五章 誤算

誤算 01

 ここは街の南側にある海岸。

 現在、砂浜の手前にある松林の中から、宇宙生物の様子を窺っている。


「クウ、見えるか? 磯の方だ」


「……うん。大きな半漁人がいる。岩に向かって何かやっているみたい」


 姿を確認したクウは、隣のヒナタにも双眼鏡を渡した。その様子を見て鳩野郎が助言する。


「君達三人なら、双眼鏡を使わなくても変身するだけで遠くが見えるよ」


「へぇ、魔法少女にはそんな能力もあるのか?」


「ああ。魔法少女が遠くを見ようとすれば、その意志がCのクオリアを通して実現される。そして、その魔法少女の視覚データを、管理者が端末から確認する事もできるのさ」


「ふぅん、なるほどな」


 全員が位置を確認してから、俺は変身端末を起動させた。


「それじゃ、三人とも変身させるぞ?」


 俺がそういうと、クウが少し不安そうに言った。


「本当に水着に着替えるの?」


「水着つっても魔法少女用の可愛い奴だ。デザインはさっき見ただろ?」


「だけど、人前で水着に着替えるなんて、ちょっと恥ずかしい気が……」


「アホか。何に着替えようと、どうせ着替えている所は俺には見えないんだからな」


「うぅん……そうだけど」


 クウはツキコやヒナタの体をチラチラと見ながら、何やら躊躇っているようだった。


「おし、時間も無いから変身させるぞ」


「わ、分かったわよ……」


 こうして三人は、水着タイプの衣装に変身した。




「わぁー。ヒナタちゃんもクウちゃんも可愛いー」


 そう二人を賞賛するツキコは、黄色と黒と白の三色を基調としたセクシーなビキニタイプの水着を装備していた。年齢不相応に整ったボディラインを美しいパレオで包み込む事によって、とても上品な印象を受ける仕上がりになっている。日本人離れしたツキコの綺麗な目と、水着が持つ三色のコントラストはまるで黄色いセキレイのようである。


「ツキコちゃんこそっ! 物凄くダイナマイト!」


 そう褒め称えるヒナタも、赤と白のギンガムチェックなビキニタイプの水着を装備していた。ヒナタの均整の取れた健康的で流動的な体を、ビキニの上下両方に設けられたフリルが可愛らしく飾りつけている。スラリと引き締まった脚線美と、フワリとした可愛らしい水着が生み出すそのシルエットは、まるでフラミンゴのようである。


「……むぅ……」


 そんな中クウは嬌羞の情を浮かべて、チラチラと自分と他の二人の姿を見比べている。


 クウは青と黒と白の三色を基調とした、競泳水着に似たデザインの水着を着ていた。ピッタリとした布地がクウの未発達な体を白昼の元に晒し出し、足の付け根からVの字に枝分かれした三色の生地はクウが持つ機動性と、クウが待つクールビューティへの可能性を感じさせた。燕尾服のようにお尻の後ろに垂れた布地からは、ペンギンのような可愛らしさも感じられる。


「クウちゃんはシュッとしてて、かっこいい水着だねっ」


「うんっ、クウちゃんすっごく速く泳げそうー」


 二人とも悪気は微塵も無いのだろう。無邪気にクウの前でジャンプしながら、全身を揺らして褒め称えている。その躍動的な光景は俺にとっては実に眼福なのだが、クウにとっては目の毒でしかない。

 仕方が無い、ここは俺も二人に便乗してクウを慰めてあげようではないか。


「クウ、二人の言う通りだ。お前は水の抵抗が少なくって実に速そっ――――痛たたっ!」


 最後まで言い終わる前に、クウは俺の足をギリギリと踏みつけていた。襲い来る痛みの中で俺は、防護フィールドの中に全身を入れておくべきだったと後悔する。


「隊長、時間が無いんでしょ? 作戦、早く言ってよ」ジトー


「痛たたたたっ! おぅっ、言う言うっ! 作戦伝達なっ!」


 痛めた足の甲を反対の足でさすりながら、俺は端末を覗き込んで説明した。


「はぁ……。それじゃあ作戦について説明するぞ。これから戦う半漁人は、水陸どちらでも速く動けるらしい。だから水中でもそれなりに戦えるように、予め三人には水着タイプの衣装に変身してもらった訳だ」


「弓で攻撃する私も水着に着替える必要があったのー?」


「敵が海の中に入ったら、位置によってはお前も水辺まで寄らなきゃいけなくなる。その時に海に引きずりこまれたらどうしようもないからな。なんせツキコはカナヅチだろ?」


「うんっ!」


 何故か誇らしげにツキコは返事をする。


「水着タイプの衣装は、そんなお前でも泳げるように補正が入っているんだ。普通の魔法少女の衣装だと水中では三分程度しか息が持たないが、水着を着ていれば十分くらいは水中でも活動出来るんだぜ」


「へぇー」


「特にクウの衣装は上昇補正が高くって、あの半漁人よりも速く泳げるみたいだ」


「ふぅん」


 水着の肩紐を少し持ち上げてパチンと鳴らしながら、不思議そうにクウは相槌を打った。持ち上がった肩紐の隙間から、コントラストの違う真っ白な肌がチラリと見える。魔法少女にも日焼けの跡があるらしい。


「んでな、ここからが大事な話なんだが、あの半漁人は人間と同じくらいのサイズの小さい半漁人を何匹か引き連れているらしい。その小さい半漁人達を先に海に放出して、その後に自分も海に出て、一緒に悪さをするのが特徴なんだってさ」


「それじゃあ、小さいのを先に倒せばいいのね?」


「ああ。まずは小さいのを先に倒して、近くの海水浴場に被害が出難いようにするんだ。クウが小さいのを倒している間、ヒナタはでかい方を出来れば陸上で引き付けておく。でかい方が水中に入ってしまうと、多分今の俺達じゃ勝ち目がないからな」


「私はー?」


「ツキコは俺と少し離れた松林の中から、臨機応変に前衛二人を援護するんだ」


「でも敵が水中に入っちゃったら、どうやって弓矢で援護するのー?」


「光弾じゃなく生成ジェネレートした物理的な矢を打つんだ。魔法で矢の貫通力を上げれば、水中の敵にも攻撃が届くと思う。出来るか?」


「うん。やった事ないけど出来そうー」


 自身ありげにツキコはそう言った。


「よし」


「――隊長っ、敵に動きが!」


 ヒナタの声を聞いて、俺は双眼鏡で半漁人野郎の様子を窺う。


「おいおいっ、もう小さい半漁人を海に放出し始めているじゃねぇかっ!」


 慌てて俺は三人に指示を出した。


「クウはこのまま真っ直ぐ海に入って小さい奴等を追ってくれ! ヒナタは松林から磯へ向かって、でかい奴の注意を陸上で引き付けるんだ! ツキコは磯の傍の松林に隠れて二人の援護を!」



「「「了解!」」」



 俺の指示を受け、それぞれが行動を開始した。

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