だったのに、やっぱり人間は駄目みたいだ。


「どうだ? 助けられそうか?」


 吐きそうな所をこらえながら俺はチクタクマンに尋ねる。


「ああ、これは私の眷属に運ばせよう。肉体を用意する目処が立ったら元の時間軸に送る」

「ありがとう。ところでここに親父の脳が有ったりしないかな……」

「サスケの父上か? 済まないがそれと思しき生体反応は無い。おそらく別の船で運ばれているのだろう」

「…………そうか」

「君は父上も助けたいのかい?」

「勿論だ! 俺の大事な家族だぞ!」

「そうか、そう思うのか。オーケー、ならば君が私の任務を無事成功させてくれた時には君の父上の救出に協力しよう」

「良いのか? 思ったよりも親切だなお前……」


 こいつ、案外良い奴だな。

 ニャルラトホテプなんて言うからにはもっと意地が悪いと思っていたが。

 これから俺が信頼したところで裏切るつもりなのか?


「私は神だ。救出自体は難しくない。君のモチベーションを保つ為に人質を取っただけさ」

「人質ね、まあ元々どうしようもなかったことを考えれば随分とマシだ」

「サスケ、君は随分お人好しだな」

「だってほら、疑うより信じた方が気分が良いだろう?」

「好奇心から聞かせて欲しいんだが、もし裏切られたら?」

「それは――」


 その時だった。

 宇宙船が大きく揺れる。


「不味いぞサスケ」

「どうした?」

「この宇宙船の内燃機関がオーバーロードしている。君が暴れすぎたせいで緊急時の外的排除システムが起動したんだ」

「オーバーロードー?」

「要するに自爆だ。制御不能になっている以上、このままだとアズライトスフィアの世界に墜落することになる」

「ああ……どうすればいい?」

「機関室を制圧してケイオスハウルと機関室を融合させ、この船を実質的に支配すれば良い」


 成る程、墜落は困る。

 そんなことになれば此処にある人間の脳が入った缶は一環の終わりだ。

 それを避ける為には機関室まで押し入ってもしかしたら居るかもしれないミ=ゴの生き残りを始末して制圧しなくちゃいけない。

 しかもそれまでの過程で罠が仕掛けられている可能性も有る。

 この脳缶ルームまでは不意打ちで快進撃を続けられたが、これがその先続くとも限らない。


「だがそれまでにどれだけの時間がかかる? その間に脳缶に何か有ったらどうする?」

「不明だな。生体反応はまだいくらか残っている」

「敵の殲滅を優先すべきだったな」


 俺が敵を殺すことに嫌悪感を覚えてしまったせいか。

 殺された癖に甘いな俺。

 でも復讐に燃えるってキャラじゃないし、俺。


「サスケ、過ぎたことをどうこう言うのは非合理的だ」


 親父みたいな事を言ってくれるね。

 だがそういうのは嫌いじゃない。


「分かった。脳缶を守る為に俺達はこの部屋の占拠を続ける。チクタクマン、お前の眷属を呼んで一つでも多くの脳缶を運びだしてくれ」

「サスケ、君は見ず知らずの他人の為に犠牲になるつもりなのかい?」


 思わず吹き出した。

 邪神のくせにこいつは何を言っているんだ。

 何故俺が犠牲にならなきゃいけないんだ。

