魔法少女をプロデュース? 05

「……魔法少女? 管理プロデュース? どういう事だ。Cのクオリアとは一体何なんだ?」


「絆であり、剣であり、盾でもある」


 趣意不明な回答に、俺は軽く舌打ちをする。


「……ちっ、抽象的に暈かす奴は信用できねぇな」


「直ぐに分かるさ。分からなければそもそも先はない」


「…………」


 掴み所の無い相手に対して、情報を引き出すにはどう質問すればいいものかと俺が眉を顰めていると、反対に鳩野郎の方から俺に向けて質問してきた。


「君にとって彼女達は何なんだい?」


「……幼馴染だ」


「仲が良いのかい?」


「……ああ」


「どれくらい?」


「なんでそんな事を聞くんだ? あいつ等を脅しの材料に使うつもりか?」


「これから説明をする上で、とても重要な質問なんだ」


 鳩野郎の口調からは、今のところ悪意のようなものは感じられない。俺は警戒しつつも素直に返答した。


「……ふん。ずっと一緒に過ごしてきた。遊びも、学校も」


「そうか……。偶然とはいえ、ここまで規格に一致しているとはね」


 曖昧な発言の連続に、いい加減焦れてきた俺は再び語気を強めて質問する。


「次はこっちの番だ。単刀直入に聞くが、お前は俺達をどうしたいんだ?」


 俺の質問に対して、数度首を傾げるような素振りを見せたと思うと、鳩は漸く自らの事情を説明し始めた。


「君達に、戦って欲しいんだ」


「戦う?」


「ああ。僕達の代わりにね」


「戦うって……何とだ?」


「他の宇宙生物さ」


「はぁ……他の? ちょっと待て、お前ら以外にも宇宙人が来ているのか?」


「ああ。我々のような知的生命体ならまだいいが、災厄を撒き散らしたり、捕食力が高いだけの厄介な生命体が多い」


 テレビやネットでUFOや未確認生物の特集はよく見るが、それによって人類が危機に晒されているという話は聞いたことがない。それに現代社会では各国の人工衛星が地球上を飛び交い、あちらこちらに防犯カメラが設置され、誰もが携帯カメラを持っている。そんな中で知的でもない宇宙生物が、こっそり地球に侵入するなんて事は不可能ではないだろうか。


「おいおい、そんな話聞いた事ねぇぞ?」


「そりゃそうだろう。だって君達地球人は、いまだに『宇宙人が宇宙船に乗って、広大な宇宙空間からやってくる』とでも思っているのだろう?」


 まったくもってその通りだ。というか他にどんな手段があるというのだ。


「……なんだ? 違うのか?」


「そんな不器用な手段で地球へ来る宇宙生物は、極めて少ない」


「……それじゃあ、本当の宇宙人はどうやって地球に来るんだよ?」


 鳩野郎はまた数度首をヒョコヒョコと傾けると、回答した。


「基本的には『次元間干渉』となる」


「次元間……何?」


「人類が定義する所では、君達の生活する世界は三次元空間に当たり、君達人類の『C』の所在もここにある。しかし、多くの宇宙生物はもっと上位次元に『C』の所在があるのさ。三次元空間が三つの直交する直線が引ける空間ならば、四次元空間は四つの直行する直線が引ける空間、五次元空間は五つの直行する直線が引ける空間って訳だ」


 こいつは一体何を言ってるんだ? 宇宙人みたいな事ばかり言いやがって。


「……ふ、ふむふむ。あー、なるほどなるほどな。そういう事か。うんうん、とりあえず続けてくれ」


「ああ。しかし例え上位次元に存在する宇宙生物であっても、下位次元に干渉するのは容易ではないんだ。それこそ君達がどんなに恋焦がれても、下位次元である二次元空間に飛び込むことが出来ないようにね。だから多くの宇宙生物は間接的に三次元へ干渉してくる。不安、恐怖、怒りなど負の感情を与えたり、事故、戦争、災害などを利用する事によって、三次元上の生物を破滅へと導こうとするケースも多い」


