八章 必殺技

必殺技 01

「……どうしてこうなった……」


 現在俺は、幼馴染三人に刃を向けられ、弓を引かれ、拳を構えられている。


「隊長、覚悟はいいですか?」


 秘密基地の外で地面に座りながら、俺はファイティングポーズを取るヒナタに向けて、震える右手でGOサインを送る。


「それじゃあ、いきますよっ!」


 ヒナタの声に、俺は座ったまま身構えた。





 ――時は十分前に遡る。

 秘密基地の中で鳩野郎が、三つめの強さの秘密について説明を始めたのであった。


「タイト。君は流離夜宵が、ネプリフォーリオを倒した時の事を憶えているかい?」


「ん? 居合い切りであっさり倒しちまった時だろ? 勿論だ」


「ではその時、彼女は何か言葉を発していなかったかい?」


「言葉……? そういえば何かを呟いていた気がするな」


「簡単に言えば、それが三つ目の強さの秘密って訳さ」


 キョトンとした顔で、全員が顔を見合わせている。


「はぁ? そりゃ、どういう事だ?」


「強さの秘密の一つ目、二つ目に共通しているのは、Cのクオリアが人や物や状況を特別であると認識している事だ。Cのクオリアが特別だと認識する事象にこそ、より大きな上昇補正が発生する」


 鳩野郎の言葉の意味を考え、俺は流離があの時、何を呟いたのかを理解した。


「そうかっ……!」


 皆が俺の方へと注目する。


「あの子はあの時、『必殺技』の名前を呟いていたのかっ!」


「ご名答」


 鳩野郎は両方の羽をふわりと広げて、祝福するようなポーズを取った。


「魔法少女が魔法を使う時、Cのクオリアがこれは特別だと認識するアクションを取れば瞬間的な上昇補正や、特殊な演出エフェクトが得られる。今までの君達は、どんな攻撃をする時も特別な事は言わなかっただろ? 攻撃の殆どが『通常攻撃の範囲内』で行われていたから、威力が低かったんだ」


「……そんなっ……。そんなしょうもない事でいいのか?」


「しょうもなく無い。そんな甘い考えではCのクオリアからの上昇補正は得られないよ。さっきまで流離サスライ夜宵ヤヨイのエピソードを聞いていただろ?」


「……ぐむ……」


 鳩野郎の指摘はもっともだ。あの黒い魔法少女ことサスライは、全てにおいて全力で当たっている。だから強いのだ。


「彼女は自分の生い立ちや性格やイメージ、それらを総合的に理解して必殺技を身につけている。それが君達にも必要なんだ」


「なんだか楽しそうだねー」


「ねっ」


 ツキコとヒナタが笑顔でそう言った。鳩野郎はそんな二人を窘めるのかと思ったが、意外にも肯定的な事を言った。


「楽しむ事は大事だ。本人達の純粋な気持ちにこそ、Cのクオリアは反応するからね」


 楽しむことか……ん? という事はサスライは何かを楽しんでいるんだろうか。いや、正直言ってとてもそういう風には見えない。だとすればきっと、鳩野郎が言うところの『純粋な気持ち』とやらがその代わりを果たしているのではないだろうか。

 俺達の知らない、純粋な何かが。


「……ふぅむ、まぁそれは分かった。しかしだな、それでどうやってこいつらは必殺技を練習すればいいんだ? 仮に岩だとか木だとかに何度も必殺技をぶつけていたら、山が壊れてしまうぞ?」


「それなら問題ない。何故なら絶対に壊れる事が無い、適格な的が存在するからだ」


「……的確な的……? そんなの、一体どこにあるって言うんだ?」


 鳩野郎は真っ直ぐに俺の方を見つめながら言った。


「ああ、それはだな」





 ――そうして今に至る。


「タイト、決して防護フィールドからはみ出ないように気をつけるんだ。生身の地球人が魔法を食らうと、とても残酷な結果になってしまう」


「分かってるよっ! てかお前、俺の身が危険になるの嫌がってたんじゃなかったのかっ?」


「防護フィールドは我々の技術の最高峰だ。どんな魔法少女にも破壊する事は不可能さ」


 俺が鳩野郎の言葉に苛立つ中、ヒナタがスッと右手を後ろに引いて構える。

 俺は恐怖心を押し殺しながら、変身端末へと視線を移した。

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