必殺技 02
「いきますよっ! ――はあぁぁぁっっ! メガトンパンチ!」
そう言いながら放たれたヒナタの拳が、俺の防護フィールドに叩きつけられた。
『バシュンッッッ』
空気の噴き出すような音と共にヒナタの拳は弾かれ、それと同時に俺がモニタリングしていたヒナタの瞬間攻撃力が僅かに上昇した。心拍数を高めながらも、俺は何とか数値の変化を伝達する。
「おっ……おおっ。5%くらい上昇したぞっ」
喜ぶ俺に向けて、鳩野郎は不足を告げる。
「まだ弱いな。しかし、全く動かないケースも多いから、ヒナタは早い内にこの課題をクリア出来るかもしれない」
「ふむ……」
俺は顔を上げてヒナタに次の攻撃を促す。
「よしっ、どんどん来い! もっと色んな技の名前を叫んでみろ!」
「はいっ!」
返事をしたヒナタは構えを取り、何度も何度も俺の防護フィールドに向けて攻撃を放った。
「はぁっ、はぁっ……。どうでしたか隊長?」
ヒナタの問いに、俺は変身端末を見つめながら答える。
「うぅむ……。一番攻撃力が高いのがコークスクリューハートアンダーブレイクショットで、二番目がダンゴ虫パンチだ。逆に普通のネーミングだと殆ど上昇補正が無かったぜ」
「ふむ。恐らく、ヒナタに常識的な技の名前が向いていないのだろう。キャラクターにあったネーミングが必要だ」
「なるほど、キャラに合わせて少しアホっぽい必殺技名をつけた方が良い訳か……」
俺は顔を上げて、ヒナタに向けてこう言った。
「お前が格好いいと思う技の名前を叫べ! ただ声を大きくする事よりも、何かワクワクとした思いが溢れ出てくるように叫んでみるんだっ!」
「……ワクワク……」
俺の言葉を聞いて、まるで催眠にかかった様にヒナタは表情を明るくしていった。
「はいっ! ワクワク行きますよっ!」
ヒナタの表情は、いつもの無邪気に野山を駆け回る少し少年染みたものだった。ヒナタは両足を広げて腰を落とし、低い姿勢のままポーズを取る。その直後、僅かながらヒナタの周囲が赤い光を帯び始めた。
「ワクワク……ワクワク……クワ……」
赤い光と共に、ヒナタの瞬間能力値が上がっていく。
「おおっ……」
能力値の変化に俺は声を漏らす。
「――クワッ! クワガタフック!」
「……発想はおやじギャグレベルだな」
昔からヒナタと一緒に、カブトムシやクワガタを探しに山中に入っていたのだが、どうやら未だにあいつは昆虫が好きらしい。ネーミングセンスに俺は呆れるが、数値は今までで一番高い内容になっていた。
「おおっ、これはいけるんじゃないのか?」
「もう少しだ。ヒナタの能力ならもう少し高い数値を出せる」
「ふむ……。ヒナタ! 今の調子で色んな技を、色んなポーズで打ち込んでみろ!」
「了解ですっ!」
こうして数分後、ヒナタの必殺技が二つほど誕生した。
「よし。特に威力が高かったのは、拳に魔力を集めて放つ『鉄拳アイアンパンチ』と敵の攻撃をガードした後で反撃する『チェスト』だな。なんともヒナタらしいアホな技名だぜ」
因みに反撃技はヒナタからの提案で、クウが木製バットで攻撃をしてからヒナタが防護フィールドに向けて反撃する形で成功した。
「タイト、チェストとは何だ? 家具の事か?」
「あー……伝統的な掛け声みたいなものだ」
「ふむ」
「よし、次はツキコの番だな」
「はーい」
俺の呼びかけにツキコは嬉しそうに返事をした。
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