一章 魔法少女をプロデュース?

魔法少女をプロデュース? 01

 宇宙人から解放された俺達は、気がつくと近所の公園に居た。公園には草むらで鳴く夏虫の声と、幼馴染の名前を呼ぶ俺の声が響き渡っている。


「ヒナタ! クウ! ツキコ!」


 幼馴染の三人は、ベンチの上で肩を寄せ合うようにして目を瞑っている。

 時刻は午後十一時。学生が花火大会を見て帰るには、少々遅過ぎる時間である。


「おいっ、みんな目を覚ましてくれ」


 今日は何だか叫んでばかりのような気がする。何度も何度も呼びかけ続けていると、漸く中央で二人に肩を貸しているクウが目を覚ましてくれた。


「……う……うぅん……」


「――クウっ!」


 最初に目を覚ましたこいつの名前は、水城ミズキクウ。切りそろえられたサラサラのボブカットが特徴的だ。三人の中では一番しっかりとした性格であり、とても面倒見が良いタイプである。しかし大人びた性格とは反対に、体格は最も小柄であり、肉体的な成長が遅い事に少々、いや結構なコンプレックスを持っている。


 クウは肩まで伸ばした髪をサラリと揺らしながら、寝ぼけ眼で辺りを見渡し、そして俺の顔に焦点を合わせて口を開いた。


「……隊長? ここどこ?」


 因みに隊長というのは俺の事だ。ガキの頃からのあだ名みたいなものである。


「良かった、目が覚めたか」


「あれ? 私達、確か花火を見た後で秘密基地に行こうとしてて……そして山の中で変な光を見つけて……」


 どうやら直前までの記憶はちゃんと残っているらしい。


「ああ、その通りだ。お前、体は何ともないか?」


「体……? うん、普通だけど……。なんだか少し調子がいい気がするくらいだわ」


「そうか……」ホッ


 俺が胸を撫で下ろしていると、俺達の会話で目が覚めたのか、クウの隣で寝ていたツキコがもぞもぞと動き出した。


「……ふぁっ……? ここどこぉ?」


 次に目を覚ましたこいつの名前は小金井コガネイ月子ツキコ。艶のあるストレートなロングヘアが特徴的で、笑顔がよく似合う少々日本人離れした美人である。天然気質な性格で、人懐っこく甘えん坊だ。しかし、三人の中では一番肉体的成長が早い。


 ツキコは、クウの肩にもたれ掛かっていたために張り付いた頬っぺたの髪の毛をそのままに、口元からこぼれかけた涎を拭いながら辺りを見渡した。


「あれぇ……隊長……? みんなお外で何してるのー?」


「おおっ、ツキコも目を覚ましたか」


 隣でクウが、ツキコの頬っぺたに張り付いた髪の毛を取ってあげている。


「ずっとお風呂に入ってたぁー。隊長と一緒に入ってたんだよー」


「お……おう、そうか……」


 睡眠環境が夢の内容に影響を与えるというが、先程まで水槽の中に入ってたせいか、どうやらツキコは風呂に入る夢を見ていたようである。


「一緒に流しっこした後で、脱衣所で服着てたんだよー。隊長、今度また一緒に入ろうねー」


「……お……おう」


「おう……じゃないわよっ」


 素直に応じようとする俺に、クウが突っ込みを入れてくる。


「ツキコ、あんたはもう隊長なんかと一緒にお風呂入るような歳じゃないの。一番一緒に入っちゃ駄目そうな体をしておいて、一体何を言ってるのよっ」


「えーっ、私ずっと隊長と入りたいー」


「だーめっ」


 俺達は小学生の頃まではよく一緒に風呂に入っていたのだが、中学に入る少し前からは全く一緒に入らなくなった。この会話から察するに、どうやら三人が俺と一緒に入浴しなくなった原因はクウにあるらしい。おのれなんて事を。


「……えっと、ツキコ。体の調子はどうだ? どこか痛い所とか無いか?」


「体? 全然大丈夫だよー。さっきまでお風呂入ってたから元気いっぱーい」


「そうか、そりゃ良かった……」


 安堵する俺の様子を見ながら、クウが怪訝な表情で尋ねてくる。


「ねぇ隊長。なんで安心してるの? 一体何があったのよ?」


「そうだな……出来れば三人とも目を覚ましてから説明したかったんだが……」


 俺がそう言うと、みんなはヒナタの方へと視線を向ける。

 ヒナタは未だに気持ち良さそうに、クウの肩を枕にして眠っていた。


「……すーっ……すーっ……」


 安心しきった表情のままずっと眠り続けているこいつの名前は明石アカシ日向ヒナタ。ほんのりウェーブ掛かった短めの髪をツインテールにしており、少女らしさと少年らしさが同居した爽やかな顔つきが特徴だ。俺に対する忠誠心が高く、猪突猛進でボーイッシュな性格をしている。体格は年頃の女子として平均的なのだが、運動能力は極めて高い。

 

「どうするの隊長? 一度寝ちゃうとヒナタはなかなか起きないわよ?」


「うぅむ、そうなんだよな……。ところでツキコ、お前はどこまで憶えている?」


「憶えているってー? 何が?」


「さっきまで何をしていたかだ」


「お風呂に入る前?」


「おう。風呂の前だ」


 ツキコは目線を虚空に泳がせながら記憶を辿る。


「えっとね……。みんなと花火を見に行ってたよー」


「ふむ、その後は?」


「秘密基地に久しぶりに行こうって言って、山の中を歩いてたの。そしたらピカーって光ってるのがあって。……あれ? それからどうやってお風呂に入ったんだっけ?」


「……風呂は夢だ。とりあえず、ツキコも記憶はしっかり残っているみたいだな」


 不思議そうに首を傾げているツキコの横で、焦れたようにクウが声を出した。


「ねぇ、さっきから何なの? 記憶があるっていうけど、私はどうしてこの公園で寝ていたのか、全然憶えてないんだけど?」


「うぅむ。少し長くなるが……まぁ、順を追って説明しよう。驚くなよ……」


 俺はさっきまでの出来事を、二人にも分かるように出来るだけ丁寧に説明した――。

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