強さの秘密 02

 鳩野郎は机の上をひょこひょこと踏みしめてからくちばしを動かす。


「彼女の名前は流離サスライ夜宵ヤヨイ。君達と同い年だが、魔法少女を始めて一年くらいになる。この一年というのは魔法少女としてはやや短い方だ。しかし、彼女はその才能と壮絶な戦い方から、この周辺地域では既に名の知れた存在になっている」


 全員が鳩野郎の言葉に、食い入るように耳を傾けている。


「彼女は我々とは別の勢力の影響によって魔法少女になった。彼女の管理者は兄だ」


「……兄? ちょっと待て。あの子が言っていたお兄様って、まさかあの黒いカードをぶら下げたカラスの事か?」


「ああ、あのカラスが兄だ。これは推測だが、恐らく兄の肉体は宇宙船の中で眠らされていて、その精神だけがカラスの体で活動している」


「……なるほどな。お前みたいな感じか」


「その通りだ」


 鳩野郎は足を止めて話を続けた。


「彼女を魔法少女にした連中はやり方が冷酷だ。多分、兄の肉体を返して欲しければ、魔法少女になって戦うように強要されているのだろう」


「…………」


 実は俺達もこの鳩野郎に半ば脅された訳だが、今ここでそんな話をしてもしょうがない。俺はそのまま鳩野郎の言葉の続きを促した。


「それで、どうしてあの子はあんなに強いんだ?」


 鳩野郎は少し間を置いてから説明する。


「彼女の強さの秘密は大きく分けると三つ。一つ目は、彼女が『一人』である事だ」


「一人? なんだそりゃ、どうして一人だと強いんだ?」


 常識的ではない説明に、俺は眉をひそめる。


「例えば、今タイト達の防護フィールドの上限は、管理者の防護フィールドを含めて全体で『三つ』だろう? これを仮に『四つ』に設定したらどうなると思う?」


「四つ? 出来るのか? そんな事」


「ああ、出来る。だが、極端にマイナス補正が発生して、恐らくウズルズにさえ勝てなくなってしまうだろう」


「どうしてだ?」


「危機感が無くなるからだ。君達の心の動きと同様に、Cのクオリアはリスクが無い状況では力を発揮しない」


 俺は鳩野郎が放った『リスク』という言葉によって、漸く理解した。


「ちょっと待て、まさかあの子は――」


「そのとおりだ。彼女は例え宇宙生物と戦って戦闘不能になっても、防護フィールドによって保護される事が無い。そして、戦闘不能になった彼女を助けてくれる仲間も居ない」


 この時俺は、あの子から感じられた張り詰めて張り詰めていつか切れてしまいそうな緊張感が、どこから来るのかが分かったような気がした。


「仲間は居ない。防護フィールドはオフ。つまりは一度でも負ければ死が待っている。この大きなリスクが、推定『47%程度』の能力上昇補正を彼女に与えている」


「……そうやって一人でリスクを背負って戦っている魔法少女は、結構居るもんなのか?」


「少ない。例えば君達三人のうち誰かが死んで二人になった場合、残った二人には14%程度の能力上昇補正が掛かるだろう。しかし、二人が14%の上昇補正を受けるよりも三人で戦った方がずっと強いし、連携によってもたらされる自由度も高いんだ。だから、多くの魔法少女ユニットが、最も効率が良いとされる三人から五人で活動している」


 彼女の力は連携ではなく、個に特化しているという事なのだろうか。彼女はずっと一人ぼっちだったのだろうか……。


 話を聞いていた全員が言葉を発さず、各々が何やら考え込んでいるようだった。

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