「ほうほう、そう来ましたか。何てこった……」


 本当に何てこっただ。さっぱり理解が及ばんぞ。しかし、何やら『悪い宇宙生物が異世界から人間に危害を加えようとしている』って事だけは、分かったような気がする。


「その、なんつーかさ。俺達人間を殺して、宇宙生物に一体何の得があるんだ?」


「この物質主体の次元における活動媒体、つまり肉体が破壊された場合、『C』……君達が言う所の魂が上位次元へと回帰移行する。すると『C』が移行した先では、その次元に応じた活動媒体がより明確に形成されて行く事になるんだ。それは君達が呼称する所の霊体のようなものだ。宇宙生物はその霊体を捕食したり、利用したりするのさ。君達が肉体の維持向上の為に他の生物の血肉を利用するように、彼らも自らの霊体を維持向上する為に他者の霊体を利用する。まぁ、これはあくまで宇宙生物が干渉してくる動機の一例に過ぎないけどね」


 駄目だ。話が進むほどに意味が分からなくなっていく。しかも何やら、途轍もなくグロテスクで、際限なく壮大な弱肉強食世界について説明されているような気がして、宇宙的恐怖感からこちらの頭がおかしくなってきそうだ。俺は何とかショートしかけている頭を持ち直し、冷静に会話の継続を試みる。


「あのな……そうやって宇宙人とか、四次元とか、霊だとかオカルトチックな説明をされてもな、そんなもん急に信じられるかよ。見た事も聞いた事もねぇんだぞ?」


「地球人の五感や次元認識では感知出来ない奴等の方が圧倒的に多い。君達がこの次元で最も頼っている視覚情報でさえ、光が伝えるデータの極一部を捉えているに過ぎないんだ」


「分かった分かった。分からんけどもう分かった。じゃあ仮にその話が本当だったとして、何故俺達がそれと戦わなきゃならないんだ?」


「我々では手出しが出来ないんだ。そういう決まりがある」


「決まり……? それじゃあ、一体どうやって戦うんだ?」


「我々の技術を継承するのさ」


 技術の継承? ひょっとして、ビーム兵器とかバトルスーツでも提供してくれるのだろうか。


「その……技術とやらを継承するのは、決まりに違反しないのか?」


「君達人類にとって過度にオーパーツ的な技術を継承すれば違反となるが、我々が与える技術は大よそ君達の文明水準にデチューンされたものだ。既に秘密裏にだが、地球上の各国各社がバラバラに開発している技術が無数にある。それらを集結させて、そこに我々の技術に似たものを搭載させるんだ」


「そう長々と説明されてもな、現物を見ねぇと全然想像できんわ」


「ふむ。それもそうか」


 軽く頭を下げて頷くような仕草を取った鳩は、右羽をゆっくりと上げた。


「まずはこれを見てくれ」


 鳩がそう言うと俺の目の前が白く光り出す。その光が消えたかと思えば、今度はカードサイズの何かが『コツン』と音を立てて床に落ちた。


「腕の拘束を解くから、それを拾ってみてくれ」


 俺を後ろ手に縛っていた何かが、すっと煙のように消えた。俺は同じ姿勢を続けていた為に少し痺れていた手を解しながら、目の前にある白いカード状の物体を拾い上げてみる。


「そこに、Cのクオリアが組み込まれている」


「ここに?」


 まさかとは思うが、こんなペラペラなカード一枚が、宇宙人が与えてくれる兵器だとでも言うのだろうか? 訝しげに俺はカードの表と裏を確認する。


 カードはまったくの無地であり、白いだけでどっちが表でどっちが裏なのかさえ定かではない。触った感触としては軽いのに、カードは殆どしならない。強度的にはかなり頑丈に出来ているらしい。


「まずはそのカードに向けて、『CQCQ』と唱えてみるんだ」


「なんだそれは?」


「Cのクオリアを起動する為の符号さ」


「……ふむ」


 俺はとりあえず鳩野郎の言うとおりに、カードに向けて唱えてみた。


「CQCQ」


 その瞬間――。


『キィンッッ』


 という耳鳴りのような音がした後で、カードは光を放ちながら拡大した。


「……これはっ……」


 白い微かな光を放つ透明なその物体は、鮮やかな光の絵を映し出している。

 これには見覚えがある。そうこれは――。


「タブレット端末さ。君達の技術水準や操作性を考えて、現在はこの形態になった」


 俺は手元にある端末をまじまじと見つめる。サイズは十二インチ位だろうか? 画質はかなり良く、重さもカードの時と変わっていない。画面下部には何やら三つのシルエットのようなものが描かれていて、それぞれのシルエットの右下には――。



『hinata akashi』

『ku mizki』

『tukiko koganei』



 と小さく書かれていた。

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