魔法少女に大変身! 06

 ツキコとヒナタをクウから引き剥がして落ち着かせると、俺はみんなを横一列に整列させる。


「どうだ? 全員何ともないか?」


 俺の質問に、ツキコが返事をした。


「あのね、私ってば変身した直後から、少しキーンって感じがするのー」


「……ひょっとして、耳鳴りみたいな感じか?」


「うん。なんだか金縛りにあったみたいな感じー」


 どうやらツキコも俺と同じ違和感を覚えているようだ。最初にヒナタを変身させた辺りから、世界が張り詰めているような、不思議な感覚がずっと続いているのだ。


「ふむ。他の二人はどうだ?」


「はいっ! 変身してから少し、周りが静かになったような気がします!」


 ヒナタの感想に、クウも同調する。


「確かに。変身してから静かになった気がするわね」


 変身によって能力が高まった魔法少女特有のものだろうか?しかし、それなら何か特別に能力が上がる訳ではないはずの俺が、違和感を覚える理由が分からない。


「……まぁ、この辺は後々鳩野郎に聞いてみるか」


 俺は顔を上げて、これから何をするのかを三人に伝えようと思った。


「おし。それじゃあとりあえず、魔法少女に変身したお前達にどれくらいの事が出来るのか、今からチェックしていきたいと思う」


「チェックー? どうするのー?」


「うむ。とりあえずは飛んだり走ったりだな。変身端末には地図機能があってな、周辺の地図とお前達がどこに居るのかを、かなり正確に把握出来るんだ」


「へぇー」


「それを確認しながらお前達がどこまで移動したのかを計測……ん? なんだこりゃ?」


 俺は説明しながら端末を覗き込んだのだが、画面の右上に今まで無かった【!】マークが黄色い背景と共に表示されていた。


「ちょっと待っててくれ。何かよく分からない表示が出ているから確認してみる」


 俺がその黄色い【!】マークの所をタップしてみると、新しいウインドウと共に、様々なデータが一斉に表示された。


「うおっ、なんだこれは? この周辺の地図に……なんだこの赤い×印は?」


 俺が意味不明な表示に困惑していると、突如、聞き覚えのある声が頭に響いた。



「――タイト、聞こえるかい?」



 この声は……鳩野郎だ。

 三人にもこの声が聞こえているらしく、不思議そうに顔を見合わせている。


「ああ、鳩野郎だな?」


「そうだ。まずは三人とも無事に魔法少女に変身出来たようだね。おめでとう」


「ああ、今の所は問題なさそうだ。ところで聞きたい事がある」


「端末に出ている警告表示の事だろう?」


 どうやら鳩野郎も、この表示のことを把握しているらしい。


「多分そうだ。こりゃ一体なんなんだ?」


 俺の質問に、少し間を置いてから鳩野郎は答えた。


「いきなりになってしまったけど、今から君達に戦ってもらいたいんだ」


 鳩野郎の言葉を聞いて、三人が驚いたような仕草を見せている。


「――はぁ? おいおい、こいつ等は今さっき変身したばっかりなんだぞ? 戦い方なんて分かる訳がないだろっ?」


「大丈夫だ。変身した君達の基礎能力値は、我々が計算していた以上のようだ。余程変な事をしない限り、この戦いは勝てるだろう」


「……それは本当だろうな?」


「ああ、我々も大事な魔法少女を無駄に損耗させる気はない」


 その鳩野郎の言い回しが引っかかったのか、俺は一瞬自分の髪が逆立つような感覚を覚えた。


「おい、こいつ等を物みたに言うんじゃねぇ。焼き鳥にすんぞ」


 俺の感情の高ぶりを察したのか、鳩野郎はすぐに謝罪する。


「ふむ。これはすまない」


 俺は軽く息を吐き、気持ちを落ち着かせてから会話を続けた。


「……とりあえず、相手は何なんだ?」


「この街に、地球外生命体が発生しかけているという話は覚えているかい?」


「ああ、勿論だ」


「今、この街に発生しかけている宇宙生物の数は三体。その中で最も弱い奴が、君達が今居る山の近くで活動しようとしている」


「この近くだと……? もしそれを放置したらどうなるんだ?」


「今はまだそれほどではないだろうが、街に様々な形で被害をもたらすだろう」


 俺は変身したての三人を見渡しながら、鳩野郎に確認する。


「……こいつ等を、もう少し魔法少女に慣らしてからじゃ駄目なのか?」


「それでも構わないが、恐らく敵は数時間以内に最初の活動を開始する。今回の活性が静まったら、また次の活性周期まで姿を消してしまうだろう。そして次に出てくる時には、より活性化が進んでいて被害も大きくなる」


「一体どんな被害が出るんだ?」


「我々が持っている情報から分析すると、この生命体が地球生物にもたらす被害は『単体の惨殺』『不特定多数の足止め』だ」


「……惨殺……足止め……」


「ああ。今回の活動期を見送った場合、小数ながらも死人が出る可能性は高いだろう」


 死人……。自分達が戦わなければ、死人が出る。今まで背負ったことの無い、そしてこれからも一生背負うことはないと思っていた強烈なプレッシャーに、俺は鳩尾みぞおちの辺りがギュウと縮むような感覚を覚えた。


「……ちっ……。それじゃあ、戦うしかなさそうじゃねぇか……」


「そう理解してもらえると助かるよ」


 俺は心配そうにこちらを見つめている三人に、テレパシーを使って尋ねた。


「話は聞いていたな。お前達はどう思う?」


 三人は互いに視線を合わせあった後で、同じくテレパシーを使って返事をした。


「隊長、私はいけます」


「ちゃんと宇宙人さんが戦い方を教えてくれるんなら、多分大丈夫じゃないかなー?」


 ヒナタとツキコは、いきなりの戦闘にも関わらず前向きのようだ。


「クウ、お前はどうだ?」


「どうって……この二人が行くなら私も行くしかないでしょ? もし二人に何かあったら、どの道私は生きていけないわ」


 クウがテレパシーでそう返事をした直後、それを取り囲むヒナタとツキコが目をキラキラと輝かせながらクウの事を見つめていた。クウはキョトンとした表情で、二人の反応を見て戸惑っている。


「……あっ、あれ?」


 そして二人はさも嬉しそうな表情をして、再びクウに両サイドから抱きついた。


「クウちゃん! 私も一生大事にするからねっ!」


「くぅーちゃーん。私もクウちゃん無しじゃ生きられないよー」


「ちょっと、隊長にだけテレパシーを送ったつもりだったのにっ――。こらっ、もうくっつかないでっ」


 この二人ほんとクウが好きだな。何はともあれ、三人全員の同意は得られたようだ。とすると、後は俺の心構え次第か……。俺は軽く深呼吸をしてから返事をした。


「分かった。鳩野郎、指示をくれ」


「協力ありがとう。では作戦会議を始めようか。まずは小屋の中へ移動してくれ」


 俺達は鳩野郎の指示通り、秘密基地の中へと移動した。

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