四章 楽観的使命感
楽観的使命感 01
ここは秘密基地の中。現在俺とヒナタが、ツキコとクウの到着を待っている。
「隊長。二人が来るまで少し時間あるので、私は壁の修理でもしてきますね」
ヒナタの言葉に、俺は秘密基地の外装が傷んでいた事を思い出す。
「おう、腐って穴が空いてた所か。金槌で指まで打たないように気をつけてな」
「はーい」
返事をしたヒナタは工具を持って、調子の良い鼻歌交じりに小屋の外へと出て行った。ヒナタは今日もご機嫌らしい。
初めての宇宙生物退治から、数日が経った。三人は魔法少女に変身する事にも慣れてきたようで、少しずつではあるが、ヒナタやクウもツキコのように、自分の特性を生かした行動が出来るようになってきている。俺はというと、ヘルプソフトを見ながら毎日変身端末の機能について勉強している。三人が魔法少女として武器や魔法を使いこなす努力をしているように、俺は魔法少女の管理者として、この変身端末を可能な限り使いこなさなくてはならないのだ。
「……なになに?」
俺は変身端末の説明文に目を通す。
〈Cについて〉
一次元には起点と終点が存在し、二次元にはx軸とy軸が存在する。このように次元上にある全ての存在には必ず数や形があり、数や形があるが故に無常であり本質的には空である。しかし、Cはどの次元にも数や形を持たず、0次元的であり、計算上の点のようなものである。0次元であるが故に始まる事も終わる事も無く、点であるが故に質量も体積も存在せず、故に全次元において完全に自由である。在るとも言えるし、無いとも言える。それがCである。
〈Cのクオリアについて〉
管理区域内の惑星変動や超新星爆発など、天体現象にフィルタリングワームホールを接続する事によって、s過程、r過程両方の中性子捕獲反応を利用し、複雑な構造を持つ物質を抽出、生成する事が可能となった。しかしまとまった単一物質の生成や複雑な加工を、相対的時間差上で瞬時に行う事は不可能に等しく、それを実現するためには計算上の無限点として『C』が必要となった。『C』をE=M工程や、非物質性が高まる上位次元においても完全に機能させる為には、『C』に『
小難しい言葉の羅列に、俺は首を傾げる。
「……はぁ、全然意味が分からねぇぞ。俺の頭が悪いのか? それとも余程難しい事でも書いてあるのか? 畜生……俺でも分かる実用的な情報はねぇのかよ」
俺は自分にも理解出来そうな項目を探す。
「魔法少女の防護フィールドについて……ふむふむ、この前鳩野郎が説明していた話か。ここなら分かりそうだ」
〈魔法少女の防護フィールドについて〉
ダメージ蓄積による疲労困憊や気絶など、戦闘不能に陥った魔法少女には、管理者同様に排他的防護フィールドが展開される。ただし、魔法少女に展開された防護フィールドは随意性が無く、一度展開されると外からの侵入は勿論、内側から出る事も出来ず、一定時間解除される事が無い。現在この端末によって展開される防護フィールドの上限数は全てを含めて『三つ』に設定されている。また、即死した場合には防護フィールドが展開される事はない。
「……なるほどな。つまり鳩野郎が言ってた通り、三人とも即死級の攻撃を受けなければ、死ぬ事はないんだな……」
『コンコンコンッ』
ヒナタが釘を打ち始めたのだろう、壁の外側から釘を打つ音が聞こえる。俺は小さな窓越しに大工仕事に勤しむヒナタの姿を見つめながら、あいつには一体どういう衣装が似合うのだろうか? と想像する。
ボーイッシュ?
ごつい甲冑?
それとも可愛い服?
意外にも綺麗系か……?
ここ数日、俺は様々な画像データをCのクオリアに読み取らせて、三人に合う衣装を探してきた。しかしデフォルトの衣装はなかなかよく出来ているらしく、これを総合的に超えるような新しい衣装は結局見つけられなかった。
そんな中でも俺は、何とか局所的になら使える衣装を見つけたのだが、それは奇しくも、鳩野郎が宇宙船の中で説明していたように『水着タイプの衣装』であった。特にクウ向けのスポーティな感じの衣装が、水中でのプラス補正が高いらしい。どうして魔法少女なのに水着タイプの衣装を探したのかというと、夏なのであいつ等に着せたかっただけだとか、そういう訳ではあんまりない。
「はぁ……」
俺は軽くため息をついて、再び変身端末に視線をやる。俺の視線の先……変身端末の右上には、またもや【!】マークが表示されていた。それも一つではない。なんと『二つ』である。これは二匹目と三匹目の宇宙生物が、近いうちにこの街に出現する事を示しているのだ。
「……それにしても……早過ぎるだろ……」
表示されている【!】マークの一つ目は黄色で表示されている。
二つ目は緑色だ。
因みに、黄色い【!】マークの場合は二十四時間以内に、緑色の【!】マークの場合は一週間以内に宇宙生物が出現するという意味らしい。俺はまず、黄色い【!】マークをタップして、先に動き出す宇宙生物のデータを閲覧した。
〈生物名〉ネプリフォーリオ
〈危険度〉☆☆
身長は約四・五メートル程度で、水陸を自由に動き回る。泳ぎが得意である事を除けば目立った脅威は無いが、水陸共に移動速度が速く、爪を使った攻撃や、大きな足ビレを使った蹴りは威力もやや高い。
画面には、二本足で立つ巨大な半漁人のような生き物が映し出されている。そう。今回優先して水着タイプの衣装を探したのは、この宇宙生物に対抗する為なのである。
「出現ポイントは街の南にある海水浴場の傍。出現までの推定残り時間は……」
やれやれだ。逼迫した状況に、頭が痛い。
「……あと四時間」
現在の時刻は午前九時。つまり、このネプリフォーリオという半漁人は、推定、午後一時には人間に害を及ぼす状態へと移行する。だから今直ぐ倒しに行くべきか、それとも次のタイミングまで待つべきかを、これから全員で話し合わなければならないのだ。俺はネプリフォーリオに関するデータを閉じて、次に緑色の【!】マークをタップして、三体目の宇宙生物についても調べた。
〈生物名〉ゴルカッソス
〈危険度〉☆☆☆
高さ約二十五メートルの巨大な三つ首竜。独立した三つの首を持ち、それぞれが噛み付き、体当たり、高温水蒸気ブレスなどの得意攻撃を持っている。巨大な尻尾による
この前倒した蜘蛛の☆の数は一つ。次に出てくる半漁人が☆二つだ。そして、更にその次に出てくる予定のキングギドラは☆が三つである。因みにキングギドラは六日と十七時間後に出現する予定のようだ。
「次から次へと……まるでノルマを課せられた中間管理職の気分だぜ……」
俺は終了ボタンを押して、変身端末をカード状態に戻した。
外に出て、気分転換にヒナタの手伝いでもしようと考えたのだ。
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