三章 初めての宇宙生物退治

初めての宇宙生物退治 01

 ここは秘密基地から二キロほど離れた山の中。俺達は鬱蒼と生い茂る雑木林を見下ろせる、見晴らしのいい高台に立っている。


 俺達の視線の先には、木々の間に八本の足を伸ばした巨大な蜘蛛のような不気味な生命体が這いつくばっていた。女郎蜘蛛のようなフォルムをしているが、色は血のような赤とつやの無い黒の縞々模様をしている。昆虫や節足動物が苦手じゃない俺でも気持ち悪いと感じるのだが、意外にも蜘蛛が苦手といっていたクウは平然として敵の様子を観察していた。魔法少女になるとメンタル面も多少強化されるのだろうか。


「……おいおい、本当に馬鹿でかい蜘蛛がいるぞ。人が通ったらマズいんじゃないか?」


「大丈夫だ、地球生物と宇宙生物では存在する次元にズレがある。違う次元に存在するもの同士は基本的には接触出来ないんだ。次元によって活動媒体が全く違うからね。変身した君達は肉体を持ちながらも一時的に上位次元の存在になっているから、特殊な設定をしない限り、地球生物に認識される事も触れられる事も無いよ」


「そうか。急に周りの空気が変わった気がしたのも、上位次元ってのに移動したからなのか」


「ああ。まるで明晰夢でも見ているような錯覚を受けるだろう?」


「それはよく分からんが、そうだな……なんか変な感じがする。夢の中みたいで、現実よりずっとリアリティがあるみたいな……」


「この次元までしか、ほとんどの宇宙生物は降りて来れない。しかし、この次元からは間接的に地球生物に影響を与える事が出来るのさ」


「なるほどな。地球にちょっかい出しに来る宇宙生物を、俺達がこの次元で迎え撃つって訳か」


「察しが良いねタイト。その通りだ」


 今まで分からない事だらけだったが、漸く俺にも魔法少女や管理者の存在意義が掴めてきたような気がした。重苦しい責任感だけでなく、何か使命感のようなものを感じる。


「まぁ、街を守るって目的自体は悪くないな」


「ああ。道中伝えた事を生かして、勝利を導いてくれ」


「分かったよ。……よしっ!」


 俺は大きく息を吸い込んで、三人に指示を出した。


「作戦内容を伝える! まず最初に、ヒナタとクウは林の中を抜けて蜘蛛へと接近するんだ。二人が十分に接近したら、ツキコはこの高台から蜘蛛に向けて矢を放て。蜘蛛が攻撃に気づいてツキコの方を向いたら、ヒナタとクウは二手に分かれて、蜘蛛の両サイドから攻撃開始だ」


 三人は俺の指示に注意深く耳を澄ましている。


「これで敵の注意を三方向に分散させつつ、こちらの攻撃は三人とも被らずに成立するはずだ。安全の為、ツキコは射撃の前にテレパシーで伝達する事。前衛二人はツキコの射線上に入らないように注意する事。以上だ!」


「「「了解!」」」


 三人は声も動きも合わせて、こちらに敬礼した。


「よし、それでは……」


 俺は口角に自信ありげな微笑を含めながら、三人に向けてこう言った。



「『姫結衣魔法少女隊』、作戦開始だっ!」



 俺の掛け声を聞いた三人は、小学生の頃のような希望に満ちた朗らかな表情で返事をした。


「「「おーーっ!」」」

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