誤算 02

 三人が行動を始めた後、俺の傍で様子を見ていた鳩野郎が俺に注意を促してきた。


「タイト。的確な配置だが、ヒナタ一人でネプリフォーリオ本体を引き付けるのは、かなり大変だと思うよ」


「……だが、小さい奴等を逃がす訳にもいかないだろ?」


「君は随分と潔癖だな。全ての人を常に救い続ける事は不可能だよ。それに、水着姿だと陸上での防御力はかなり落ちる。タフなヒナタでもそう長くは持たないだろう」


「……分かってるさ……」


 陸上で戦うヒナタの衣装を、通常衣装に戻すべきだろうか? ……いや、水際で戦う以上、水中に引き込まれた時のリスクの方が高い。ここは一刻も早く、全員ででかい半漁人と戦える状況を作るべきなのだ。俺はテレパシーでクウに状況を確認した。


「クウ、どうだ? 追いつけそうか?」


「うん。びっくりするくらい速く泳げているわ。イルカかペンギンにでもなったみたい」


「そうか。出来るだけ早く雑魚を倒して陸へ戻ってくれ。ヒナタ一人じゃでかいの相手は長くは持たない」


「了解。やってみる」


 クウがそう返事をした直後、ヒナタから連絡がある。


「隊長、今から磯に上がって、でっかい半漁人と交戦します!」


 クウが雑魚と戦い始めたら、でかい方も海に飛び込むかもしれない。でかい方を引き付けるなら、今しかないだろう。


「分かった。出来れば敵を砂浜まで引きずり出せ。磯は足場が悪いしツキコからも見え難い」


「了解です!」


 俺は変身端末を覗き込んだ。画面には、三人の視覚映像が映し出されている。水中を高速で移動しているクウの映像は、水中にも関わらず想像以上にクリアに映っていた。交戦の連絡は無かったが、どうやらクウは既に沖の方で小さい奴等に追いついて戦闘を開始しようとしている。


 一方ヒナタは岩陰に隠れながら、でかい半漁人に接近している。その右手にはこぶし大の石が握られており、それで先制攻撃をするつもりのようだ。でかい半漁人を射程圏内に捉えたヒナタは、右手を振りかぶり――。


「ふんっ!」


 と息を漏らして石を投げつけた。

 高速で投げ出された石は、見事に半漁人の後頭部へと直撃し。


『ゴッツッッォ!』


 激しい粉砕音を放つ。不意打ちを受けた半漁人は一瞬頭を押さえて膝をついたが、直ぐに怒りを露にしてヒナタの方へと振り向いた。


「こっちこっちーっ!」


 磯の影からヒナタが姿を現し、半漁人を挑発している。挑発に乗ったのか、半漁人は背筋を伸ばして立ち上がると、一気にヒナタの方へ向けて走り出した。


 俺は顔を上げて磯の方へと視線を移す。遠目で見ても分かる程に、半漁人の身長はでかい。そして、気持ち悪いくらいに俊敏な動作で岩礁を跳ねて、ヒナタとの間合いを詰めている。


「うわっ! でかいしめっちゃ速いっ!」


 ヒナタも驚いたように声を出して、砂浜の方へ向けて走り出した。なんとか砂浜まで辿り着くとヒナタは振り返り、覚悟を決めたようにして大きく息を吐き出して呼吸を整えた。


「シュゥゥゥゥッ…………シュッ!」


 息を全て吐き出すと、スッと息を吸いながら戦闘の構えを取る。

 そして。


「来いっっ!」


 と一声叫ぶと、自らに襲い掛かかろうとする半漁人の顔を迎撃するように、いきなり飛び上段回し蹴りを叩き込んだ。



『バチィィンッッッ!』



 水を叩いたような音がここまで聞こえてくる。一瞬よろめいたものの、直ぐに半漁人は体勢を立て直してヒナタに反撃し始めた。


 砂埃を上げながら、何とも魔法少女らしくない肉弾戦が繰り広げられている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る