魔法少女をプロデュース? 02

「――はぁ? 宇宙人? 魔法少女?」


 説明を終えた俺に向けて怪訝そうな表情をしているクウの横では、ツキコが爛々と目を輝かせている。


「ふわわわわぁぁー。凄いっ! 私達ってば魔法少女になっちゃったのっ?」


「ちょっとツキコ、隊長の言う事なんだから。あまり真に受けない方がいいわよ」


「えー。だってクウちゃんも見たでしょ? あれ絶対UFOだよー」


「うぅん……。でもその後の事を全然憶えてないんだし……」


 半信半疑な様子のクウに、俺はポケットから取り出したカード状の物体を見せた。


「……なによ? その白いカード」


「宇宙人から受け取ったものだ」


「またまたぁ」


 現実主義者のクウは、まったくもって俺の話を信じていないようだ。


「いやな、俺も宇宙船を出てから一度も試していないから、本当に動くのかは分からないけどさ……」


「動くって何が?」


「まぁ、いいからちょっと見てろ」


 俺はそのカードを胸の高さに構えると、それを起動させる為の符号を唱えた。


CQシーキューCQシーキュー


 すると――。


『キィンッッ』


 という微かな音が聞こえた直後に白いカードが光り、まるで透明なタブレット端末のように拡大して鮮明な画像を表示し始めた。


「きゃっ! ……何これ?」


「すっごぉい! 光ってて綺麗ー!」


「ふぅ、ちゃんと動いたか……。見ての通り、使い方はタブレット端末と同じらしい。ただし、ネットを見たりするのはおまけみたいなもので、実際はお前達三人を管理する為の機械だそうだ」


「……管理……?」


 その言葉を聞いて不安そうにクウが呟いた。端末の光りで白く照らされながら、二人はじっと俺の言葉に耳を傾けている。


「ああ、例えばこの画面の下の方に三人のシルエットがあるだろ? ここを押すと――」


 俺は『tukiko koganei』と書かれている所をタップした。

 すると、不意にツキコが声を漏らす。


「……あっ……」


「ん? どうした?」


「うぅん。何か今、隊長と見つめ合っているような感じがした」


「……ふむ。大丈夫そうか?」


「うん。全然平気ー」


「そうか。俺は今、この端末でツキコのステータスウインドウを開いたんだ」


「へー。画面綺麗だねぇー」


「……何これ? 攻撃力、防御力……他にも魔力量、体力量、俊敏性、応用性……」


 クウが訝しげに、端末に映し出されたツキコのステータスウインドウを見つめている。


「ここにはツキコが戦う上で必要な能力値が表示されているんだ」


 そう俺が説明する傍で、急にクウが大声を上げた。


「ちょっ――――ちょっと隊長! スリーサイズや体重まで書いてあるじゃない!」


「――なぬっ? そうなのかっ?」ガタッ


 俺は当然の如く迅速に、クウの言葉に反応する。


「わぁ、本当だぁー。書いてある事も正しいー」


「――そうなのかっ?」バッ


 俺は当然の如く迅速に、ツキコの言葉にも反応する。


「でも、この前の身体検査よりバストが一センチ大きいー。また大きくなったのかな?」


「そっ、そうなのかぁ……」ジー


 そう言って画面を興味津々に見つめる俺から、クウが端末を奪い取ろうとした。


「こらっ隊長! 見るんじゃないのっ!」


 しかし――――。


「きゃっ!」


 クウが伸ばしたその手は、端末に触れる直前に、微かな衝撃音と共に弾かれてしまった。


「クウっ! おい、大丈夫か?」


「う……うん。びっくりしたけど」


「なんだ? 一体どういう事なんだ……?」


 俺が唖然としてそう呟いた直後、突如として聞き覚えのある声が頭の中に響いた。



「その疑問には私が答えるよ」



 俺も驚いたが、クウとツキコも驚いたように周囲をキョロキョロと見渡している。

 どうやら二人にもこの声は聞こえているらしい。


「この声は……鳩野郎か?」


「ああ、そうだよ」


 混乱している女の子二人は、一斉に俺に質問してくる。


「ちょっと、隊長っ、これ何? 私変なおっさんの声が聞こえるんだけどっ?」

「隊長っ! これってテレパシー? 宇宙人からのテレパシーなのっ?」


 俺が返答に窮していると、代わりに鳩野郎が質問に答えてくれた。


「クウ、ツキコ、二人とも驚かないでくれ。Cのクオリアが起動している間は、我々も君達の五感を通して、情報を伝達したり収集したり出来るんだ」


「……宇宙……人……?」


 クウがそう呟くと、鳩野郎は返事をした。


「ああ、そうだ。私は君達に力を託した地球外生命体って奴さ」


「嘘……本当なの……?」


「はわわわわー。未知との遭遇だぁー!」


 クウは呆然としているが、反対にツキコは喜びに満ちた表情をしていた。

 鳩野郎は落ち着いた口調で、クウの腕が弾かれた理由について説明しだす。


「その端末には管理者であるタイトしか触れる事は出来ないんだよ。例えそのシステムを作った我々であっても、触る事はおろか、起動中は近付く事さえ出来ない」


「なんだ? 近付く事も出来ないって、どう言う事だ?」


「目には微かにしか見えないが、Cのクオリアが起動している最中は、その周囲に『排他的防護フィールド』が展開されているんだ。展開範囲は端末を中心にして半径1メートル程度。地球上の兵器で例えるなら、核爆弾にも余裕で耐えられる程度の強度を持っている」


「防護フィールド?」


 俺が不思議そうな顔をしていると、ツキコが納得したように声を出した。


「そっかぁ。だからさっきその機械が光った時から、何か風のようなものが吹き出している気がしたんだね。きっとそれがバリアだったんだー」


 ツキコの言葉に鳩野郎が答えた。


「ああ、ツキコは勘が良いみたいだね。だけどタイトの管理対象である君達魔法少女でも、一定時間その防護フィールドの中にいると、強制的に外に弾き出されるから注意してくれ。あくまでCのクオリアとその管理者を一体的に保護する為の機能なんだ。なので当然、君達が防護フィールド内に攻撃を加えようとしたり、端末に触れようとしても弾かれる」


 鳩野郎の言葉を聞いて、クウとツキコが驚いたように背筋を伸ばした。


「ちょっと隊長、もう少し離れてよ……」


「お、おう……」


 クウに言われた通り、俺はベンチから少し距離を置いた。


「魔法少女が戦っている最中も、管理者は戦地でCのクオリアを操作する必要があるんだ。だから最高水準の防御機能が搭載されている。Cのクオリアを停止すると、端末周辺の防護フィールドも解除されるから注意してくれ」


「そうか、分かった……。ところでこれが動いている間は、ずっと監視されていなきゃ駄目なのか?」


「プライベートへの配慮も万全さ。オプション画面にある『ミシェとの通信を維持』のチェックマークを外すと、我々が呼びかける事も、我々に呼びかける事も出来なくなる」


「ミシェ?」


「我々の事さ。端末の基本的な操作方法は、宇宙船の中でタイトに説明した通りだ。今回は挨拶を兼ねて声をかけさせてもらった。因みに、君達四人は地球上ならどこに居たって、口を開くことなく会話が出来るよ」


「すげぇな……本当にテレパシーかよ……」


「それでは、後は色々自分達で試してみてくれ。分からない事があったらヘルプソフトを参照するか、私達を呼び出してくれればいい」


「おう。分かった」


 こうして鳩野郎の声は聞こえなくなった。

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