必殺技 03
やはりというべきか……開始直後からツキコは必殺技と呼べる水準の技を幾つも生み出してしまう。その多くが既に実用した事のある技だったが、細かい改良が為されているようだった。
また鳩野郎も驚いていたが、ツキコの奴、アドリブで『回復促進効果』のある矢まで打てるようになっていた。ステータス表示の適正データにあった、推奨配置の『サポーター』とはそういう意味だったらしい。
「ふぅむ。特に使えそうなのは雷属性の『ビリビリショット』と目くらましの『ピカピカショット』と回復力上昇の『ホンワカショット』だな。ネーミングも月子らしいし、技の内容が分かりやすくていいか」
「えへへー」
「しかし……色んな技をアドリブで使えるのがツキコの強みだが、如何せん馬力が不足しているようだ。この辺が今後の課題だな」
「はーい」
ツキコが前向きな返事をする。
「さて……次は……」
俺はクウの方へと目を向ける。
するとクウは、なんだがばつが悪そうに視線を逸らした。
「お前の番だぞ」
「わっ、分かってるわよ」
恐らく、変に大人ぶろうとするクウにとっては、必殺技の名前を叫ぶ行為自体が恥ずかしくてたまらないのだろう。
「とりあえず、何でもいいから声を出して切り込んでみろ」
「……う、うん。やってみるわ」
そう言ったクウは、正眼の構えを取って俺に剣を向けた。精神を集中させるように目を瞑っている。そうして暫くした後で、目を『カッ』と見開くと、まるで剣道の稽古をするように素早く切り込んできた。
「面っ!」
俺は端末に目をやるが、クウの数値にはピクリとも反応が無かった。暫く様子を見ていたが、クウは面、小手、胴などと、剣道の打ち込み稽古をそのまま魔法少女の姿でやっている。
「どう隊長……? 少しは威力上がった?」
俺はクウの問いかけに首を振って答えた。
「全くだ。1%も上昇していない」
「……そんなっ……」
動揺しているクウに向けて、俺は少々熱を帯びた声色で説教する。
「クウ、お前よく考えろ。面だの小手だのと叫びながら戦う魔法少女がどこに居る? 胴だの突きだのという必殺技がどこにあるっ? 恥ずかしいと思って常識的に立ち回る方が、魔法少女としては逆に超浮いてるんだぞっ!」
「……うっ……」
「恥を捨てろっ! 大人ぶるなっ! ガキの頃を思い出せっ!」
「……わっ、分かったわよっ!」
そう言うとクウは、脇構えの姿勢を取る。
「ひっ……飛翔剣!」
「まだまだ! 躊躇いが残っている!」
「ツバメ返し!」
「人のをパクるな!」
「渾身撃!」
「スマートさが足りん!」
「シャイニングソード!」
「欧米に被れるな!」
「画竜点睛!」
「それは四字熟語だっ!」
「一刀両断!」
「それも四字熟語だな」
「はぁ……はぁ……」
息を切らして片膝をつくクウに、俺はもっと熱くなれと言わんばかりに温度の高い声を浴びせ続ける。
「どうした? お前の剣はそんなものか? 魔法少女、水城空はその程度なのかっ!」
演技染みた俺の口調に感化されて、徐々に気持ちが入ってきたのか、クウはまるで魔王との戦いに苦戦する勇者のように、顔を上げてこちらを睨みつけてくる。
「ふははははっ! 所詮はその程度の力という事かっ。その程度で人を救えると思ったのかっ! この愚か者めっ!」
「……くっ……」
「悔しければ見せてみろ、お前の本当の力を! 真の必殺技を! 魂の叫びを!」
「…………」
「さぁっ! どうした! こうした! もう終わりかっ! もうお終いなのかっ! 水城空はもうお終いなのかっ! その程度で我に勝てると思うてかっ! 思っちゃってかっ!」
別に俺に勝つためにやっている訳ではないのだが。まぁ、演出である。
俺が挑発的な言動を繰り返し、静寂が訪れた頃――――。
「……りて、この地を翔ける」
何を思ったのかクウは、急に何かをポツリポツリと呟き始める。
「……ん? なんだ?」
それと同時にどういうことか、突如として場の空気が一変した気がした。
「……積雲より生まれ出でて、大地の全てを巻き上げん……」
「……おい、どうしたクウ? お前、何を言ってるんだ?」
混乱する俺に、鳩野郎からテレパシーが届いた。
「待てタイト。彼女をよく見るんだ」
「ん、よく見る……? ――ハッ!」
なんと、呟き続けるクウの周囲を青白い光が包み込んでいるではないか。
俺は慌てて変身端末へと視線を移した。
「……なっ! ツキコやヒナタが必殺技を使う時と互角……いやっ、更に上昇しているっ!」
「……疾風は山岳を抜け、海を渡り、
そこまで言うと、クウは肩に担ぐように剣を構えて立ち上がった。
「風にっ、海にっ、空にっ、我が声を聞けっ!」
クウを包む光が、まるで一段階シフトアップしたように強い光を放ち始める。
「天破滅殺――――」
そう言ったクウは飛び上がって空中で回転する。そして回転するクウの体は、マフラーや腰布を竜巻のように巻き込み、青白く輝きながら一気にこちらへと詰め寄った。
「――――新生覇王烈風神斬っっ!」
凄まじい勢いで風属性の魔力を周囲に撒き散らしながら、クウはその一撃を防護フィールドに叩き込んだ。
『フバッッシュゥゥッッッッ!』
巻き起こる凄まじい突風と、唐突なクウの豹変振りに、周囲は声を発する事が出来ない。俺は唖然としながらも、自らの役割を果たすべく変身端末に視線を移す。
すると――。
「なっ、なんて威力だっ……。ヒナタやツキコとは比べ物にならない攻撃力だぞっ!」
暫くの間、鳩野郎も豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、何とか冷静さを取り戻すと、クウの行動について分析して俺に説明してくれた。
「こ……これは恐らく、『詠唱魔法』の一種だ」
「詠唱魔法?」
「ああ。魔法を使う前に特殊な呪文を唱えると、次に放つ魔法の威力が上昇する事がある。彼女はそれを妄想によって創り上げ、それがCのクオリアに承認されたんだ」
「なんだかよく分からんが……すげぇ……」
俺は顔を上げてクウに話しかけようとした。
「クウ! よくやった! 抜群の威力だった――」
「……
「――ぞ?」
「タイト、このまま続けさせよう。どうやら彼女はノリノリのようだ」
「我っ、背水にて神明を得たりっ!」
こうしてクウの必殺技開発は数分間続いた。
「……ぜぇ……ぜぇ……」
息を切らして両手両膝をつくクウに、俺は変身端末を終了して歩み寄る。
「がんばったな、ダントツでお前の攻撃力が一番だったぞ。よろしく頼むぜ、姫結衣魔法少女隊のメインアタッカーさん」
「……ぜぇ……はぁ……」
「しかしお前。こういうの、好きだったんだな……」
俺の言葉に、少し間を置いてからクウは言った。
「……今日はもう……疲れたわ……」
音をあげ顔を伏せるクウに、俺は労いの言葉をかける。
「……おう。お疲れさん」
するとクウは声色を少し明るくして、更に言葉を続けた。
「……でも……」
「…………でも?」
そうして視線を上げたクウは、とても充実したような表情でこう言った。
「……ちょっと……楽しかった……」
斜に射す太陽が、彼女の満足げな表情を美しく浮かび上がらせた。
こうしてクウは、なんだか長い名前の必殺技を二つほど習得したのだった。
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