十二章 短い夜

短い夜 01

 ゴルカッソスが消滅したスタジアムの中、俺達はサスライに傍に駆け寄った。


「……サスライ、大丈夫か?」


 心配する俺の声に抗うように、サスライはその身を起こそうとする。しかし、本当に体力を使い果たしてしまったらしく、直ぐにその場にぺたんと座り込んでしまった。


「おいおい、無理をするな」


「ごめんねヤヨイちゃん。私ってば本当に魔力使い果たしちゃって、暫く回復魔法使えないの……」


 立てないサスライを心配し、申し訳無さそうにツキコが声をかけた。


「気にしないで、あまり人の世話にはなりたくないの。それより……最後の矢、良かったわ」


 意外にも褒められてしまったツキコは、少しきょとんとした後で。


「えへへへへー」


 といつものような笑顔を零した。

 俺はサスライに、観客席での戦いがどうなったのかを尋ねる。


「サスライ、あの悪い魔法少女達はどうなったんだ?」


 俺の質問を聞いたサスライは、顎で観客席側を指した。俺達が視線を移した先では、背の高い女の子と、背の低い女の子が観客席で横になって倒れている。そして、二人の女の子の周囲には防護フィールドが張られていた。


「……おいおい。本当に……一人で倒してしまったのか……?」


「ええ。一人は凄い勢いで逃げちゃったけど。あの子達、銃とか爆弾とか使うから、大分観客席が壊れちゃったわ……」


 そう言った後でサスライは、自分に向けられたキラキラとした三つの視線に気づく。


「はわわわわー」

「かっこいいっ」

「……凄い……」


 慣れない眼差しに、サスライは困惑した様子で。


「…………なによ……?」


 と呟く。

 その直後――――。


「ヤヨイちゃーん!」

「ヤヨイせんぱーいっ!」


 と叫びながら、ツキコとヒナタが彼女に抱きついた。二人にスリスリモフモフされながら、サスライはキョトンとした表情を見せている。


「……なんなの……?」


 戸惑う彼女に、そっと俺は教えてやった。


「みんな、サスライの事を尊敬してるんだよ」


 俺の言葉の意味が直ぐには理解出来ないのか、サスライは呆然としながら呟いた。


「……尊敬…………私が……?」


 そんなサスライに向けて、クウも好意的な言葉を送る。


「ええ。私も、少しは貴方の力になれたみたいで良かったわ」


「…………」


 サスライは無表情なまま暫く、深く何かを考え込んでいるようだった。




「それで、サスライはこれからどうするんだ?」


「……そうね。ゴルカッソス撃破を知って他のユニットが来るかもしれないから、まずはここを離れたいわ」


 サスライの言葉を聞いて俺はゾッとした。こんな状況で他の魔法少女と戦ったら、それこそ全滅ものではないか。


「ふむ、そりゃまずいな……。その後は?」


「その後は……その辺で少し休んでから、明け方になったら帰るわ」


「おいおい、その辺って……夜中に女の子が一人じゃ危ねぇだろ?」


「……何それ、冗談?」


 俺が肩をすくめていると、ツキコが元気そうに手を上げた。



「はーい。はいはーいっ。みんな聞いてくださーいっ!」



 無邪気に手を上げるツキコの方を、皆が不思議そうな表情で見つめている。


「そこでツキコちゃんにー、いい考えがありまーす」


 そう言った後でツキコは、何やら聞き覚えのある提案をした。


「あのねー。今日はー、ツキコちゃんの家でお泊り会をしましょー」


 ツキコの提案に、皆が目を丸くした。

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