楽観的使命感 04
それから五分後。鳩野郎の説明が終わった。
「――という事から、今回交戦するのは危険だと思う」
「……ふん。☆一つの蜘蛛と、☆二つの半漁人じゃ、そこまで強さが違うってのか?」
「知能がこの前戦ったウズルズより高いし、君達は水中戦の訓練をやっていないからね。それにネプリフォーリオは電撃に弱いが、ツキコが電撃魔法を飛ばしても水中では電撃が拡散して仲間も危ない。三人とも経験不足な上に、相性があまり良く無いんだ」
鳩野郎の説明には説得力があった。しかし、相性が悪いからといって戦闘を先延ばしにしていいものだろうか?
「だがいずれにせよ、こいつは魔法少女が倒さなきゃいけない敵なんだろ?」
「今回は見送るという事だ。次までに準備を進めればそれでいい」
「見送るなんて簡単に言うけどな……もし俺達が見送ってしまえば、こいつは街に悪い影響を与えちまうんじゃねぇのか?」
鳩野郎は、少しだけこちらの表情を伺うように顔を動かしてから返事をした。
「ああ。しかし、まだ今回は小規模な被害に留まると思う」
「小規模って……どの程度だ?」
「ネプリフォーリオの特性は『深海への誘い』と『予期せぬ混乱』だ。恐らく数日中に、近くの海水浴場付近で一人か二人、海難事故で行方不明になるだろう」
「行方不明?」
「沖に流されて死ぬとか、そんな所だ」
「……やっぱり……人が死ぬのか……?」
「あまり気負わないでくれ。他の魔法少女が倒してくれる可能性だって一応あるんだから」
「他の……? そいつは、どれくらい期待出来るもんなんだ?」
「この地域はカバー率が低いから、まぁ20%程度だろう」
20%。
それは決して座して期待できるような数字では無かった。俺は無言のまま、三人の方へと視線を移した。三人は黙っていたが、暫くするとヒナタが口を開いた。
「私は……隊長の指示に従いますが、出来れば人が死ぬのを見過ごしたくはありません」
ヒナタのその言葉に背中を押されたのか、他の二人も声を出した。
「私も他人任せにしておくのは気が引けるわ。だって今は夏休みなんだから、学校の誰かが海水浴場に行ってるかもしれないのよ? 夏休みが終わって、もし誰かが海で死んでたりしたら、多分私は一生後悔すると思う……」
クウがそう言うと、ツキコもそれに同調した。
「隊長、きっと大丈夫だよ。みんなで力を合わせたら、今までみたいにどんな困難だって乗り越えられると思うから」
三人の意思を確認した俺は、凶悪そうな半漁人の画像を見つめながら熟考する。
戦うべきか。
見送るべきか。
そんな俺に向けて、鳩野郎は再度注意を促した。
「タイト。宇宙生物との戦闘は、君達の自由意志によって選択されるべきだ。それがCのクオリアの性質に沿うからね。しかし、重ねて今回は危険だと警告しておく」
「だからって……救えるかもしれない命を放っておける訳ないだろ?」
「君達は外国の武装勢力が善良な民間人を殺しているからといって、武装勢力のアジトに乗り込んだりはしないだろ? 外国の飢えで死に掛けている子供に、自分達が食料を届けに行くかい? 冷静になって、今の自分達に出来る事を考えるんだ」
「だが、リスクはあっても、何とかこいつを倒せるかもしれないんだろ?」
「十分な時間と作戦があれば今の君達でも勝てる。しかし、今回は急過ぎる」
俺は眉を顰めながら、再び三人の方へと視線を移す。すると三人は、真剣な表情をしたまま俺に向けて深く頷いた。まるで三人とも魔法少女としての使命感に燃えているようであった。
「……俺達は……」
みんなの揺ぎ無い意志を感じ取り、俺はとうとう決断した。
「これから、半漁人と戦う」
俺達の決定を聞いて、鳩野郎は少し残念そうな口調でこう言った。
「……分かったよ。だけど、他人を助ける為に自分達が死ぬかもしれない事だけは、決して忘れないでくれ。後悔してからでは遅い」
鳩野郎の言葉に俺は。
「ああ。分かってるさ……」
とだけ答えた。
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