魔法少女に大変身! 05

 秘密基地の外に出てから、俺は三人に尋ねた。


「さて、誰から最初に変身したい?」


「はいっ!」


 俺の質問に、間髪を容れずにヒナタが手を上げた。


「えーっ、ヒナタちゃんずるいー」


「えへへー。私がいっちばーん」


 ツキコが悔しがっているようだが、俺は一番乗り気に見えるヒナタを、まず最初に変身させることにした。


「よし、それじゃあヒナタから始めるぞ。念の為にみんな、俺やヒナタから離れているように」


 指示を受けて、ツキコとクウが俺達から距離を置いた。


「それじゃ、始めるぞ」


 俺は画面にタッチして衣装フォルダを開き、用意されている衣装ファイルを、ヒナタのシルエットの上にドラッグ&ドロップした。すると。


 衣装データを生成しますか? 『可』 『否』


 という表示が出たので、俺は可の所をタップする。

 その直後、ヒナタが驚いたように声を出した。


「おおっ! 隊長っ! 本当に目の前に文字が出てきました!」


 ヒナタからは本当に文字が浮かんで見えているようだ。鳩野郎は人類の技術水準に合わせていると言っていたが、これって十分にオーバーテクノロジーのような気がするのだが……。まぁ、それを言ったら変身機能もテレパシーもそうか。

 そんな事を考えながら、俺はヒナタに指示を出す。


「よしっ。変身の準備が出来ているなら『可』を押すんだ」


「はいっ!」


 ヒナタは期待に満ち溢れた表情で、そっと人差し指を伸ばした。すると――。


『シュゥゥゥゥッー!』


 という音と共に、ヒナタの全身が純白の光の渦に覆われていく。

 次第にその光の渦は赤い色に染まっていき、そして。



『パアァァァンッッ』



 何かが弾けるような音と共に光は弾け飛び、キラキラと光の粒子が舞い散る中で、早くも変身を終えたヒナタが姿を現した。変身を終えたヒナタは、不思議そうに周囲をキョロキョロと見渡している。


「あれ? 変身……終わりました?」


 そう尋ねるヒナタの姿は。


「――わあぁっ! ヒナタちゃん可愛いぃ!」


 まさしく、魔法少女そのものであった。ツキコが声と諸手を上げて、ヒナタの下へ駆け寄っていく。


「わっ、可愛い……」


 クウもヒナタに歩み寄りながらそう零した。


「ねぇねぇ、ツキコちゃん、私ってちゃんと魔法少女になれてる?」


「なれてるなれてるー! 物凄く可愛いよっ!」


「えへへ、本当に? 自分じゃよく見れないなぁ」


 変身を終えたヒナタは、赤をベースとして所々にフリルの着いた、可愛らしくも動きやすそうな衣装を身に着けていた。カンフー娘といった所だろうか。ふわりと膨らんだ袖口や、かぼちゃのように膨らんだショートパンツが、ヒナタの活動的なイメージに合っている。


「すげぇ……本当に変身したぞ。ヒナタ、どんな感じだった? 体は何とも無いか?」


 俺の質問に、ヒナタは不思議そうな表情で言った。


「えっと、体は全然大丈夫です。変身がどんな感じだったかって言うと……自分の中から何かがやって来る感じがしたんですけど、それは自分の中なのに、凄く遠くからやって来たような気がしました。それからフワッとしてて柔らかいけど、強度はしっかりした感じの服が靴下、インナー、手、足、頭、アウター、武器の順番で装備されていったような感じです」


 自分の中から来るのに遠くからやって来たというのは、一体どういう感覚なんだろうか。柔らかいけど強度がある服というのは、宇宙船の中で俺を後ろ手に縛っていた手錠の感覚に似てそうだ。


「……順番に装備されたのか? 外からは、ちょっとの間光ってたようにしか見えなかったんだけどな」


「そうですか? 結構時間かかっていた気がしましたよ?」


 変身する時の体感時間が、光の内側と外側とでは違うのだろうか? そんな疑問を抱きながら、俺は次に誰が変身するのかを尋ねる。


「それじゃ、次は誰が変身する?」


「はーいっ!」


 予想通りというか、ツキコが溌剌と手を上げた。


「それじゃ、ツキコはヒナタが今立っている所へ、ヒナタはクウの所で見ていてくれ」


「「はーい」」


 ヒナタとツキコは声を揃えて元気に応える。二人は楽しげにハイタッチして場所を入れ替わった。


「それじゃ、準備はいいか? 装備させるぞ」


「うんっ!」


 俺はツキコのシルエットの上に衣装ファイルを重ねて、確認画面で『可』を押す。


「わっ、本当に文字が出てきたー。えっと『可』……っとー」


 ツキコが手を伸ばした直後、ヒナタの時と同じように。


『シュゥゥゥゥッー!』


 という音と共に、ツキコの全身が純白の光の渦に覆われていった。次第にその光の渦は黄金色に染まっていき、そして。



『パアァァァンッッ』



 弾けるような音と共に、キラキラと光の粒子が舞い散る中で、変身を終えたツキコが姿を現した。


「わぁぁー、ほんとだー。凄く不思議な感じー」


 変身したツキコは、黄色をベースとしてフリルが付いたいかにもお嬢様といった上品で可愛らしい格好をしている。短いマントのように首から肘辺りまでを覆う肩掛けや、短いプリーツスカートの上に重ね着された、前の部分だけが開いたロングスカートが特徴的で、そこから見えるレース入りのニーハイソックスには貴族的な美しさと、少女らしい可憐さが同居していた。


