ゴルカッソス攻略戦 07
既に俺から離れて立ち上がっていたクウが、疲弊したサスライの様子を見かねてゴルカッソスの方へと走り出そうとした。
「私が先に行くわっ」
ツキコもサスライを回復させようと弓を構える。
「ヤヨイちゃんっ! 私の最後の魔力を使って回復するねっ!」
そう言って構えようとするツキコを、サスライは激しい口調で制止した。
「――回復なんかにっ、最後の魔力を使わないでっっ!」
その声に、全員が動きを止める。
「今の私じゃ、動きの早い噛み付きタイプの首は撃破出来ないのっ! だからっ、私が先に行ってもう一つの首を撃破しなきゃ駄目なのっ!」
そう言い放ったサスライは、ゴルカッソスへ向けて真っ直ぐに走り出した。しかし、体勢が低くなっているとはいえ、地上から直接ゴルカッソスの首に近接攻撃を加えるのは不可能だ。
幾らサスライの身体能力が高くても、普通にジャンプして届くような高さではない。皆が彼女の言葉と行動に混乱していると、サスライはただ一言。
「月子っ、私を撃ちなさい!」
と叫んだ。
言葉の意味が理解出来ない俺は、ツキコの方へと視線を移す。するとツキコは既に真顔になっており、本当に言われた通りにサスライの背中に狙いを定めて弓を引き絞っていた。ツキコが纏う光のテンションから察するに、それは決して回復魔法なんかではない。
振り返りもせずにサスライは地面を蹴り、カラスが飛び立つように大きくジャンプした。
無理だ。
届くはずが無い。
俺が予想した通り、サスライの体はゴルカッソスのお腹程度の高さで勢いを失ってしまう。しかし、その時だった――。
月子の弓から、光弾が撃ち放たれたのだ。その光の矢は空中で留まるサスライの背中へ、下から抉るように直撃し。
『バシュゥゥンッッッ!』
激しい衝撃音と共に彼女の体を――――――上方へと弾き飛ばした。
弾かれたサスライは、口元を大きく歪めて言葉を漏らす。
「……上出来よ」
動きを止めているもう一つの首、ブレス攻撃が得意な首を目の前にして、サスライは『名刀恋心』に手をかける。そして、静かに呟く。
「宵の辻風」
一瞬だけ、まるで瞬きをした時のようにサスライの周囲が暗くなった気がしたが、サスライの体は放物線を描き、そのまま空中を折り返して落下を始めた。その姿は刀に手を掛けてはいるものの、まるで糸の切れた操り人形のようであり、とても受身を取る体力が残っていないようには見えない。
こんな高さから体力も無く、無防備なまま地面に激突すれば、幾ら魔法少女とはいえ命に関わってしまうだろう。
しかし、サスライの体が地面に激突する直前――――。
『ガバッッ』
赤い影が、彼女を空中でキャッチした。
「ひゃあぁー。……セーフっ……!」
サスライの体を抱えたヒナタは勢いのままに地面を滑る。そして制止すると、ヒナタは意識が朦朧としているサスライの顔を覗き込みながら無事を確認した。
「ヤヨイさん……大丈夫ですか?」
自分を抱きかかえるヒナタの顔を見上げると、サスライはか細い声で返事をした。
「……ええ……無事よ……。……後は……」
上方では少し遅れて、サスライに切断されたゴルカッソスの首が激しく煙を噴出していた。これで、二つ目の首が『破壊』されたのだ。
だが。
危機は去っていない。
もはや最後の一つになってしまった首、最も活発に動く噛み付き攻撃が得意な首が、ヒナタとサスライを纏めて食い千切らんと襲い掛かって来たのだ。
「二人とも上だっっ!」
俺の声を聞いてヒナタが振り返ったが、とても攻撃を避けられそうにはない。
ヒナタもサスライも、目を見開いてそれを見ているしかなかった。
成す術なしかと思われた瞬間――――。
「――――風にっ、海にっ、空にっ、我が声を聞けっっ!」
声が……聞こえた。
それは、とても自信に満ちた声。
まるで魔法少女というよりも、魔王と対峙する勇者のような凛々しい声。
青白く、力強く、眩い光りの塊が。
襲い来る敵の首を迎撃せんと横殴りに翔けていく。
「天破滅殺――――――新生覇王烈風神斬っっっっ!」
激しい光と共に回転しながら、まるで竜巻のように膨れ上がった風属性の魔力がクウの持つ大剣を猛々しく呻らせ、ゴルカッソス最後の首を横からなぎ払う。
クウのなんだか長い名前の必殺技によって、ゴルカッソスの最後の首は。
『ゴオォォォォォンッッッッ!』
これまでにない叫び声を上げながら――――刈り取られた。
直後にゴルカッソスの巨体全てが激しい煙を噴出する。
こうして確かに、三つ首竜ゴルカッソスは。
『撃破』された。
とっておきの一撃を最高のタイミングで撃ち込んだクウは、宙でマフラーと腰布を舞わせながら、自信に満ちた最高の表情を決めてこう呟く。
「――これで、少しは借りを返せたかしら?」
それを目の当たりにしたサスライは、疲れた表情を僅かに綻ばせながら、静かに声を漏らす。
「……ふん」
こうして、ゴルカッソス攻略戦が終結した。
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