誤算 05
「……はぁ……はぁ……」
息を切らせてヒナタが半漁人の方へ向かっている。そんなヒナタに向けて、俺はテレパシーで呼びかけた。
「ヒナタ! ツキコは無事だ! お前ももう、これ以上無理をするな!」
ヒナタは足を引きずりながら、大きく首を振る。
「駄目です隊長。こいつ強いんです……」
「そうだっ! だからもう戦うなっ!」
「駄目です。私がもっとこいつを弱らせないと、クウちゃん一人じゃ勝てませんよ……」
「戦わなくていいっ! 今日は負けだ! 負けでいいから、もう無理をしないでくれっ!」
「……えへへ、駄目ですよ隊長……」
俺が必死にヒナタの身を案じる中。ヒナタはもっと別の事を心配していた。
「駄目って――」
「だって……私達が負けたら、人が死ぬかもしれないんですよ……?」
「…………」
くそ。
何てことだ。
強大な敵と戦う事の厳しさを、戦いの中で仲間が傷つく事を、一番理解していなかったのは、一番覚悟していなかったのは俺だったのかもしれない。俺は自分自身に闘う力が無い事を、自分自身があいつ等を守ってやれない事を、酷く、酷く歯がゆく思った。
「――クウっ! まだ戻れないのかっ?」
俺の呼びかけにクウは直ぐに応えた。
「小さいのは全部倒したところよ! 今真っ直ぐ砂浜へ向かって泳いでる! ヒナタ! すぐ行くからねっ!」
クウの呼びかけに、ヒナタは疲れた様子で返事をした。
「えへへ……。うん、クウちゃん待ってるよ」
ヒナタはスッと左足を後ろに後屈立ちで構えて、防御の姿勢を取った。
「今……私がやれる事をやらなくっちゃ……」
そしてそう呟きながら、ヒナタは相手を見据える。
「今……俺が……出来る事……」
ヒナタの言葉を聞いた俺は、素早く変身端末を操作してヒナタの衣装をチェンジする。
「ヒナタ、衣装をいつもの衣装に戻す。そのまま海から距離を取って戦うんだ!」
「了解です。――承認っ」
そう返事をするとヒナタの体は光に包まれて、いつもの衣装へと変身した。変身を終え、低い姿勢で構えるヒナタに半漁人が歩み寄る。そうして間合いを詰めると、直ぐ様半漁人はヒレのついた足でヒナタの側面を蹴り込んできた。
「ふんっ!」
声を出してヒナタがガードすると、半漁人は負けじと次々に攻撃を繰り出してくる。それを徹底してガードし続けたヒナタは、一瞬出来た隙を狙って半漁人の懐へ飛び込み、中段正拳付きを叩き込んだ。
「はぁっっ!」
腹部に攻撃を受けた敵は僅かによろめくが、それほどダメージが通っているようにも見えない。
「くっ……あいつ強過ぎるんじゃないのか?」
そう焦燥する俺のに向けて、鳩野郎が呟く。
「電撃が得意なツキコがやられた時点で勝ち目がない。今の君達が全員揃っていて、慎重に戦ってやっと勝てる相手なんだから」
足を怪我したヒナタは、ガードを徹底しながら地道に一発ずつ攻撃を重ねている。
しかし、自分の何倍も大きな相手の攻撃を、正面からガードし続けるのは消耗が激しい。数度、ヒナタが隙を突いて反撃すると、半漁人もそれに順応したように相打ちで攻撃を合わせ始めた。
「――ぐぅっ!」
空中で叩き落とされたヒナタは、這い蹲るように砂上に落下する。そんなヒナタを踏み潰すように半漁人が足を伸ばしてくる。ヒナタは気力を振り絞ってそれを回避し、直ぐに構え直そうとするが――――右足の踏ん張りが利かずに、とうとう尻餅をついてしまった。
半漁人はその隙を逃さない。
『バチンッッッ!』
水を叩くような音と共に蹴られたヒナタは、ガード姿勢のまま砂浜を横滑りしていく。砂埃の中で横たわるヒナタは、もう起き上がろうとしなかった。そして……ヒナタの周囲を透明な膜のようなものが覆う。
ヒナタまでもが、戦闘不能になってしまったのだった。
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