 というか、俺が犠牲になったら誰が皆を助けられるんだ。


「そんな訳無いだろう? チクタクマン、手近にある機械を片っ端から装甲にすれば俺達は墜落に耐えられるよな?」

「私の計算によれば可能だ」

「だったら眷属とやらを呼んでこの缶を片っ端から運んでくれ。墜落までに全ての缶を運べるよな?」

「それも可能だね。私が魔術で補助をすれば、という前提条件は有るが」

「完璧だ。これは俺の推測なんだけど現在墜落中ということは既にこの宇宙船は地球の重力に引かれて落ちているんだよな?」

「その質問の答えはイエスだ。アズライトスフィアにおける地球の重力に引かれ、宇宙船は落下し続けている」

「ならばとっくにアズライトスフィアの地球人に俺達の存在は感知されている筈だ。妙な動きをしたら撃ち落とされる可能性が有ると見た」

「確かにその可能性は有るが……」

「そうなるとむしろこの船は堕ちてしまった方が良い。というかぶっ壊れちまえこんな船。ざまーみろだ」

「ふふ……人の命が最優先だから復讐を忘れるって訳でもないのか」

「復讐って訳じゃないけど、まあミ=ゴが酷い目に遭うならそっちの方が気分が良い。人間ってのも大概混沌なのかもな」

「はっはっは! 確かにそうだな! 実に愚かだが見ている分には嫌いじゃない! 少し待っていろ、今からゲートを作る」


 チクタクマンがそう言うと部屋の床に五芒の星を描いた魔法陣が輝く。

 魔法陣の中からはゴム質の皮膚と悪魔のような翼を持った人型の怪物が現れる。

 夜鬼、ナイトゴーントだ。彼等は一般的なニャルラトホテプの使い魔である。

 チクタクマンが指示すると彼等は一列に並んで脳缶を運び始めた。

 脳缶は瞬く間に魔法陣の中に吸い込まれて消えていく。

 宇宙船の振動はますます大きくなっていく。

 俺は目の前の人々の無事を大人しく祈ることしかできなかった。


 *****


 人間の脳缶を救出する作業も終盤に差し掛かった頃、チクタクマンが俺に囁いた。


「サスケ、生体反応が近づいてきた」

「ミ=ゴか?」

「どうやらそのようだ。我々の目的に気づいたらしい」


 どのみち脳缶はもうすぐ運び終わる。

 俺は部屋を飛び出して扉を塞ぐように立ち塞がる。

 

「おいおい大物だな。ついにロボット同士の戦いか」


 部屋の前に在る廊下に両側から飛び出してきたのは俺達と同じエクサスだ。

 あれにも人間が乗っているのか?


「なに! 人間以外もエクサスを扱えるのか! てっきり捕まえた人間を乗せるために開発をしていたのだと……」


 人間じゃないのか?


「どういうことだチクタクマン?」

「良いかね、エクサスというのはそもそも人間が……」


 チクタクマンの長い解説の間に相手のエクサスは距離を詰めてきている。話を聞いている場合じゃない。


「ああ待て! 来てる! 来てるこっち! どうするチクタクマン!」

「君が考え給え! そういうの得意そうだろう!」

「ええっと……」


 観察を開始する。

 二台とも盾を構えて突撃し、俺達を押しつぶすつもりらしい。

 俺を挟み撃ちにでもしたつもりなのか?