「ツキコ、何とも無いか?」


「うんっ。さっきヒナタちゃんが言ってた通りだったよー」


 柔らかい笑顔を見せるツキコに、ヒナタが駆け寄った。


「ツキコちゃん可愛いー! ぷりちーと言うより、びゅーてぃふぉーだよー。元々髪が綺麗だから、外国のお人形さんみたいっ!」


「お人形さん? えへへへー照れちゃうー。ねぇねぇ、クウちゃんどう? 私似合ってる?」


 ツキコに意見を求められたクウは、次が自分の番だという事を意識してか、おずおずと視線を泳がせながら問いかけに答えた。


「う、うん。似合い過ぎてて現実味に欠けるくらいだわ……。こんなに二人とも可愛くなるなんて……私やめとこうかな……」


「何言ってるのーっ! クウちゃんがメインなんだからね! 隊長つぎつぎーっ!」


「つぎつぎー!」


 ツキコの呼びかけにヒナタも便乗している。


「ちょっ、ちょっと……」


 クウは二人に背中を押されて、定位置についた。


「それじゃ、次はクウな。二人とも俺やクウから離れとけよ」


「「はーいっ」」


 二人が離れた後も、まだクウは戸惑うようにして髪を弄っている。


「それじゃ、装備させるぞー」


 俺は再び同じ手順で、クウのシルエットの上に衣装ファイルを重ねた。


「うわぁ……本当に文字が出て来たわ……」


 クウは二人と同じように、突然目の前に浮かび出た文字に驚いている。クウは少しの間躊躇っていたが、暫くすると意を決したように人差し指を伸ばした。その直後――。


『シュゥゥゥゥッー!』


 という音と共に、クウの全身が純白の光の渦に覆われていった。

 次第にその光の渦は青い色に染まっていき、そして。



『パアァァァンッッ』



 キラキラと光の粒子が舞い散る中で、変身を終えたクウが姿を現した。


「……お……終わったの……?」


 そう零すクウの格好は――。


「――やっ、やだっ! クウちゃんずるいっ! ずるいくらい可愛いっ!」


「――なんですかこりゃー! すっごい可愛いよっ! これこそ魔法少女だよっ!」


 極めて可愛らしい魔法少女だった。それを見た二人は一気に駆け寄る。


「え……そう? ――やっ、やめっ、ちょっと二人ともくっ付き過ぎだってっ!」


「くぁわいぃー。妹にしたいよー。娘でもいいよー」


「くぅーちゃーん。くぅーちゃーん」


「こ、こらっ! マフラーを引っ張らないでっ!」


 二人が抱きつくクウのその姿は、その少女らしい体形も手伝ってか、まさしく魔法少女そのものであった。空色そらいろをベースにしたその衣装は、雲のように白くて大きなマフラータイプの布と、長く伸びている空色の腰布がふわふわとなびく事によって、爽やかかつ躍動的な印象を与えている。口元がマフラーによって隠れているのもまた、二人とは違った趣を感じさせた。


「クウ、どうだった? 大丈夫か?」


 そう質問する俺の声も、ツキコとヒナタのはしゃぐ声によってかき消される。


「くぅーちゃん、かわいいー」


「可愛いー、可愛いーよー、世界で一番可愛いーよー」


 ひたすら可愛いを連呼する二人。二人に抱きつかれて困惑するクウ。そんな中何を思ったのか、ヒナタはクウを挟んでツキコに質問し始めた。


「ねぇねぇ、ツキコちゃん、私は私はー? クウちゃんが世界で一番なら、私は世界で何番目くらいかなっ? かなっ?」


 ヒナタの答え難いそうな質問に、ツキコは考える素振りを見せる。


「うーん、ヒナタちゃんはー、そうだねー……」


「……わくわく、わくわく……」


 胸を躍らせ待機するヒナタに向けて、ツキコは自信満々な表情で答えた。


「ずばりっ! クウちゃんの次にかわいいよっ!」


「うっひょー! 事実上の世界一位じゃないですかーっ!」


 どうやら二人にとって、クウは別格らしい。

 続いてツキコがヒナタに同じ質問をしている。


「ねぇねぇ、それじゃあヒナタちゃんー。私は世界で何番目ー?」


「うーん、ツキコちゃんはー……」


「……わくわく、わくわく……」


「ずばりっ! クウちゃんの次にかわいいっ!」


「やったー! 私も事実上の世界一位だーっ!」


 どんな茶番劇だよ。

 勝手に盛り上がっている二人の横で、ただただクウは困ったような顔をしていた。


「どうしたらいいの……これ……」


 クウは沢山の手で撫で繰り回される子犬のような視線を向けて、こちらへ助けを求めてくる。しょうがないので、俺はクウにテレパシーで呼びかけてみた。


「聞こえるか?」


 少し驚いた後で、クウは返事をした。


「――う、うん。私のは?」


「ああ。ちゃんと聞こえるぜ」


「そう……ちゃんと私もテレパシー使えるんだね」


「おう。体は何とも無いか?」


「うん、平気。なんだか凄く軽くなったみたい」


「そうか、そりゃ良かった」


 俺がそう言って安心していると、クウは俺にも確認を求めてきた。


「ねぇ、隊長」


「なんだ?」


「私……本当に変じゃない?」


「ん? 変って何が?」


「……格好とか……」


 相変わらず、自分に対して自信が持てない性格らしい。俺はクウを安心させるようにはっきりと言った。


「ああ。大丈夫だ、すげぇ可愛い。似合ってるぜ」


 質問に対して俺がそう答えると、それ以降、クウから返事は返ってこなくなった。


「あれれー? クウちゃん服は青いけど顔は赤いよー?」


「あーっ、赤は私の色なんだよー」


 二人に囲まれて、一層の事クウは小さくなっていた。

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