あとがき

 ハイキングに行こうを読了していただき、本当にありがとうございます。


 本作のコンセプトは、『ハートフル・サイコホラー』です。いわゆる貼りぼてお化けで怖がらせる話だと、怪異の描写力が厳しく問われますし、気味悪い系のサイコホラーは読後感が極めてよろしくない。読み終わった時の印象に、怖さと暖かさが両方残る筋立てというのは難しいなーと、個人的に思ってました。なので、へそ曲がりのわたしはあえて二兎を追うストーリーを考えてみたわけです。


 本当なら、それぞれの人物像をもっとしっかり掘り下げて描写した方が味わいが出るんでしょう。それでもざっくりと流れは出来たので、ダイジェストとしてならこれはこれでいいかな、と。


◇ ◇ ◇


 ホラーと言っても、ちいとも怖くないかもしれませんね。でんでろでんでろの化け物、幽霊が、これでもかと何かやらかすという話ではないですし。サイコホラーとしても、狂気の描き方はあっさりめ。でも、それはたまたまサイコロがうまく転がった結果なんです。


 成島のおっちゃんが彼女らに声を掛けなければ、思い詰めていた佑実の計画は実行されていたでしょう。鏡の中で、誰かが自分を見つめ切れずに後ろを向いてしまえば、ぞんびぃな泰子さんがおっちゃんの浅はかさを責めながらずぶずぶと腐っていたかもしれません。菊香たちが夜におっちゃんを訪ねなければ、泰子さんは溜息をつきながら家事をし続けたことでしょう。やがて来る破滅の日まで。


 そう。どこか一つでも歯車が狂えば、全ては崩壊していたんです。


◇ ◇ ◇


 しょせん、お話の世界……本当に、そうでしょうか?


 誰もが持っている心の弱さ。それが絡み合う事によって膨れ上がる悲劇。それはホラーでもなんでもなく、現実に毎日起こっています。新聞を見れば、ニュースを聞けば。すぐに分かること。それは、いつでもわたしたちの傍らにあることなんです。わたしたちがその事実から目を背けているだけ。

 でも自分の心を素直に見つめ、自分をリセットすることで、悲劇は未然に防ぐことができます。


 だから。みなさんも、どうぞハイキングにお出かけください。煩わしいことを忘れて、山のおいしい空気を胸いっぱい吸って、花や鳥を見て癒されて、渓流のせせらぎの音を聞いて心を落ち着けて。きっと……新しい自分が見つかると思いますよ。



  もうすぐ来る春。

  みなさんが、その恵みを無心に楽しめますように。

                  成島泰子 より


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