誤算 07

 俺が変身端末を閉じる様子を見た鳩野郎は、すぐ様こう言い放つ。


「無駄だ。君の防護フィールドは管理者専用に固定されている。Cのクオリアを終了させたからといって、その防護フィールドはクウに適用されない」



「うるせえぇぇぇっっ!」



 俺はカード状になった変身端末を持って、クウを目掛けて一直線に走り出した。


「馬鹿なっ! やめろ! 魔法少女の替えは利くが、管理者の替えは利かないんだぞっ!」


 初めて鳩野郎が、声を荒げて俺を制止した。鳩野郎の言葉に俺は。



「――だからっっっっ! あいつ等は物じゃねぇっつってんだろうがぁっっっっ!」



 走りながら、感情も露に大声で叫ぶ。


「あいつ等はっ――クウはっ――――クウはっっ!」


 半漁人が、倒れたクウに向けてとどめの一撃を放とうとしていた。俺は倒れ伏すクウの体目掛けて全力で走り寄る。そして半漁人が右手の爪を尖らせて、一気に振り下ろすその瞬間――――。俺は滑り込むようにして、クウの体に覆い被さった。


 そして――――叫ぶ――。



「CQCQっ!」



 変身端末は白く光り、瞬時に拡大する。

 直後――。


『シュバァァァァッ!』


 空気を切り裂くような音と共に、クウを攻撃しようとしていた半漁人の爪は、俺の防護フィールドによって弾かれた。


 よろめく半漁人は面食らっているようだったが、直ぐに攻撃態勢を取り直した。何度も防護フィールドによってとどめを邪魔されて、ストレスが溜まっているのだろう。怒り狂ったようにして、何度も何度も防護フィールドを踏みつけてくる。


「……あれ……? 隊長……?」


 気を失っていたクウは状況が飲み込めない様子で目を開けて、覆い被さっている俺の顔を見上げた。細くて、小さくて、とても軽いクウの体。こんな体であんな化け物と戦っていたのだ。俺の心は言い様の無い罪悪感で一杯になる。


「あれれ……? 私……もう死んじゃったのかな……?」


 そう呟くクウの体を、俺は左手で抱き寄せて言った。


「死なせるものかっ……死なせてたまるかっ……」


 意識を取り戻したクウは、直ぐに状況が絶望的である事を悟ったのだろう。俺が抱きしめても怒る様子も無く、照れる様子も無く、ただただ何も言わずに、俺の体を抱きしめ返してきた。


 そんな俺達に向けて、更なる残酷な告知が届く。


「タイト。あと二分もしない内に、クウは強制的にその防護フィールドから弾き出される。例えクウが殺されても、タイトはもう絶対にCのクオリアを終了させるんじゃない。もしも管理者であるタイトが死ねばユニットは消滅する。そうなれば、ツキコやヒナタの身だって危ない」


 鳩野郎の伝える残酷なシナリオに、俺は何一つ言い返す事が出来ない。

 ただただ、俺は。


「大丈夫だ……絶対に守る……大丈夫だ……絶対に……」


 涙を流しながら、そう呟くしか無かった。クウはそんな俺の表情を、横目でジッと見つめている。俺達の直ぐ傍では、何度も何度も半漁人が防護フィールドに攻撃を加え続けていた……。

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