 こんな戦い方をしたら味方を傷つけるかもしれないじゃないか。馬鹿だな。

 多少頭は良いみたいだけど、人間に比べるとやっぱり戦うのは苦手みたいだ。


「そうだな、まず敵の数を減らそう」

「良いアイディアだね!」


 俺の右側から来たミ=ゴのエクサスに向けてガトリングを斉射する。

 弾丸は盾やミ=ゴのエクサスの装甲を凹ませこそするが、決定的な打撃にはならない。 


「駄目だった」

「駄目だったか」

「何か他に手は無いか? というか有るだろ、隠された奥の手みたいなの」

「オフコース、有るともさ。我が霊妙神秘なる斬魔機皇に隙は無い。出てこい吼響剣ハウリングエッジ!」


 ケイオスハウルの胸部装甲に刻まれた時計のマークが輝いて中から一本の剣が現れる。

 俺は胸から引き抜いた剣を構えた。

 すると剣の表面が甲高い音を立てて震え始める。

 高周波ブレードという奴か。


「――叫べ! これぞ我が魔術と機巧の極致!」


 その瞬間、確かにチクタクマンの意志が伝わった。

 それに合わせて俺は剣を振りぬく。

 叫ぶべき文言は頭の中で勝手に浮かんでくる。

 極限まで濃縮された詠唱、神の言葉とでも言うべき魔術は只其の一節を以て完成する。


「「夢幻侵食ドリームオブワイヤーズ!」」


 俺とチクタクマンの声が重なる。

 魔術の詠唱になっているのか、叫びを上げたその瞬間だけ俺達の身体は一層疾く動いた。

 まるで近づいてくるミ=ゴのエクサスがスローモーションで動いているみたいだ。

 ホバークラフトのような脚部を活かしてその場で一回転。

 迫ってきた二体のエクサスを盾ごと一刀両断にする。

 残骸は慣性に従って俺達の脇をすり抜けて吹き飛んでいき、廊下の両側で後から螺子と歯車に変換されて崩れ落ちる。


「まあ今の私ならばこんなものだね」

「全力じゃないのか?」

「こちらにも事情が有ってね。ところでこの船に残っていた生体反応は全てだ。敵は全滅、コングラッチュレーション!」

「そいつは何よりだ。死なずに済んだか……全滅ね」

「どうしたんだい?」

「あのエクサスに乗っていた連中って、仲間の仇でも討ちに来たんじゃないかなと思っただけさ」

「君が気に病むことはないよ。やらなければやられていたのだからね」


 化物でさえこんなに心が痛むなんて。

 しかも家族の仇の筈なのに……。

 多分だけど、俺には人は殺せない。

 今はっきりと分かった。

 仮に殺してしまったとしても、それは己の意志によるものでなく過失として殺してしまうに違いない。

 真っ当だけど、情けないものだ。


「分かっているさ。チクタクマン、脱出用の増加装甲を作ってくれ。もうすぐ墜落だろう?」

「オーケー、すぐに用意しよう。地上に墜落した後は近くの海岸になんとか辿り着くとしようか」

「適当な計画だな……」

「知らない星で細かな計画なんてできるものか。だがなんだか出来そうな気がしないか?」

「そうだな、お前とだったらそんな気がするよチクタクマン」

「サンキューソーマッチ、君にそう言ってもらえることを嬉しく思うよ。我々は良いパートナーになれる!」

「だと良いな、俺もそっちの方が良い」


 調子の良い奴め。

 そう思うものの、俺もなんだかこいつのことが嫌いになれなくなっていた。


「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。では早速脱出用のポッドを作るとしよう」


 チクタクマンは衝撃に耐えるべく薄い球状の装甲を幾重も展開して機体を包み始める。

 あっという間に視界を塞がれて何も見えなくなってしまった。これがチクタクマンの言うところの脱出用ポッドなのか。


「…………」


 忙しそうに呪文を詠唱するチクタクマンとくらべて俺は暇だ。

 聞いているだけで頭が痛くなってくる呪文に我慢をしながらどれだけ待っていただろう。


「飛び出すぞ!」

「え!?」


 真っ暗な視界の中で今までの振動とは異なる衝撃が俺達を襲った。


「さーきーにー言ーえーよー!!」


 ポッドが浮かび上がる。バウンドしている。

 それから数秒経ってもう一度衝撃が俺達を襲う。

 今度こそ着水したみたいだ。

 今更だが自分が機械の身体になっているのだと噛み締めさせられた。そうでもなきゃこんな衝撃には耐えられない。


「着いたのか?」

「ああ、無事到着だ」


 邪神が言うところの無事という言葉の定義について何時か詳しく聞いてみたいものだ。


「そうか……じゃあさっさとこのポッドから出て適当な島に潜り込もう」

「ウェイトアミニット! 少し待てサスケ、高熱源反応がこちらに急速に接近している!」

「なに?」

「不味いぞ、このままでは――――ッ!」


 チクタクマンの台詞を遮るように即製の脱出ポッドに穴が空き俺達の視界に光が差し込んだ。

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